[スポンサーリンク]

ケムステニュース

グリーンイノベーション基金事業でCO2などの燃料化と利用を推進―合成燃料や持続可能な航空燃料などの技術開発に着手―

[スポンサーリンク]

NEDOはグリーンイノベーション基金事業の一環で、「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」(予算総額1145億円)に着手します。本事業では合成燃料や持続可能な航空燃料、合成メタン、グリーンLPGといった二酸化炭素(CO2)などを原料とするカーボンリサイクル燃料の製造技術開発と、その社会実装に向けた取り組みを行うことで、2050年のカーボンニュートラルの実現に貢献します。 (引用:NEDOニュースリリース4月19日)

今年の3月にグリーンイノベーション基金事業CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発に関する採択結果をケムステニュースにて紹介しましたが、4月にCO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクトの採択結果が発表されましたので詳細を見ていきます。

  • 【研究開発項目1-[1]】液体燃料収率の向上に係る技術開発:CO2からの合成反応を用いた高効率な液体燃料製造技術の開発
  • 【研究開発項目1-[2]】燃料利用技術の向上に係る技術開発:乗用車および重量車の合成燃料利用効率の向上とその背反事象の改善に関する技術開発
  • 【研究開発項目2】持続可能な航空燃料(SAF)製造に係る技術開発:最先端のATJ(Alcohol to Jet)プロセス技術を用いたATJ実証設備の開発と展開
  • 【研究開発項目3】合成メタン製造に係る革新的技術開発:SOECメタネーション技術革新事業/低温プロセスによる革新的メタン製造技術開発
  • 【研究開発項目4】化石燃料によらないグリーンなLPガス合成技術の開発:革新的触媒・プロセスによるグリーンLPガス合成技術の開発・実証

液体燃料収率の向上に係る技術開発:CO2からの合成反応を用いた高効率な液体燃料製造技術の開発

実施予定先:ENEOS

モビリティ分野からのカーボンニュートラルとして電気自動車が大きく注目を浴びていますが、合成燃料も重要なテーマです。具体的に合成燃料は再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素から合成した液体燃料を指し、原料製造から製品利用までの製品ライフサイクル全体においてカーボンニュートラルな燃料となります。実際、液体燃料は、一定の体積・重量に含まれるエネルギー量で比べると電池より大きいことが特徴であり、また既存の燃料インフラを活用できるため、電動化にはないメリットがあります。

合成燃料(出典:ENEOSプレスリリース

ENEOSでは、本プロジェクトにおいて合成燃料製造プロセスにおける収率向上に取り組み、最終的には、液体燃料の収率を80%以上に向上させることを目指します。具体的にはCOをCO2とH2から合成する逆シフト反応と、COとH2から液体炭化水素を合成するFT反応で使用する触媒の開発を行い、さらに製油所に新たに建設するパイロットプラントで製造プロセス条件の最適化を実施し、2040年ごろまでに商品化を目指すそうです。

燃料利用技術の向上に係る技術開発:乗用車および重量車の合成燃料利用効率の向上とその事背反事象の改善に関する技術開発

実施予定先:自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)

AICE (Research association of Automotive Internal Combustion Engines) はその名の通り、自動車エンジンの技術開発を行っている団体で、いすゞ自動車株式会社、スズキ株式会社、株式会社SUBARU、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、マツダ株式会社、三菱自動車工業株式会社、国立研究開発法人産業技術総合研究所、一般財団法人日本自動車研究所が組合員となっています。2014年の設立以来、委託研究や共同研究で内燃機関の効率を上げたり、環境負荷を下げる成果が発表されています。

本プロジェクトでも内燃機関を持つ自動車に対して研究が行われ、ハイブリッド車に対して、走行中に発生するCO2排出量を2分の1以上削減することと大型商用車に対して最高熱効率55%超、CO2排出量を4分の1以上削減する技術の開発を目標として、エンジン熱効率などに取り組むそうです。

二酸化炭素削減目標と改善課題、左がガソリン車で右が商用車(出典:NEDOニュースリリース

持続可能な航空燃料(SAF)製造に係る技術開発:最先端のATJ(Alcohol to Jet)プロセス技術を用いたATJ実証設備の開発と展開

実施予定先:出光興産

航空分野におけるカーボンニュートラルでは、SAF (Sustainable Aviation Fuel)が大きな期待が寄せられており、各社SAFを使用した飛行が活発に行われています。いろいろなSAFの製造方法がある中、出光興産ではエタノールの脱水によりエチレンを合成し、それを重合、水素化することでJET燃料を合成する製造プロセスの確立に取り組みます。具体的な目標は、収率50%以上かつ製造コストを100円台/Lにすることで、2026年度からの供給開始を目指します。

合成メタン製造に係る革新的技術開発:SOECメタネーション技術革新事業

実施予定先:大阪ガス

メタネーションとは水素と二酸化炭素からメタンを合成する技術であり、電気分解で水からH2を発生させ、そこに二酸化炭素を加えて触媒存在下で高温高圧状態にするとメタンと水が発生します。大阪ガスではSOEC (Solid Oxide Electrolysis Cell)による高温電気分解とCOとH2を原料とした発熱メタン合成を組み合わせて従来のメタネーションよりも効率よく合成する技術の開発に取り組んでいます。

本プロジェクトでは、超高効率(85%~90%)のメタン合成を実現するためにSOECとメタン合成反応制御の開発に取り組み、2030年までには400Nm3/h規模のメタンを合成できるパイロットスケール試験を行うとのことです。

従来技術との比較(出典:大阪ガスプレスリリース

合成メタン製造に係る革新的技術開発:低温プロセスによる革新的メタン製造技術開発

実施予定先:東京ガスAISTIHIJAXA

こちらのプロジェクトもメタン合成に関連するテーマですが、異なるアプローチの取り組みになります。本プロジェクトでは、二つのメタン合成技術を発展させて既存技術を上回る効率を目指します。一つ目は、ハイブリッドサバティエ技術と呼ばれるもので、PEM (Polymer Electrolyte Membrane)による水の電気分解とサバティエ メタネーションを並列で行う方法です。お互いから発生する水素と熱を活用できるため、高効率が可能になります。この技術について東京ガスはJAXAと協業し、スケールアップとその最適化によりエネルギー変換効率75%を目指すそうです。

もう一つはPEMCO2還元技術であり、電気化学還元によって二酸化炭素を直接メタンに変換することができます。本プロジェクトでは、メタン選択性の向上と過電圧の低減により、エネルギー変換効率62%を目指します。

化石燃料によらないグリーンなLPガス合成技術の開発:革新的触媒・プロセスによるグリーンLPガス合成技術の開発・実証

家庭や工場などで使われているLPガスは海外から調達していますが、海外情勢に左右されず、またカーボンニュートラルに貢献するために国内で化石燃料によらないグリーンなLPガスを製造する研究が進んでいます。キーとなるのは二酸化炭素とメタンから一酸化炭素と水素を合成する反応で、古河電気と北海道大学では長寿命な触媒(ラムネ触媒)の開発に成功しています。

触媒が多孔質材料内部に固定される姿がラムネの瓶に似ていることから,ラムネ触媒™と名付けられた(出典:北海道大学プレスリリース

本プロジェクトでは北海道大学と静岡大学と協業し、このラムネ触媒を使ったプロパンやブタンの合成において性能を向上させると同時に反応メカニズムを解明し生成率 50 C-mol%以上を目指します。そして最終的には年間1000t製造する技術の実証を2030年に完了させるそうです。

採択された課題のほとんどは各社が長年取り組んできた課題であり、関連するプレスリリースが多く発表されています。そんな有望な技術に対して、このプロジェクトでは具体的な収率目標などを示し、技術の早期実用化を後押しされていることが概要から読み取ることができます。この燃料製造技術はグリーンな発電技術と競い、そして電気で代替が難しい分野をカバーすることが可能であり、社会全体でカーボンニュートラルに取り組むためには重要なテーマだと思います。採択された各課題の実用化に期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4781315682″ locale=”JP” title=”水素エネルギーの開発と応用《普及版》 (地球環境シリーズ)”] [amazonjs asin=”4781316255″ locale=”JP” title=”微生物を用いた発電および水素生産 (バイオテクノロジーシリーズ)”]

カーボンニュートラルに関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. スイス医薬大手のロシュ、「タミフル」の生産能力を増強へ
  2. カネカ 日本の化学会社初のグリーンボンドを発行
  3. 第54回国際化学オリンピックが開催、アジア勢が金メダルを独占
  4. CAS番号の登録が1億個突破!
  5. 化学・バイオつくば財団賞:2研究が受賞 /茨城
  6. 界面活性剤のWEB検索サービスがスタート
  7. 島津、たんぱく質分析で新技術・田中氏の技術応用
  8. トムソン・ロイター:2009年ノーベル賞の有力候補者を発表

注目情報

ピックアップ記事

  1. ランディ・シェックマン Randy Schekman
  2. 水晶振動子マイクロバランス(QCM)とは~表面分析・生化学研究の強力ツール~
  3. 分子は基板表面で「寝返り」をうつ!「一時停止」蒸着法で自発分極の制御自在
  4. 玉尾皓平 Kohei Tamao
  5. ESI-MSの開発者、John B. Fenn氏 逝去
  6. 還元的アルドール反応 Reductive Aldol Reaction
  7. 第54回「光を使ってレゴブロックのように炭素と炭素を繋げる」吉見 泰治 教授
  8. 原子一個の電気陰性度を測った! ―化学結合の本質に迫る―
  9. 糖のC-2位アリール化は甘くない
  10. 第一回 人工分子マシンの合成に挑む-David Leigh教授-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年5月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP