国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」プロジェクトに係る公募を実施し、実施予定先を決定いたしました。本事業では、2050年カーボンニュートラルの目標達成に向け、日本が高い競争力を持つカーボンリサイクル技術を活用し、「CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」に係る、以下の事業に取り組みます。
- 【研究開発項目1】ナフサ分解炉の高度化技術の開発
- 【研究開発項目2】廃プラ・廃ゴムからの化学品製造技術の開発
- 【研究開発項目3】CO2からの機能性化学品製造技術の開発
- 【研究開発項目4】アルコール類からの化学品製造技術の開発
(引用:NEDO採択結果2月18日)
2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げました。2050年を迎えるまでは28年もあるものの、温室効果ガスの排出を実質ゼロはハードルがかなり高い目標で、そう簡単に実現できるものではありません。そのため、国としては民間企業がこの高い目標に挑戦しやすい環境を作ることが必要だと考え、グリーン成長戦略を発表しています。グリーンイノベーション基金はその政策の一つであり、重点分野に対して最長10年間の長期的な支援を行うものです。
グリーンイノベーション基金事業の概要
- 支援対象:グリーン成長戦略の実行計画を策定している重点分野において、野心的な2030年目標(性能、コスト、生産性、導入量、CO2削減量等)を目指すプロジェクト。
- 対象事業者:社会実装までを視野に入れた事業であるため企業等が対象。中小・ベンチャー企業の参画も促進、大学・研究機関の参画も想定。
- プロジェクト期間:最長10年間。研究開発・実証から社会実装まで長期間にわたる継続的な支援が必要である野心的な取組を支援することに主眼があることから、支援が短期間で十分なプロジェクトは対象外。
- プロジェクト規模:従来の研究開発プロジェクトの平均規模(200億円程度)以上が主な対象と設定。ただし、新たな産業を創出する役割等を担う、ベンチャー企業等の活躍が見込まれる場合、この水準を下回る小規模プロジェクトも実施可。
- 支援スキーム:プロジェクトには国が委託するに足る革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが必要。また、プロジェクトの一部として補助事業も実施し、補助率等は取組内容に応じて設定。
- 特徴:取組状況が不十分な場合の事業中止・委託費の一部返還や、目標達成度等に応じて国費負担割合が変動する、成功報酬のようなインセンティブ措置の導入
プロジェクトはスタートしており、第一弾の大規模水素サプライチェーンの構築の採択結果が昨年の8月に発表され、すでに活動が始まっています。そして今回、化学業界として関心が高いCO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発の実施予定先が決定しました。研究開発項目は4つあり、それぞれにテーマと実施予定先が割り振られていますので以下で詳細を見ていきます。
ナフサ分解炉の高度化技術の開発:アンモニア燃料のナフサ分解炉実用化
実施予定先:三井化学、丸善石油化学、東洋エンジニアリング、双日マシナリー
エチレンやプロピレンといったプラスチックの原料は、ナフサを熱分解し蒸留して得られます。熱分解には750℃から850℃といった高温が必要で、プラントの分解炉ではメタンを主燃料として加熱しています。メタンを燃焼させれば当然二酸化炭素が発生するので、本プロジェクトでは二酸化炭素が発生しないアンモニア燃料でのナフサ分解炉の実用化を目指します。
廃プラ・廃ゴムからの化学品製造技術の開発:使用済タイヤ(廃ゴム)からの化学品製造技術の開発
実施予定先:ブリヂストン、ENEOS
車のタイヤは永久には使えず、すり減ってきたら交換しますが、その廃タイヤは現状、切断又は破砕加工後に燃料として使われることが多いようです。タイヤを燃料として燃やせば二酸化炭素が発生するため、本プロジェクトではタイヤからタイヤの原材料に戻す方法を研究します。具体的には、ブリヂストンが廃タイヤの油化を、ENEOSがそれを精製/軽質化し化学品変換を行うようです。
廃プラ・廃ゴムからの化学品製造技術の開発:炭素資源循環型の合成ゴム基幹化学品製造技術の開発
実施予定先:日本ゼオン、横浜ゴム
自動車が電動化してもタイヤは依然として必要なわけであり、タイヤ需要は増加することが予測されています。そこで、本プロジェクトでは①使用済タイヤや植物原料由来などのエタノールをブタジエンへ高効率に変換する技術と②ゴム・タイヤリサイクル循環における合成ゴム基幹化学品を補完するため、植物原料からブタジエンとイソプレンを直接生産するバイオ技術を開発します。
関連ケムステ過去記事:バイオマスからブタジエンを生成する新技術を共同開発
廃プラ・廃ゴムからの化学品製造技術の開発:廃プラスチックを原料とするケミカルリサイクル技術の開発
実施予定先:住友化学、丸善石油化学
廃プラスチックを燃やすのではなくもう一度プラスチックに戻す研究は、現在盛んに研究がなされています。本プロジェクトでは具体的に、①廃プラスチックの直接分解によるオレフィン製造と②廃プラスチック由来合成ガスを用いたエタノール製造に取り組みます。①のオレフィン製造について、住友化学では、効率性・安定性の高い反応プロセス開発を行い、丸善石油化学では基礎化学製品の原料の分離・精製に関する検討や副生油の品質確認を行います。②のエタノール製造では、触媒の開発を住友化学と産総研が共同で実施し、プロセスの開発とその実証は住友化学が行います。
CO2からの機能性化学品製造技術の開発:CO2 を原料とする機能性プラスチック材料の製造技術開発
実施予定先:東ソー、三菱ガス化学
ポリカーボネートやポリウレタンを合成する際にはホスゲンが使われていますが、これを二酸化炭素に置き換えてCO2 排出量の削減することを目指すのが本プロジェクトです。
CO2からの機能性化学品製造技術の開発:多官能型環状カーボネート化合物の大量生産工程確立および用途開発
実施予定先:浮間合成
浮間合成は⼤⽇精化⼯業のグループ会社であり、ポリマー&コーティング事業を担っています。上記同様にポリウレタン樹脂のモノマー合成には、ホスゲンが使われていますが、それを二酸化炭素に置き換える研究を行います。
アルコール類からの化学品製造技術の開発:人工光合成型化学原料製造事業化開発
実施予定先:三菱ケミカル、人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)、三菱ガス化学
本プロジェクトには①グリーン水素(人工光合成)等からの化学原料製造技術の開発・実証と②CO2からの基礎化学品製造技術の開発・実証の二つが含まれており、①ではARPChemを中心に光触媒で水から水素を製造することを目指します。②では水素と二酸化炭素からメタノール、さらにはオレフィンを合成することを目指します。
アルコール類からの化学品製造技術の開発:CO2等を原料とする、アルコール類及びオレフィン類へのケミカルリサイクル技術の開発
実施予定先:住友化学
上記同様に二酸化炭素と水素を原料にエタノールやメタノールなどのアルコール類を高効率で製造する触媒およびプロセスの開発とその実証に取り組みます。また、そのエタノールを原料にプロピレンをはじめとするC3以上のオレフィン類を高収率で製造する触媒およびプロセスの開発とその実証にも取り組みます。
プロジェクトの内容と実施先を一通り見てみましたが、昨今頻繁に話題となるトピックが全て網羅されている印象を受けました。実施先についても大手化学メーカーが数多く名を連ねており、日本の技術力を結集したプロジェクトになるようです。企業同士が協力し合う場合もあれば、似たようなテーマを別のプロジェクトとして実施する場合もあり、グリーンイノベーション基金事業内で協力だけでなく競争もあるかもしれません。
グリーンイノベーション基金事業ではこのCO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発以外のプロジェクトもあり、先陣を切って始まった大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクトでは、ENEOSや岩谷産業などが、次世代型太陽電池の開発では、積水化学、カネカなどが化学企業として参画しています。また、次世代蓄電池・次世代モーターの開発やCO2の分離回収等技術開発、CO2等を用いた燃料製造技術開発などは、公募が始まったところであり、これから実施先が決まってプロジェクトがスタートするようです。各企業ぜひこのプロジェクトを通して世界を変えるイノベーションを実用化し日本の成長につなげてほしいと思います。
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- 「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発」に係る実施体制の決定について
: NEDOニュースリリース - 2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました:経済産業省ニュースリリース