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第13回化学遺産認定~新たに3件を認定しました~

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公益社団法人日本化学会(小林喜光会長)は化学遺産に新たに3件を認定いたしましたので、以下の通りお知らせいたします。なお、3月19日 (土) 13:30 – 15:30にはオンラインZoomにて無料の市民公開講座を開催いたします。こちらもぜひご参加ください。 (引用:2月3日日本化学会お知らせ)

日本化学会では、化学と化学技術に関する貴重な歴史資料の保存と利用促進を目的として、化学遺産委員会を設定し、毎年化学遺産の認定を行っています。今年は、下記の3点が化学遺産に認定されましたのでそれぞれについて少し紹介させていただきます。

  • 認定化学遺産第058号 日本の放射化学の先駆者 飯盛里安のIM泉効計(所 蔵:国立研究開発法人 理化学研究所)
  • 認定化学遺産第059号 日本の科学技術文献抄録誌の先駆け:『日本化学総覧』(所 蔵:公益財団法人日本化学研究会)
  • 認定化学遺産第060号 日本の合成香料工業創成期の資料(所 蔵:高砂香料工業株式会社)

まず第58号で認定されたIM泉効計(アイエムせんこうけい)についてですが、これは温泉や鉱泉に含まれるラドン量を測定する携帯用機器であり、日本の放射化学の先駆者 飯盛里安博士が開発されたものです。

飯盛里安は1917年に理研に入所以来、放射性鉱物や希元素の研究を生涯続けられました。特に放射化学についてはオックスフォード大学に留学時に、ノーベル化学賞を受賞したFrederick Soddy教授の元で鉱物中の放射性同位元素の定量に関する研究に従事しました。そして留学から帰国後、各種の放射能測定装置の製作から研究を始め、放射性鉱物の探索や放射性元素の分離などで数多くの成果を上げられました。

飯盛里安の肖像写真(出典:Wikipedia)

化学遺産に認定されたIM泉効計は昭和の初めごろに飯盛里安博士によって考案されたもので、以前に使われた機器よりも補正方法を簡便化し、簡単に精度よく測定できるようにしました。具体的な使い方は、ラドンの量を測定したい液体試料を電離箱にいれ、激しく振とうしラドンを気相に追い出します。そして、箱の上部に取り付けられた検電器のアルミ箔の閉じる速さによってラドンから放射されるアルファ線量を測定します。得られた結果を補正し、標準サンプルである酸化ウランの測定結果と比較することでラドンの濃度が算出されます。

IM泉効計 理化学研究所記念史料室所蔵(出典:Wikipedia)

このIM泉効計は安価で携帯できるため温泉や鉱泉のラドン定量に広く使用されました。現在では液体シンチレーションカウンタでラドン量の定量が行われており、IM泉効計の販売・補修サービスは終了しています。しかし10年ほど前までは現役だったとの報告もあり、現在でも鉱泉分析法指針には液体シンチレーションカウンタかIM泉効計にてラドンを分析すると明記されています。

 

第59号で認定されたのは、日本版ケミカル・アブストラクトとも言える日本化学総覧とその設立に関する書類です。この日本化学総覧の創刊に深くかかわっていたのは、有機化学者でウルシオールの構造決定および合成に成功した真島利行教授です。真島が東北帝国大学の教授だった時、国内研究を抄録誌で調査できない不便さから化学全域の国内文献をすべて抄録する必要性を感じていました。そこで、東北帝国大学の化学教室では1921年からデータベースの構築が始まり、1926年に編集・発行を担う財団法人日本化学研究会が設立・翌年には日本化学総覧の発行が開始されました。

真島利行の肖像写真(出典:真島利行系譜

その後、日本科学技術情報センター(現在のJST)に業務を委譲することとなり、1974年の第48巻から名前を科学技術文献速報化学・化学工業編(国内編)と変わりましたが、それまでに日本化学研究会では約34万8千件の文献を抄録し、一時は700人近くが抄録に協力されたそうです、

現在、技術文献速報化学・化学工業編(国内編)はWebサービスとしても提供されており、今なお国内文献の検索には基幹を成しているツールです。一方財団法人日本化学研究会は、本化学総覧の事業を譲渡した後も活動は続き、現在は化学研究に対する助成活動をメインに行われています。

 

第60号の化学遺産に関連して京都帝国大学の助教授だった甲斐荘楠香は、1910年に香料工業の知識を身につけたいという一心で大学を休職して私費で欧州に留学に出ました。留学中には、フランスとスイスにて香料の調合方法や開発、製造について学び1913年に帰国しました。1914年に第一次世界大戦がはじまると合成香料の輸入が停止したため、日本での合成香料の本格的な工業化が始まり、甲斐荘も石けん会社丸見屋で合成香料の生産を始めました。今回化学遺産として認定されたのは、留学中に香料にいて勉強した内容が記されているノート6冊やジボダン社での研修時の実験指示書調合香料処方箋、丸見屋で合成香料の生産に従事していた時の手帳などです。特にノートには、それぞれの場所で勉強したことがフランス語やドイツ語を交えて細かく書かれており、甲斐荘の技術に対する真摯なまなざしが伝わってくるそうです。

戦争の休戦の影響もあって合成香料工業は苦境に陥り、甲斐荘も丸見屋を辞職します。しかし甲斐荘は香料の製造を続けるために退職した香料技術者を募り高砂香料を創立しました。2020年に高砂香料工業創業100周年を迎えましたが、現在は日本最大の香料メーカーとなり、そして世界でも香料の確たるシェアを持つグローバル企業となりました。

 

日本化学会では、認定を記念して3月19日 (土) 13:30 – 15:30の日程で市民公開講座を開催します。参加費は無料で、ZOOMにて実施されます。参加にはpeatixより申し込むことができます。

以前、この化学遺産についてケムスケニュースにて取り上げた時は、より多くの化学遺産が公開されてほしいとコメントしましたが、見方を変えれば、公開されていない貴重な資料について紹介するのもこの化学遺産の役割だとも考えられます。今後も多くの資料や器具が化学遺産として登録され、日本の化学史を振り返る良い機会になることを期待します。

関連書籍

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化学遺産に関するケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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