東北大学 多元物質科学研究所の蟹江澄志教授らと三井金属鉱業株式会社総合研究所の共同研究により、導電材料として期待される銅微粒子を環境に優しい条件(有機物フリー、水中、大気下、室温)で合成するプロセスを新たに開発しました。今回開発した合成法では、水溶性の卑金属塩を用いることで、銅微粒子の合成が可能です。得られた銅微粒子は、有機物を含有していないため、焼成した際に極めてガス発生量が少なく、また低温で焼結※6 することを確認しました。本手法は、持続可能な社会の実現に向けた革新的な合成技術として期待できます。更には、高純度の金属微粒子の合成が可能であるため、これまでに無い新規機能を有する金属微粒子の創製が期待できます。 (引用:東北大学プレスリリース12月21日)
銅の微粒子は、印刷によって電子部品を構築するプリンテッドエレクトロニクスにおいてよく使われる材料です。またエレクトロニクスだけでなく化学センサーや触媒としても使用されていて、一般的な金属材料であるものの新たな用途の研究が今でも行われている材料です。今回はそんな銅ナノ粒子の新たな合成法を開発した論文を紹介します。
まず論文での研究の背景ですが、銀の微粒子を使ったインクやペーストは、低抵抗性と低温焼結性、酸化安定性を有しているためエレクトロニクスの分野において注目されています。具体的には低い温度で焼結できるため、基板にポリマーを使うフレキシブルデバイスへの回路形成において有用で、また一度焼結したら高い温度安定性を示すため、高い温度で動作するSiCやGaNのデバイスにおいても一般的に使われているはんだからの置き換えの候補としても考えられています。
一方で、銀の価格は高いため銅の微粒子を活用する研究も進められてきました。銅は、銀と同等の電気伝導性と熱伝導性を持ち、エレクトロマイグレーションが銀よりも少ない特徴があります。そのため銅のサイズと酸化、凝集をコントロールするために有機配位子存在下で有機溶媒液相での銅ナノ微粒子の合成が行われてきました。しかしながら、工業的な合成においては大量の有機溶媒と配位子を使用することは環境負荷の観点から問題となる可能性があり、またパフォーマンスにおいてもポリマーや界面活性剤が焼結後も残り回路の抵抗を悪化させるため、完全に有機分子を取り除くために300度での焼結が必要だと報告されています。
この問題を解決するために、低分子量の有機化合物存在下で水かポリオール溶媒中でに銅ナノ粒子合成が行われてきました。特に、本論文の著者らはcopper(II)-nitrilotriacetic acid錯体の水中での還元で低い温度での焼結性と高い酸化安定性を示す銅ナノ粒子の合成に成功しています。焼結温度は200度以下となりましたが、より低温にすることは難しく、また焼結時に有機化合物の分解によってガスが発生し、焼結した銅の中に隙間やクラックができるため電気的特性と結合安定性が悪化する問題があります。
上記のような材料価格/環境負荷とパフォーマンスのトレードオフの背景から有機分子なしで銅ナノ粒子を合成する方法が求められており、本研究では葉状の酸化銅粒子を有機分子なしで遷移金属存在下で還元し、低温焼結性の銅ナノ粒子を合成することを目指しました。
先行研究において銅ナノ粒子を有機化合物なしで合成するには、酸化銅の粒子の形状が重要であることが分かっており、まず銅ナノ粒子の合成に最適な葉状の酸化銅粒子の合成を行いました。硝酸銅水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を混合し40度8時間で酸化銅を析出されました。それをろ過・洗浄・乾燥させて電子顕微鏡で観察しました。
結果、葉状で15nmの結晶で構成される酸化銅が合成されたことを確認しました。
ナノ粒子の凝集を防ぐにはゼラチンや臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムが使われますが、本研究では遷移金属を使用しました。具体的には、上記で合成した酸化銅とニッケル水溶液を撹拌し、ヒドラジン一水和物を添加し2時間撹拌しました。ろ過によって茶色の固体を回収し、洗浄と乾燥を行い銅ナノ粒子を合成しました。
ニッケルの種類ごとに粒子のサイズと結晶性を確認したところ、塩化ニッケルを使用すると最も粒子と結晶サイズが小さくなることが分かりました。さらに酸化銅に対してニッケルの割合を少なくして銅ナノ粒子を合成したところ、大きな粒子と結晶が観察されたため塩化ニッケルが高い結晶性の粒子の生成を妨げるだけでなく、小さい粒子サイズで多結晶の銅を精製するための核生成が加速されることが分かりました。また、ニッケルはヒドラジンの還元にも影響を与えており、塩化ニッケル-ヒドラジン錯体が核生成の数を加速させているかもしれないとコメントしています。次に金属の種類を変えて銅ナノ粒子を合成しました。
結果、塩化物なしの場合よりも粒子と結晶は小さくなり、塩化物を添加することで均一な結晶成長を抑えていることが推察されました。ただしZnやFe、Sn、Tiを添加した場合、銅ナノ粒子の中に添加した金属が抵抗の悪化する原因となる副生成物として含まれることが確認されました。Pdの場合、酸化還元電位が銅よりも高いため、Cu、Pd両方のナノ粒子が形成しました。結果としてコバルトやニッケルの塩化物の添加には利点があることが分かりました。
還元剤の量と種類を変えて合成を行いました。
ヒドラジン比率が高いほど、粒子サイズは小さくなることが分かりました。また水素化ホウ素ナトリウムを使った場合、還元前後で結晶サイズが変わらないことが分かり、この理由について還元力がヒドラジンよりも強いためと推測されています。逆にヒドラジンよりも弱い還元力を持つアスコルビン酸は、結晶がより成長して結晶サイズが大きいナノキュービックが生成しました。以上の還元剤と遷移金属のスクリーニングによりニッケル塩化物とヒドラジンが銅ナノ粒子の合成には最も適していることが確認されました。この方法で合成した銅ナノ粒子と先行研究とでTGを測定しました。
結果、この方法では300度までの質量減少がわずか0.38%までに抑えられ、銅電極やICチップの接続といった銅ナノ粒子の実用を考えた時に問題になるガス生成が最小限に抑えられることを示しています。さらに元素の分布を調べるためにTEMとEDS測定を行いました。まず、TEM画像により酸化銅の殻があることが示され、精製のステップにて表面が酸化されたと考察しています。EDSからは、ニッケルが均一に粒子内に存在しているのに対して酸素は表面に酸化銅として存在していることが分かりました。よって多結晶のコアーシェル構造が低い焼結温度と高い酸化安定性と長期安定性をもたらしていると考察されています。
ニッケルありなしの銅ナノ粒子合成を各温度で焼結させ、抵抗を調べました。
するとニッケルを添加したほうが抵抗値が低くなることが分かりました。さらに、ニッケル添加した銅ナノ粒子を焼結させてせん断強さを測定すると、260度の焼結で30 MPa以上となり、パワーデバイスの製造においては適切な特性を有していることが分かりました。焼結温度ごとにSEM画像を比較すると150℃で粒子同士のくっつきが観測され、より高温での焼結でそれが促進されました。強いCu-Cu結合は、このくっつきがマイルドな条件で進行しているからだと考察されています。最後に、PENとPETフィルムに銅の電極を焼結温度を変えて形成し抵抗値を比較しました。クラックなどは発生せず、一か月後でも抵抗値は変化しませんでした。
論文の研究背景にて詳しく解説されてある通り、有機溶媒や配位子を使うナノ粒子合成法では合成時の環境負荷だけでなく焼結後のパフォーマンスにも影響するということで有機分子フリーの合成法の開発意義を大きく感じました。実験のパートでは、原料のスクリーニングから、最適条件で合成された銅ナノ粒子を使った焼結後の各特性評価まで行われており、スケールアップができればすぐにペーストの性能を向上できる成果だと思います。この方法によって銅ナノ粒子合成における環境負荷は低くなるものの、インクやペーストを調製する際には有機化合物を配合されます。そのため、銅ナノ粒子が印刷されて焼結されるまでのトータルの環境負荷が低くなるような技術開発も進むことを期待します。