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力を受けると蛍光性分子を放出する有機過酸化物

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の大塚英幸教授とLu Yi(ルー・イー)大学院生らの研究グループは、相模中央化学研究所の巳上幸一郎主任研究員と杉田一特任研究員と共同で、力を受けると蛍光性分子を放出する有機過酸化物の開発と、それを利用した力を受けると蛍光を発する高分子フィルムの作製に成功した。 (引用:東工大プレスリリース10月22日)

東工大プレスリリースに掲載された論文を続けて紹介させていただきます。

本研究は、メカノケミストリーが主題であり、具体的に力を受けると蛍光性の低分子を放出する有機過酸化物を開発したという内容です。

研究の背景としてメカノケミストリーについて紹介しており、これまでに可逆変化、不可逆変化共に機械的な刺激で化学構造が変化する化合物が数多く発見されたことに触れています。ユニークな現象としてこのメカノケミストリーを捉えるだけでなく、応用にも注目が集まっていてナノパターニングや自己強化材料、小分子放出システムなどへに有望だと言われています。一方、蛍光性の有機分子を放出するポリマーは、イメージングやドラッグデリバリーにおいて魅力的な材料とされていて、最近になって超音波によって蛍光分子を放出するポリマーが開発されています。一般的にポリマーから小分子を放出させる場合、機械的に不安定な部位を保護しますが、このような機械的刺激を利用する場合には、機械的な刺激が保護されていない部位を反応させて分子を放出する反応を誘発することになります。

超音波でS-S結合を開裂させ、蛍光分子を含む2分子を放出した研究例(出典:Mechanochemical activation of disulfide-based multifunctional polymers for theranostic drug release)

これらの背景の中、筆者らは過酸化物に着目し蛍光分子を放出するポリマーの研究を行いました。まず、メカノケミストリーを示す分子を先行研究を参考にデザインし、実際にbis(9-methylphenyl-9-fluorenyl) peroxide:BMPFを合成しました。熱重量分析で200度で5%のみの質量減少という高い熱安定を確認したうえで機械的な刺激からの反応性を調べました。具体的には、ボールミルで室温3時間すりつぶしたところ化合物の色が白色からパールイエローになり460 nmに極大を持つ蛍光が確認されました。

A:BMPF-1-diolと放出される9-fluorenoneの構造式 B:すりつぶし前後の化合物の色と蛍光の違い(出典:東工大プレスリリース

反応物のNMRや単離結果から、9-fluorenoneと9-aryl-9-fluorenolが生成していることが確認され、550 nmの蛍光はこの9-fluorenoneの蛍光で、400 nmから450 nmの蛍光はすりつぶしによる副生成物の蛍光だと論文中でコメントしています。先行研究の参照、EPRスペクトルの測定、DFT計算による反応経路探索により、9-fluorenoneとPhenethyl alcoholラジカルが生成する反応経路がエネルギー的に安定で自然な反応であることが分かりました。

上記を踏まえてBMPFのポリマーへの導入を検討しました。初めにBMPFがラジカル重合で変化しないかを調べるためにBMPF-1-diolとAIBNを70度で18時間混ぜ、NMRを測定しました。結果、BMPF-1-diolは変化しなかったので、クロスリンカーを付加したBMPFなどを加えてタクリル酸ブチルを重合させ、BMPFが含まれたポリマーを合成しました。合成したポリマーを上記同様にボールミルですりつぶしたところ、クロスリンカーを導入する位置によって放出される分子が変化し、BMPF-1-PBが効率的に9-fluorenoneを放出していることが分かりました。

BMPF-1-PB中でのメカノケミストリーの振る舞い(出典:東工大プレスリリース

A:ボールミルでのすりつぶし時間ごとの蛍光強度の違い B:すりつぶし時間ごとの液クロの結果、9-fluorenone由来のピークがすりつぶし時間が長くなるほどに大きくなっていることが分かる。

モノマーメタクリル酸ヘキシルに変更したうえで、ポリマーフィルムを合成しました。そしてその合成したフィルムにH型のスタンプを約300MPaで押しつけたところ圧縮された部分のみ蛍光が観測されました。またこのフィルムの熱安定性を確認するために100度から130度までに加熱したホットプレートに置いて蛍光を確認しました。すると110度までは蛍光を示さず、応力緩和試験でも110度では変化は見られませんでした。

圧縮前後でのフィルムの色と蛍光の違い(出典:東工大プレスリリース

まとめとして、本研究ではメカノケミストリーを示す分子構造、BMPFユニットを見出し、BMPFとそれを組み込んだポリマーにて機械的な刺激で9-fluorenoneを放出することを確認しました。この例は、メカノケミストリーで小分子を放出する有機過酸化物としては初めての報告例であるとコメントしています。また、分子の構造を変えることで蛍光を示す9-fluorenoneではなく、他の分子を放出でき、応力感知やイメージング、小分子のデリバリーに応用できるそうです。

論文で取り上げたメカノケミストリーは、光を当てると分子構造が変化して物性が変わるフォトクロミズムとは逆のような事象であり、分子の構造次第で様々な変化を作ることができることに驚きました。機械的な刺激で蛍光分子が放出される現象について、機械的な刺激の強さ、ボールミルでは、すりつぶしの条件、最後の圧縮では加える荷重で放出される蛍光分子の量が変わるのかが気になるところです。ミクロな系で微弱な荷重を検知することができるようになれば、生体内での活用できるのではと思いました。また、荷重の強さによって放出される分子が変われば、幅広い応用があるかもしれません。更なる内容の発展に期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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