株式会社ダイセルは、カラダの疲れを感じている方のための機能性表示食品「S-アリルシステイン」を消費者庁に届出し、2021年8月17日に受理されました。S-アリルシステインを含む素材は2020年7月14日に販売を開始していましたが、さらに販路を拡大していく予定です。 (引用:8月31日ダイセルプレスリリース)
株式会社ダイセルは、2021年10月1日に備前化成株式会社と共同で「SAC研究会」を設立いたしました。本研究会は、ニンニク成分に含まれる S-アリルシステイン(SAC)について、事業者や研究者とその機能性などの科学技術的知識を共有し、学術情報の発信や広告などの啓発・普及活動を行うことで人々の健康に寄与し、ひいては産官学の健全な発展を目指します。(引用:10月5日ダイセルプレスリリース)
ニンニクは特徴的な香りを持つだけでなく強壮・スタミナ増進作用があると信じられている食材で、健康を維持するために励んで摂取したほうが良いといろいろな記事で書かれています。実際に、有効な成分の解明も進んでおり、ニンニクに含まれるアリシンやアホエンについては、種々の効果があることが研究結果から判明しています。そんな中ダイセルでは、別の成分S-アリルシステインを高濃度含む機能性食品原料を製造しており、8月にはS-アリルシステインの機能性表示食品への届け出を行い、10月にはS-アリルシステインに関する研究会を備前化成株式会社と共同で設立しました。本ニュースでは、これらの内容について見ていきます。
まず、機能性表示食品への登録について見ていくと、食品のパッケージを見ると多様な言葉で栄養や健康をアピールしていますが、これにはルールがあります。原則として食品は機能性の表示ができず、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品のみ一定のルールで機能性を謳うことができます。このうち栄養機能食品は、定められた栄養成分が一定の量含まれる食品に対して機能をパッケージで表示したもので、当局による審査や届け出、承認はありません。
機能の表示をすることができる栄養成分
- 脂肪酸:n-3系脂肪酸
- ミネラル:亜鉛、カリウム、カルシウム、鉄、銅、マグネシウム
- ビタミン:ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、葉酸
一方、特定保健用食品(トクホ)は、特定の保健の目的が期待できる旨の表示ができますが、製品ごとに食品の有効性や安全性について審査を受け、表示について国の許可を受ける必要があります。
そして、今回届け出を行った機能性表示食品ですが、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品であり、企業が科学的根拠を提出し企業の責任で機能性を表示します。提出する機能性の評価は、最終製品を用いた臨床試験結果か最終製品又は機能性関与成分に関する文献調査結果の参照が認められています。
ダイセルでは、システマティックレビュー(SR)による届出で、ダイセルが実施したた研究成果「薬理と治療vol.47, no.4, 607-619(2019)」を使用し、S-アリルシステインの疲労低減効果を確認しました。実験では、30 歳以上60 歳以下の健常者男女24人を対象に、Sーアリルシステインを0.5%含む試験食かプラセボを朝食後と夕食後に摂取してもらいました。朝食後には身体作業負荷として4時間エアロバイクを漕いでもらい、その後の疲労度を確認しました。検査としてVASを中心に、加えて自律神経機能評価,血液検査,理学的検査および問診を実施しました。
VASの評価では、長さ10cmの黒い線(左端が「疲労感なし」、右端が「想像できる最大の疲労」)を被験者に見せて、現在の疲労度がどの程度かを指し示してもらい感じる疲労度を定量化します。結果、回復2時間後に試験食を摂取した群では、プラセボ食を摂取した群に比べ運動後の疲労度が有意に少ないことが確認されました。
また、負荷4時間後を0とした場合でもp値が0.059でSーアリルシステインを摂取したほうが疲労が低くなることが確認されました。自律神経機能評価では、Sーアリルシステインの摂取によりそれぞれの状況に適した自律神経機能の状態に調節されていることが示唆され、これによりVASの評価で判明した疲労感の違いは、自律神経機能の適切な調節が機序として考えられると、論文中ではコメントされています。この実験ではSーアリルシステインを0.5%含む試験食を使用しましたが、Sーアリルシステインを試薬として使用した場合でも抗疲労効果は同等であったことからSーアリルシステインが有効成分であると主張しています。
熟成にんにくエキスを機能性関与成分とした疲労感の軽減効果を訴求する機能性表示食品は、既に他社品で受理されていましたが、S-アリルシステイン単一成分を機能性関与成分とした疲労感を軽減する機能性表示食品は当社「S-アリルシステイン」が初めてで、この届出により、
本品にはS-アリルシステインが含まれています。S-アリルシステインには、毎日の摂取により、日常生活における一時的な疲労感を軽減する機能があることが報告されています。一時的なカラダの疲れを感じている方に適した食品です。
と表示することができるようになったようです。今後サプリメントメーカーへ素材販売を本格的に開始し、抗疲労を訴求した機能性表示食品の届出支援を行っていくそうです。
科学的にフェアな方法で有意義な結果が疲労感の評価において示され、機能性表示食品の成分として届けられたことで、消費者に対してS-アリルシステインをよりアピールができ、この原料の健康食品への採用のきっかけになるのではないでしょうか。実際に意識して摂取するとより効果があると感じてしまうかもしれませんが、商品が発売されたら運動後に摂取して疲労がよくとれるか、ぜひ体を張って確認したいと思います。
次にSAC研究会設立についてですが、研究会の定義は、ニンニクに含まれるS-アリルシステインの認知度向上を目的とし、共感する事業者や研究者と共にSACの機能性等の科学技術的知識を共有し、学術情報の発信や、広告等を通して啓蒙・普及活動を行う会とされています。研究会は、一般会員、アカデミア会員、個人会員によって構成され、会員は、年1回程度の研究集会で発表できるほか、SAC研究会が所持する商標等を使用、SAC研究会が所有するシステマティックレビュー(SR)の機能性表示食品の消費者庁への届出に対しての使用などができるようです。
現在の会員企業は、会を設立したダイセルと備前化成で、両社はS -アリルシステインを多く含むニンニクを原料とした粉末を事業者向けに販売しています。
研究会のサイトでは、S -アリルシステインについての解説ページが充実しており、ニンニクに含まれる成分の構造式や、S -アリルシステインの機能性、よくある質問についてまとめられています。その中でS -アリルシステインは、生ニンニクやガーリックパウダーにはほとんど含まれておらず、熟成によって1 mg/gほどの濃度になること、さらにはダイセルと備前化成の商品には10 mg/gという高濃度で含まれていることがアピールされています。
両企業としては、S -アリルシステインの市場を拡大するために機能性に関する研究やS -アリルシステインを含む健康食品の開発を促進させる場としてこの研究会を設立したと予想されます。ニンニクに関する健康食品はすでにたくさん販売されていますが、高濃度S -アリルシステインで他との差別化を行い、新しいタイプや用途の商品開発を目指しているのかもしれません。技術視点で言えば、S -アリルシステインの効果は広く研究されており、いろいろな病気に対しいて有効であることが示されています。
1つ目のニュースで取り上げた論文でもコメントがあるように、更なるS -アリルシステインの理解のために抗疲労効果に対しての作用機構や、S -アリルシステインを摂取した時の実際の体の変化などの解明がこの研究会で進むことを期待します。
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