三井化学と丹青社は、三井化学の最先端のテクノロジーと丹青社の空間づくりのノウハウを組み合わせ、感性に着目した共同開発の推進によって、より豊かな空間体験を提供することを目的とした協業を開始しました。今回はその第1弾として、三井化学がメガネレンズ材料分野において、より良い視界を追求する中で生まれた「くっきり™色素」技術を用い、世界を美しく変える「ポジカ™フィルム」を開発しました。ポジカ™フィルムを窓やショーケース等に貼ることで、これまでより景色や展示物が、鮮やかに感じられるようになります。 (引用:5月10日三井化学プレスリリース)
三井化学は、名古屋大学大学院工学研究科の堀克敏教授と名古屋大学発ベンチャーの株式会社フレンドマイクローブの3者で新規インナーマスク 「タートル」を開発し、フレンド社が生産・販売を開始しました。また、既に東海地区に多数の店舗を展開する美容室グループの旗艦店において美容師、スタッフへの着用も決定しています。 (引用:4月26日三井化学プレスリリース)
三井化学と日本アイ・ビー・エムは、循環経済の実現に向けて課題となっている素材のトレーサビリティを担保するため、ブロックチェーン技術を活用した資源循環プラットフォーム構築に向けて協働を開始します。 (引用:4月26日三井化学プレスリリース)
三井化学より他業種との協業・協働がいくつか発表されましたので紹介させていただきます。
一つ目は、商業・展示施設の内装・展示物等の製作を行う丹青社と協業を開始したというニュースです。協業の中で複数の内容が予定されているようで、第一弾は色鮮やかに見せるウインドウフィルムフィルム、ポジカ™フィルムを共同開発したという内容です。これはポリエステルベースのウインドウフィルムで、フィルム越しに見える景色を自然な見え方ながら色鮮やかに見せることができるそうです。すでに製品化が決まっており、2021年9月より販売が開始される予定とのことです。
三井化学がメガネレンズ材料分野において、ユーザーがより良い視界得るくっきり™色素技術を有しており、これをウィンドウフィルムの開発にも活用したそうです。具体的な効果として、ポジカ™フィルムには特定の波長の光を吸収するような化合物が配合されていて、波長が600nm付近の光を特定の割合で選択的にカットすることで、他の色が強調されるような仕組みになっているようです。技術の詳細は公開されておらず不明ですが、三井化学では樹脂着色染料を製造しており、色素の配合によりこの効果を達成したとのではないでしょうか。
自分は近視でありメガネを常用していますが、ブルーカットレンズといった機能が付加されたレンズを手ごろな価格で選ぶことができるようになっています。ここからは推測になりますが、人間に対する実質的な効果は別にして、メガネレンズやそのフィルムに機能を付加する需要があり、それに対して光の吸収をコントロールする色素といった技術が発展していると考えられます。そしてこの技術をメガネ以外へ広げる中でウィンドウフィルムが応用の一つになったと想像されます。ただし鮮やかさの追求には、ブルーライトカットレンズなどとは異なり、単なる波長のコントロールではなく見え方が最終的な評価基準となります。そのため製品が使われる場を熟知していて、ものをよりよく見せるノウハウがある丹青社と協業したのかもしれません。COVID-19の影響で見学の機会はありませんが、外に出られるようになったときには、この技術によってより強調された展示物や景色を見てみたいと思います。また、両社の次なるコラボレーションにも期待します。
二つ目は、新しいマスクを名古屋大学大学院工学研究科の堀克敏教授と名古屋大学発ベンチャーのフレンドマイクローブと共同開発したというニュースです。
3者は、マスクのデザイン、素材の選定、ウイルスろ過効率の検証を独自に行い、普及しているマスクよりも快適でウイルス除去効果が高く、廃棄物が少なくなる製品の開発に成功しました。比較実験では、ウレタンマスクとの併用で不織布マスクよりも高いウイルスろ過効率を有していることが確認されています。もちろんこの違いは口元からの空気の漏れを防いだデザインの効果が大きいと考えられますが、三井化学ではフィルター性能を示すVFE(Viral Filtration Efficiency)及びPFE(Particle filtration efficiency)が、99%以上でNelson Report認定を取得した不織布を提供し、ウイルス除去性能の確保に寄与したようです。
過去にもこの3者は、マスク開発のプレスリリースを発表していて、三井化学ではいずれのマスクでも不織布を提供してきました。この共同開発の意義を推測すると、COVID-19の影響にもたくさんの使い捨てマスクが使われており、マスクのごみも急増しています。この環境問題を解決する検討の一つとしてフィルター交換型マスクの推進を意義にしているのかもしれません。短期的に見れば、ワクチン接種が進めばマスク着用の必要性が下がり、需要も落ちます。しかし、将来、新しい脅威が登場しまたマスクの需要が増えてきたときに、今のような状況にならないために新たな製品の開発が必要なのかもしれません。
最後のニュースはIBMと協働し、ブロックチェーン技術を活用して資源循環プラットフォームを構築するという内容です。プラスチックリサイクルの問題の一つにポリマーの種類別に分別することの難しさがあります。飲料用のペットボトルであれば、PET樹脂が一般的に使われているので分別は容易ですが、それ以外は製品の種類に関係なく様々なポリマーが使われているため、回収する際に分別することは困難です。この問題を解決するために三井化学とIBMでは資源循環プラットフォームを構築することを始めました。これによりモノマー・ポリマー等の原材料から製品の製造・販売・使用、及びその後に回収から解体・破砕を経てリサイクル原料となり製品製造に再利用されるまでの、資源ライフサイクルにおけるトレーサビリティ(追跡可能性)を担保するそうです。つまり特定の最終製品に使われているポリマーの情報を廃棄までの関係者がアクセスできるようになるようです。
この技術が実用化されると、プラスチックのリサイクルにおいて、
- 廃棄する扇風機Aを引き取った家電量販店は、解体しAのプラスチック部品の情報を元にポリマーごとに分別して回収業者に引き渡す。回収業者は、家電量販店が分別したプラスチックごみの成分を確認してリサイクルするプロセスを考える
- スーパーマーケットは、消費者に魚や肉のトレイの分別してもらうため、使われているとトレイのポリマーを値札に明記する。
といったようなことがトレーサビリティを担保されることで可能になると考えられます。このシステムにブロックチェーン技術を活用することでサプライチェーンの透明化を図るとともに、各ステークホルダーは中立性と公平性を担保しながら、取引や監査業務の効率化、ペーパーレスといったメリットを享受することが可能と発表されており、すべての情報が適切な範囲でのみ公開されるようになるそうです。そもそも、ブロックチェーンは分散型台帳とも呼ばれる新しいデータベースです。詳しい解説は他サイトに任せますが、この資源循環プラットフォームにおいてはブロックと呼ばれる各データの箱がチェーンのようにつながることがトレーサビリティを担保することにおいて役立つようです。
昨今は、プラスチックのリサイクルが世界中で叫ばれていていろいろな技術開発も進んでいますが、リサイクルをビジネスとして成り立たせるには、なるべく品質をそろえてプラスチックを回収することが必要だと思います。一方製品データの他社を含めた共有には、現状の製造業では高い壁があり、それをこのDX関連技術で解決しようとすることは大変興味があります。現在、多くの化学企業がレスポンシブル・ケア活動を行っており、この資源循環プラットフォームへの参画も広義においてその活動の一つになるのではないでしょうか。ネットワークは多くの企業が参画することで成り立つモデルあり、ぜひ多くの業種の企業が参加してほしいと思います。
異業種との協業は、新しいことに挑戦している姿勢だと感じます。もちろん企業は従来の事業を柱にして利益を生み出しているので、新しいことに100%のリソースを費やしていることはありませんが、変革が起きやすい現代の中で、各社いろいろな新しいことに挑戦して化学で世の中が引き続き豊かになればと思います。