北川宏 理学研究科教授、草田康平 同特定助教(現・白眉センター特定准教授)、呉冬霜 同特定研究員らの研究グループは、高活性かつ高耐久性を有する水電解触媒の開発に成功しました。 (引用:2月17日京都大学プレスリリース)
北川宏 理学研究科教授、草田康平 同特定助教(現・白眉センター特定准教授)、古山通久 信州大学教授、永岡勝俊 名古屋大学教授、松村晶 九州大学教授らの研究グループは、自動車排ガス浄化に対して最も高い性能を有するロジウム(Rh)を凌駕する、高耐久な多元素ナノ合金触媒の開発に成功しました。(引用:3月11日京都大学プレスリリース)
Shuying WANG 工学研究科博士課程学生、寺村謙太郎 同准教授、田中庸裕 同教授、堂免一成 信州大学特別特任教授・東京大学特別教授、久富隆史 信州大学准教授の研究グループは、光触媒の活性サイトをうまく分離することによって二酸化炭素の光還元を効率的に進行させることに成功しました。(引用:3月11日京都大学プレスリリース)
ここ一か月で京都大学より触媒研究に関するプレスリリースが3報発表されました。内容は共通して触媒に関する研究成果ですが、応用はそれぞれ水素製造、排ガス浄化、二酸化炭素の還元と異なる分野を目的とした研究です。以下では、どのような新しい触媒を研究してどのような性能が得られたのかに着目して内容を紹介します。
超高効率な水の電気分解を実現するナノシート状合金触媒を開発 ―再生可能エネルギーによる水素社会実現へ大きく貢献―
脱化石燃料の自動車として燃料電池自動車の開発が進んでおり、クリーンなエネルギーとして水素への期待が高まっています。しかしながら、現在は、石油や天然ガスに含まれるメタンなどの炭化水素を水蒸気と反応させて水素と二酸化炭素(CO2)に分離する方法が主流であり、水素を使っても二酸化炭素は排出されないものの水素を製造する際に二酸化炭素が排出されます。一方で水を電気分解して水素を製造するれば、二酸化炭素は排出されず、使用する電力も太陽光発電などを使えば、全く二酸化炭素は排出されずにエネルギー源である水素を製造することができます。しかしながら、現状では世界の水素生産の4%しかこの方法が使われておらず、反応を促進する触媒のコストが高く、また効率も低いことが低普及率の理由として挙げられます。最近のイオン交換膜の発展によりアルカリ性溶液下での電気分解よりもその効率が向上することが分かりましたが、より効率を上げるには酸素発生反応をより促進させる必要があります。酸性中では高いプロトン濃度によって 水素発生反応は容易に促進されますが、酸素発生反応は触媒作動電位ではほとんどの金属が溶解してしまうため、酸素発生反応を促進させるには溶解しない触媒の開発が必要です。そこで本研究では、高効率で安定した水分解触媒を開発されました。
触媒の材料としては、ルテニウムを選びました。ルテニウムは、活性が高いものの酸素発生反応で徐々に溶け出してしまうことが分かっています。そこで、粒子の表面が溶け出しにくいと予想される原子が密に詰まった結晶面が露出した構造を持ち、イリジウムが添加された Ru–Ir ナノ合金(RuIr ナノコーラル)を合成しました。
実際に酸素発生反応の活性を調べると、RuIr ナノコーラルは他の触媒よりも 1~2 桁程度高い活性を示し、その活性は 122 時間継続することが分かりました。同条件で球状の RuIr ナノ合金粒子を比較した場合、その活性は 1 時間以内に失われます。
また、水素発生反応の活性を調べても市販の Pt 触媒と同等の活性を示すことが分かりました。そのため、通常は陰極にPt、陽極に IrO2を使用しますが、この研究成果により安価な RuIr ナノコーラル を両極に使用することができ、その性能も Pt と IrO2 を使用したセルより向上することが分かりました。
水の電気分解で水素を製造することは、電気を水素という貯蔵できるエネルギーに変換することであり、発電量が一定でない自然エネルギー発電の欠点を補うことができると考えられます。すでに、太陽光発電と水素製造を組み合わせた設備も日本で稼働しています。電気分解の効率が上がれば水素の製造コストも下がり、燃料電池自動車をはじめとした水素の利用についてもより普及が進む可能性があります。
ロジウムを凌駕する高耐久性な多元素ナノ合金排ガス浄化触媒の開発に成功 -地金価格9割カットでNOx還元高活性と高耐久性の両立を実現-
エンジンを動力とする自動車には、排ガスを浄化するための触媒が装着されています。排ガス触媒は、一酸化炭素(CO)、未燃の炭化水素(Hydrocarbon:HC)、窒素酸化物(NOx)を無害化できる三元触媒が使われています。この触媒にはロジウムが使われていますが、希少で高価な金属です。また、近年の環境規制の中で自動車の排ガス規制は年々厳しくなっていて、触媒中の貴金属を増やして活性を上げるだけでは、対応できなくなっています。そのため、ロジウムを凌駕する NOx 浄化性能を持つ、新しい物質の開発が求められています。研究チームでは、パラジウムとルテニウムを原子レベルで混ぜてナノ合金の電子状態をロジウムに近づけることで、触媒活性がロジウムをを凌駕することを発見しましたが、高温になる排ガスの浄化では、原子の拡散が著しくなり活性劣化を引き起こすことが分かりました。そこで本研究では、パラジウムとルテニウムにさらに一元素加えて構造が高温でも安定であるナノ合金の探索を行いました。
結果、PdRuIr ナノ合金が PdRu および Rh よりも高活性かつ、高耐久性であることが分かりました。
また、第一原理計算を行ったところ、PdRuIr の場合では二元系 PdRu と比較すると 900℃も固溶構造の安定化温度を低下されることが分かりました。
金属の価格を比較したところ、ロジウムを使った場合と比べてPdRuIrは10%の原料価格となるそうで、製造コストの削減に貢献できるかもしれない研究成果だと思います。自動車の将来については、いろいろな議論がなされていますが、世界からエンジンがなくなる日がすぐに来るとは思えません。そのためより環境に良いエンジン車として、燃費と排ガス性能の向上の技術発展はこれからも必要だと考えられます。
金属ナノ粒子で光触媒のモチベーションを上げることに成功 -人工光合成で二酸化炭素(CO2)の再資源化の新展開-
近年、二酸化炭素の排出削減が求められていますが、化石燃料を使えば、必ず排出される二酸化炭素を削減することは容易ではありません。そこで、二酸化炭素をエネルギー源として再利用するための還元反応の研究が活発に行われています。しかし非常に安定な分子である CO2 を還元して再資源化するには高いエネルギーの光照射が必須とされてきており、300 nm 以下の紫外光が必要とされてきました。そのためより効率よく二酸化炭素を太陽光で還元するために波長が長い光で活性を示す触媒の開発が求められています。一方、水を分解するための光触媒の開発では、AlをドープしたSrTiO3(Al-SrTiO3)が360 nm付近でも100%に近い量子効率を示すことが発表されています。そこで本研究では、この光触媒に金属ナノ粒子の修飾を行い、二酸化炭素の還元の活性を高めることを行いました。
Al-SrTiO3だけでは、二酸化炭素の還元の活性は示さず、銀とコバルトを酸化還元反応で添加すると、二酸化炭素の還元に対して高い活性を示すことが分かりました。
添加方法を変え、種々の金属の吸着現象を調べたところ、Al-SrTiO3結晶の{100}面にドープされた銀ナノ粒子と{110}面にドープされたコバルト種がそれぞれ二酸化炭素の還元と水の酸化を担うことで効率よく還元反応が起きていると推測されています。
触媒に金属を添加して異なる反応の活性を持たせることは、興味深いと思いました。新しい技術を使う場合、製造コストが障壁となって実用化ができない場合がありますが、少しの処理で二つの目的に使えるのならば、ビジネスの規模もその分広がり実用化が加速するのではないでしょうか。
論文発表だけなく特許出願や企業との共同研究を行っている研究もあり、実用化を強く意識しているようです。三つのテーマどれも長く研究が行われているトピックであり、実用化が早期になされることを期待します。
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