米、特に玄米には 人体に有害なヒ素が含まれており、農林水産省は「バランスのよい食生活を送っていれば玄米を食べても問題無い」としていますが、ヒ素の含有量を減らすために水にしばらく漬けるいう手法がとられることもあります。新たにイギリスの研究チームが「ヒ素を除去する段階で栄養素も除かれてしまう」という問題を解決すべく、「米に含まれる栄養素を損なわずヒ素だけを除去する炊き方」を考案しています。 (引用:Gigazine11月15日)
日本では、ヒ素に関連した公害が何度か起きましたが、ヒ素は自然界に広く存在する元素でもあります。今回は、玄米に含まれるヒ素を減らす調理法を発見したという論文を紹介します。
現代では玄米を精米した白米を食べることがほとんどですが、精米によってビタミン、ミネラル、食物繊維は取り除かれてしまうため、玄米を食べたほうが健康に良いという意見があります。一方で、稲は他の食物よりも10倍ヒ素を吸収しやすいとの報告があり、また吸収されたヒ素は、胚乳を包むぬかに多く含まれており、玄米を食べるとヒ素も多く摂取してしまいます。通常の食生活を通じてヒ素が体内に入ることで、健康に悪影響が生じたことを明確に示す日本国内のデータは現在のところありませんが、できるなら摂取量を少なくしたいところで、また論文中では乳幼児への影響が心配されています。玄米からヒ素を取り除く方法は過去にも研究されてきて、過剰の水で炊飯するかよく洗うとヒ素を除去できることがわかっています。しかしながら他の栄養分も取り除かれてしまい、他の栄養分を保持させたままヒ素だけを選択的に除去できる方法の開発が求められていました。
では実験方法ですが、米は細長いタイ米(B1)、日本のコメのようなShort grain米(B2)、インドやパキスタンで生産されているBasmati米(B3)の玄米と、細長い米(W1)、お菓子を作るときに使うPudding rice(W2)、われらが日本のSushi米(W3)の白米を使用しました。これらを選んだ理由ですが、先行研究にて高い濃度のヒ素が含まれていることが判明していたからだそうです。炊飯は、8 gの米に水を入れてラボのホットプレートでそれぞれの米が炊けるまで加熱したそうです。炊飯後、50度で2日かけて乾燥、ミルにて粉砕後、硝酸水溶液に溶かしてICPを測定しました。また有機と無機のヒ素化合物を定量するためにはLC-ICP-MSも使用しました。
肝心の前処理に関しては下記の4つの方法が試されました。それぞれの方法を6つの米で行い、3回リピートしたので、合計72回実験を行いました。以後グラフ中の*は、統計解析を行った時の有意差(“*” for P ≤ 0.05, “**” for P ≤ 0.01, “***” for P ≤ 0.001 and “****” for P ≤ 0.0001)で、*の数が多いほど有意差が高いということを示しています。
- UA:米を洗わずに水に浸して炊飯
- WA:5分間シェイカーで水と混ぜ、その水を捨てた後、新しい水に浸して炊飯
- PSA:30分水に浸した後5分間シェイカーで水と混ぜ、その水を捨てた後、新しい水に浸して炊飯
- PBA:沸騰したお湯に米を5分間入れた後、新しい水に浸して炊飯
まず、ヒ素の濃度の比較ですが、品種に関係なく白米でも玄米でも、PBAの方法がもっとも高効率で無機のヒ素を除去できることが分かりました。論文中で、熱を書けないと無機のヒ素を玄米から除去できないことに着目していて、詳細の研究が必要だとコメントしています。有機ヒ素に関しては洗わない方法以外は、似たような残存率を示しました。
次に品種別の違いですが、上記と同様にPBAが無機ヒ素の高い除去率を示す結果が得られました。水で洗うとヒ素が除去されるという結果が報告されていましたが、白米に関してのみ同様の傾向が見られ、玄米については白米ほどの効果がみられませんでした。また過剰の水で炊飯するとヒ素が除去されるという報告もあり、これはPBAが良い結果を示しているのと同様の傾向だと考えられます。炊飯器にたくさんの水入れて炊飯することは難しく、5分間だけ煮るこの方法のほうが現実的だと思います。残念ながらSushi米は、他の品種よりもPBAの効果が低い結果になりました。
せっかくミネラルが豊富な玄米でもヒ素とともに取り除かれてしまっては、励んで摂取する意味はありません。そのためP, K, Mg, Zn, Mnに着目して米の中に残っている元素量を比較しました。白米のカリウムに関しては、PBAによる特異的な減少が確認されていますが、他に関してはR(未処理の米)とほぼ同等の元素が残っていることが分かりました。過剰の水で炊飯する報告ではいろいろな元素で減少が認められ、特にマンガンにおいてはPBAが優位だと主張しています。
これらの結果を踏まえて論文中では暴露マージンの計算を行い、このPBAを行うことでより安全に大人から子供まで玄米を食べることができると主張しています。
化学的な現象をマクロでみれば固相から液相への選択的な抽出条件の検討ですが、ミクロでみれば玄米や白米のどの部分にヒ素や栄養素が多く含まれていて、どのような溶媒条件によって、元素を特定の部分から選択的に取り除くことができるかがポイントだと思います。品種ごとの結果の違いに見るように、種類が異なると元素の分布も異なる可能性がありより化学的に詳細な研究が期待されます。日本では、カドミウムの摂取量について古くから調査が行われてきていて、やはり米からの摂取量が半分を占めています。そのためこの短時間煮る前処理がカドミウムの除去に対しても有効なのか、また今回の研究ではICPで検出できる無機化合物について議論していますが、ビタミンや食物繊維の減少量はどのような傾向なのかが気になるところです。
本研究は、英国のScience and Technology Facilities Council (STFC) Food Network+という農作物の研究を行うプロジェクトの一環で行われました。このプロジェクトでは、米だけでなく様々な農作物の品質や安全性を向上させるための研究が行われています。日本では環境が汚染されて栽培された食物から健康被害が出る例はほとんどなくなりましたが、世界的に見れば汚染された食物を食べて健康被害が出る問題が残っていると考えられ、米に限らず他の食物でも同様の研究が進むことを期待します。