「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して贈られるノーベル賞のパロディである「イグノーベル賞」の2020年度受賞研究が発表されました。2020年度は京都大学霊長類研究所の西村剛准教授が「ヘリウムを吸ったワニの鳴き声はどう変わるのか」という研究によって「音響学賞」を受賞しており、日本人の受賞は14年連続となりました。9月18日Gigazine
イグノーベル賞2020が発表されましたが化学賞はありませんでした。以上。
これだけでは寂しいので、今回のイグノーベル賞について紹介したいと思います。
例年、イグノーベル賞の授賞式はハーバード大学のメモリアルホールで行われていますが、今回はコロナウィルスの影響で完全にオンラインで行われました。ノーベル賞の場合には6分野に決まっていますが、イグノーベル賞は、年によって分野が変わるようで2020年だけでなく2017年も化学賞はありませんでした。
では、いくつかの興味深いイグノーベル賞を紹介します。
まず、イグノーベル音響賞では、「A Chinese alligator in heliox: formant frequencies in a crocodilian(ヘリオックス中のヨウスコウワニ:ワニのフォルマントの周波数)」という研究内容で、京都大学霊長類研究所の西村剛准教授を含む5人が受賞しました。人間は、声道の共鳴によって声を発していますが、ワニが同様の方法で声を発しているかを確認するためにヘリオックス=空気とヘリウムの混合ガスを使って調べたという内容です。工夫した点はワニにガスを吸わせる方法で、箱の中にワニと水を入れて、水を追加注入することで空気とヘリオックスを置換して吸わせたそうです。
結果、ヘリオックスを雰囲気下では周波数の上昇がみられ、声道の共鳴によって鳴き声を発していることが分かりました。
物理学賞は、「Excitation of Faraday-like body waves in vibrated living earthworms(振動を受けた生きたミミズのファラデー波のような体の動きの励起)」という研究内容で、オーストラリアのSwinburne University of TechnologyのIvan Maksymov博士とAndriy Pototsky博士が受賞しました。ファラデー波とは水を入れた容器を鉛直方向に一定の振動数で動かすと、水面に定常波のパターンが出現するという現象で、これが液体を多く含むミミズでも観測できないか調べたそうです。実験パートでは、垂直に振動するプレートの上にミミズを置いてレーザーと光検出器でファラデー波の観測を行いました。また、理論パートでは、ミミズを流体で満たされた弾性円筒形の殻としてモデル化することに成功しました。両博士はおそろいのミミズのTシャツを着て参加されていて、研究への情熱が感じられました。
化学に最も近いマテリアルサイエンス賞は、大変なものを題材にした研究が受賞したので、題名のみ紹介します。「Experimental Replication Shows Knives Manufactured from Frozen Human Feces Do Not Work」これはもちろん投稿論文に発表された内容で、授賞式に参加された共著者もいたって普通の方々でした。
イグノーベル賞は純粋な科学研究のみに贈られると思われがちですが、社会的事件についてもイグノーベル賞で取り上げられていて、今回は、コロナウィルスの関係で各国の大統領などもイグノーベル賞を受賞しています。当然、登場もしません。個人的には、イグノーベル賞は純粋に面白い研究のみに贈られてほしいと思います。今回、イグノーベル賞を受賞された方々、おめでとうございます!
繰り返しになりますが2020年はイグノーベル化学賞はありませんでした。しかし、これからノーベル化学賞のシーズンに入ります。社会全体が暗い雰囲気になっている中、今年のノーベル賞発表が明るい話題の一つになればと思います。
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