京都府福知山市消防本部はこのほど、工場火災などで威力を発揮する化学消防ポンプ自動車の運用を始めた。化学、金属などの製造工場が多数立地する長田野工業団地そばにある福知山消防署東分署に配備した。 (引用:両丹日日新聞5月17日)
京都府福知山市の長田野工業団地には、化学品や金属部品、薬、家電、自動車関連部品を製造する工場が多数操業しています。
一般的に工場で火災起きると、使われている危険物に燃え移り被害が拡大する恐れがあります。そこで福知山市では老朽化した化学車の更新として、化学車とタンク車の機能を兼ね備えた化学消防ポンプ車を導入しました。今回購入した新車には500Lの薬液槽を搭載していて油火災において水を使うよりも効果的に消火することができます。また、2000Lの水のタンクも搭載されていて高速道路での火災など、水の取水ができないところでもすぐに消火ができるような装備になっています。そのほか、送排風機やエンジンカッター、油圧式救助器具などの装備により、消火と救助を強力にサポートできる消防車のようです。価格は、7150万円で高級車の代表であるフェラーリが2台買えるお値段をなっていますが、団地内の扶桑化学工業が企業版ふるさと納税制度を活用して寄付した1000万円が活用されました。
過去には、工場火災によって長期間燃え続けた事例もありますし、東日本大震災では石油化学コンビナートが数日間にわたって燃え続け、甚大な被害となりました。事業者が事故を起こさないことが大前提ですが、被害の拡大を防止するための設備の拡充と更新は、近隣住民を守るうえで重要だと思います。
ニュースの話題に関連してここからは消火のケミストリーについて触れていきます。消火器は様々な種類があり、含まれる化合物によって、消火作用は異なります。ABC粉末消火器が最も一般的でいろいろなところに設置されていますが、消火の仕組みは含まれるリン酸アンモニウムの解離により発生したアンモニアが有機物のOH基と反応することで燃焼連鎖反応が阻害され延焼が阻害されることと粉末による窒息です。他には泡が発生する消火器もあり、界面活性剤や2液の混合で水溶液が泡立ち、泡によって酸素が遮断されることで延焼が抑えられます。炭酸カリウム水溶液が含まれる強化液型の消火器は、鹸化作用による油の不燃化により水による消火を促進させます。浸潤剤が含まれた消火器は、表面張力が水よりも低く木材等への浸透性や付着性が強化されています。二酸化炭素などの不活性ガスを噴射する消火器もあり、消火剤が反応するような危険物の消火や精密機械への消火に適しています。
消火器による消火は火災初期には有効ですが、大きく燃え広がった場合にはとても太刀打ちできず、上記のような消防車が必要になります。ただし、消防車から放出するということは、外に大量にばらまくわけであり強塩基の水溶液や粉末を使うと自然への影響が心配されます。そのため化学消防車は、泡消火に特化されていて、泡を作る薬液をタンクを搭載しています。薬液には、動物の蹄や角などのたん白質原料を加水分解、中和処理したたん白質溶液が含まれていて、たん白質が空気との接触により酸化され、鉄イオンとともに泡形成に最適な分子構造をとるため、消火に適しています。泡の安定性と耐熱性を強化するために第一鉄塩類、低温における流動性確保のために凝固点降下剤であるグリコール類も添加されています。さらに耐アルコール性能を向上させるためにフッ素系界面活性剤を添加した薬液も販売されています。
DICの耐アルコール泡消火薬剤、フッ素系界面活性剤が水溶性高分子ゲルに担持されているため従来のフッ素系界面活性剤が含まれた薬液よりも優れた性能を発揮する
炭化水素系界面活性剤を使った薬液も使われていて、こちらは泡立ち性能がたん白質を使った薬液よりも優れているため、少量の液体で大量の泡を発生させて消火でき、、倉庫、航空機格納庫、LNGタンク周囲などの消火に使われます。消火設備にはて国家検定規格があり、上記に挙げた薬液すべて、消火時間や泡の膨張率をクリアしたもののみが消火に使われます。
今年の4月に沖縄の米軍普天間飛行場から宜野湾市内に泡消火剤が大量に漏出した事故では、PFOSについて大きく取り上げられましたが、PFOSとはペルフルオロオクタンスルホン酸のことです。PFOSは、フッ素系の界面活性剤として上記の目的で使われていましたが有害性が高くまた、ほかのフッ素化合物と同様に化学的に極めて安定であり、自然界に流出すると分解されにくいため、問題となっています。日本では、2010年に第一種特定化学物質に指定され、製造および輸入が許可制となり、事実上全廃されました。そのため日本の各社が販売しているフッ素系界面活性剤を添加した薬液にはPFOSではなく、他のフッ素化合物が使われています。
危険物取扱者の資格取得の際に、消火器については軽く勉強しましたが、消火について改めて調べたところ、化学と大きく関わっていることを認識させられました。現在は、ガソリンといった可燃性の液体で動力を動かしていますが、電気自動車の普及によりバッテリーが身の回りに増えています。現にリチウムイオンバッテリーの発火事故は数多く報告されていて、今後、バッテリーに起因する大きな火災が起こりやすくなるかもしれず、社会の変化に対応した新しい消火方法も開発が必要なのかもしれません。
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