日本化学会は10日、第11回化学遺産認定に新たに4件を認定したと発表した。今年は、「タンパク質(チトクロムc,タカアミラーゼA)の三次構造模型」「日本の近代化学教育の礎を築いた舎密局の設計図(大阪開成所全図)」「日本初の純国産「金属マグネシウムインゴット」」「日本初の西洋医学処方による化粧品「美顔水」発売当時の容器3点」の4件が新たに認定された。 (引用:日本ケミカルニュース3月11日)
日本化学会では、化学に関する貴重な歴史資料の保存と利用を促進するために、2008年度から化学遺産委員会を設定し化学遺産認定を行ってきました。今年は、第11回として4件の化学遺産が認定されました。
第51号:タンパク質(チトクロムc,タカアミラーゼA)の三次構造模型
タンパク質の立体構造は、機能を解明するうえで重要ですが、良質な結晶を得ること難しく1958年になって初めてイギリスのJohn.C.Kendrewらが1958年に世界で初めてミオグロビンの構造解析に成功しました。日本では、大阪大学タンパク質研究所の角戸正夫らのグループがカツオのチトクロムcの構造を1971年に、タカアミラーゼAの構造を1979年に解析を成功しました。この二つのタンパク質をそれぞれ低分解能、高分解能で解析された結果をもとに作られた構造模型4件が化学遺産に認定されました。
これらの模型は、大阪大大学総合学術博物館に展示されていて、誰でも見学することができます。
第52号:日本の近代化学教育の礎を築いた舎密局の設計図(大阪開成所全図)
舎密局は1869年に大阪で開校した学校で、オランダ人であるK.W. Gratameとリッテルが講師となって化学に関する実験や理論の講義が毎日行われました。舎密局の聴講生であった高峰譲吉は後年タカジアスターゼを発見し、世界で初めてアドレナリンの単離に成功しました。開校から三年後には東京の開成所(東京大学の前身)へ機能が移転されましたが、教育拠点として第三高等中学校(京都大学の前身)や大阪大学の源流にもなったそうです。この舎密局の設計図である「大阪 開成所全図」が化学遺産に認定されました。
この資料は、京都大学大学文書館に保管されています。利用申請を行うことで閲覧できるようです。
第53号:日本初の純国産「金属マグネシウムインゴット」
第二次世界大戦前、マグネシウムは軽量化が必要な飛行機や自動車の材料として需要が高まりつつありましたが、輸入に頼っていました。そこで、1925年から理化学研究所にて海水を原料とした溶融電解法による金属マグネシウム生産に関する研究が開始され1930年に工業生産が開始されました。工業生産時に日満マグネシウム(現・宇部マテリアルズ)では、宇部工場と新潟県の直江津工場でマグネシウムインゴットが試作され、それが化学遺産に認定されました。マグネシウムインゴット2本や資料は、理研ギャラリーに展示されていますが見学には、事前の申し込みが必要です。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により当面の間、閉館とするようです。
第54号:日本初の西洋医学処方による化粧品「美顔水」発売当時の容器3点
和歌山県で薬種商を営んでいた桃谷政次郎は、西洋医学に基づく創薬技術を取得するために東京帝国大学桜井郁二郎教授の元で研究を行っていました。医薬品の開発のほか、ニキビに悩む妻のためにサリチル酸入りの薬用化粧水を開発し、帰郷後、妻が使用したところ、その効能が評判となり1885年に美顔水として販売を始めました。その後政次郎は、桃谷順天館を創業し美顔水の販路を海外まで広げました。その発売当時の美肌水の容器3点が化学遺産に認定されました。
現在でも美顔水は販売されていて、青色のビンに漢字で「美顔水」と書かれた基本的なパッケージはパッケージは変わっていないようです。
なお、3月22日に日本化学会年会で予定されていた、第11回化学遺産をわかりやすく紹介する第14回化学遺産市民公開講座は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により中止となりました。しかしながら第53号と第54号に関しては、関連する両企業がプレスリリースを発表されていて化学遺産を盛り上げています。化学遺産がより有名なれば、一般公開されていない化学遺産も公開されるようになるのではないでしょうか。日本化学会の今後の活動に期待します。
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