住友化学はこのほど、イスラエルのスタートアップ企業で高精度の臭気検知IoTプラットフォームを開発するナノセント社に2百万USドルを出資しました。今回の出資により、ナノセント社との戦略的な技術的連携を深めるとともに、新規ヘルスケア事業の創出に取り組んでいく予定です。 (引用:12月3日住友化学プレスリリース)
臭気検知IoTプラットフォームとは、臭いを分析するポータブルデバイスによって得られた測定データをCloud内で分析し、スマートフォンなどの端末に解析結果を即座に出力するシステムのことです。単に状態を診断するだけでなく、日々の値の変化を読み取り、それを機械学習によって解析することで体調の変化や将来の病気のリスクを予知できる可能性があります。
ナノセント社(NanoScent Ltd.)は、テクニオン・イスラエル工科大学発のスタートアップ企業です。いくつかのスタートアップ企業を立ち上げてきたOren GavrielyさんとIBMで10年以上のキャリアを持つEran Romさんが2017年に創業しました。
小型のデバイスで、ガスを分析するテクノロジーをメインで開発しており、人の気配を匂いで理解するテクノロジーやリアルタイムで揮発性有機化合物(VOCs)を感知するシステムなどを開発してきました。2019年には、世界最大の家電技術見本市CESにて気候変動部門でアワードを受賞したそうです。
詳しいテクノロジーに関する資料は公開されていませんが、直径1mmほどのセンサーが8つ搭載されています。8つのセンサーには、それぞれ異なる表面コーティングが施されていて、そこに分子が吸着すると電気的な変化となるようです。それぞれのセンサーから得られたデータはCloud内で解析され、応用別にターゲットとなっている成分の検知に使われます。測定方法はバッチタイプで、人間が息をするように数秒間チャンバーが閉じられて匂いを分析し、その後チャンバー内を真空にしてから外の空気を取り入れて次の分析を行う仕組みになっています。
住友化学では、この技術をヘルスケアに応用することを研究していて、具体的には排泄物の臭気データから体調変化や病気の兆候を読み取り、その日に適した薬の処方や食事のアドバイスをこのデバイスから発信し健康管理に役立てるシステムを構築しているようです。ヘルスケアだけでなく工場や町中の有害物質をモニタリングにも応用できると考え、住友化学では出資を決定したと発表しています。
従来では、大型で高価な機器でないと分析できなかったことが、技術の発展により小型で持ち運びでき、大量生産できる特定の用途向けのデバイスが開発されています。もちろんAIなどを駆使した解析やIoTによるどこでもネットワークに接続できる技術は革新的で注目度も高いですが、その根幹にあるのは測定を行うセンサーのテクノロジーであり、そこには化学が大きく関わっています。そのため、化学の技術を使ってどう分子を判別するか、判別するための仕組みはどのような素材を使って作るかが今後の研究課題として強く求められると思います。
企業によるスタートアップへの出資ですが、IT企業を中心に近年は盛んに行われているようです。自社で1から新しいことに進出することは、とても時間とリソースがかかるため現実的ではありません。そこでスタートアップに出資することは、新たなビジネスの開拓方法として、それなりの規模の企業とってはメリットが大きいように感じます。ただし技術の将来性やスタートアップ企業の持続性を見極めることは大変難しく、経営陣による大決断だったことが容易に想像できます。ちなみに住友化学は、イスラエルのスタートアップ企業との連携をサポートしているAniwo社のイノベーションアドバイザリーサービスを利用して共同研究からこの出資までを行ったそうです。AIやIoT、VRなど、新しい技術をうまく化学と融合させ新しいビジネスを生み出すためには、このような思い切った決断が大手企業にも求められる時代になったようです。
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