[スポンサーリンク]

ケムステニュース

調光機能付きコンタクトレンズが登場!光に合わせてレンズの色が変化し、目に入る光の量を自動で調節

[スポンサーリンク]

ジョンソン・エンド・ ジョンソン株式会社は、目に入る光の量を自動で調節する世界初のコンタクトレンズ「アキュビュー® オアシス® トランジションズ スマート調光™」を、2019年12月12日(木)より販売を開始する。 (引用:PR TIMES 11月19日)

コンタクトレンズは視力を矯正するツールの一つで、角膜にポリマーなどをコンタクトさせることでレンズとなり人の目の見え方を修正するものです。目に直接入れるため眼鏡のような不便さがなく、多くの人が使っています。この商品を開発したジョンソン・エンド・ ジョンソンは、製薬、医療機器、ヘルスケア関連製品を取り扱う会社であり、コンタクトレンズ製品についてはアキュビューというブランドネームで広く販売しています。

今回発売されたコンタクトレンズは、周囲の光の量に応じてコンタクトレンズの色が変化し目に入る光の量をコントロールできるものです。野外で太陽光が眩しく感じるときにサングラスをかけますが、このコンタクトレンズは、眩しくなると自動で着色されて、サングラスをかけた時のような効果が得られるというものです。

実は色が変化する眼鏡・サングラスは古くから使われていて、調光レンズという名前で広く製品化されています。例えば、臭化銀が入ったガラスレンズは、紫外線によって可逆的に黒色の銀と臭素に変化します。また、プラスチックレンズを使った調光レンズには有機分子が含まれていて、例えば無色のSpiro-Oxazineが、紫外線によって結合が変化しMerocyanineという青色の呈色する分子に変化します。このように光によって色が変化するフォトクロミズムは、すでにメガネのレンズには使われていました。

フォトクロミズムの仕組み

 

今回、ジョンソン・エンド・ ジョンソンは、調光レンズ開発のパイオニアであるTransitions Optical社と共同開発することで世界初の調光コンタクトレンズの開発に成功しました。薄いコンタクトレンズに調光剤を配合することがチャレンジであり、製品化まで10年間以上かかったそうです。そもそもソフトコンタクトレンズはハイドロゲルを素材とした製品であり、その中でもシリコーンハイドロゲルがこの商品を含めてコンタクトレンズの主流になっています。関連する特許によるとシリコーンが結合したアクリルアミドモノマーとシリコーンを含まないアミドモノマーを組み合わせて重合することにより、コンタクトレンズの性能において重要な酸素透過性と親水性の両方を兼ね備えたゲルになるようです。

コンタクトレンズに使われる化合物の一例

世の中には、カラーコンタクトレンズ(カラコン)と呼ばれる、瞳を大きく見せるための着色されたものもありますが、カラコンは、色素をモノマーで挟み込んでから成形することで製造されているそうです。そのためこの調光コンタクトレンズも紫外線によって色が変化するフォトクロミック化合物をモノマーに混ぜて製造していると考えられます。ただし、ポリマー内に存在する分子が紫外線によって都合よく構造が変化し、しかも水存在下で分子が溶け出さないことが安全性の面で必要です。さらには色の変化が2週間持続し製造ロットによって変化が同じであることも品質の観点から必要です。詳細な技術情報は公開されていませんが、これらの多くの技術的な課題を乗り越えるのに10年を要したことは納得できます。

12月から発売するのは2週間で交換するタイプのコンタクトレンズです。一日使い捨てタイプや乱視用タイプなどについても、調光機能付きコンタクトレンズが今後発売されることを期待します。また、紫外線によって分子の構造変化が起きるため、紫外線カットガラスが搭載されている車内では色の変化が少ないそうです。そのため、紫外線以外の要因で構造変化が変化する調光コンタクトレンズの開発にも期待します。

関連書籍

関連リンクとケムステ過去記事

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 2017年10大化学ニュース
  2. やせ薬「塩酸フェンフルラミン」サヨウナラ
  3. 積水化学工業、屋外の使用に特化した養生テープ販売 実証実験で耐熱…
  4. 大鵬薬品、米社から日本での抗癌剤「アブラキサン」の開発・販売権を…
  5. 第32回 BMSコンファレンス(BMS2005)
  6. ヤマハ発動機、サプリメントメーカーなど向けにアスタキサンチンの原…
  7. 自己多層乳化を用いたマトリョーシカ微粒子の調製 〜油と水を混ぜて…
  8. 風力で作る燃料電池

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. SciFinderマイスター決定!
  2. 第27回 「有機化学と光化学で人工光合成に挑戦」今堀 博 教授
  3. 【マイクロ波化学(株)環境/化学分野向けウェビナー】 #CO2削減 #リサイクル #液体 #固体 #薄膜 #乾燥 第3のエネルギーがプロセスと製品を変える  マイクロ波適用例とスケールアップ
  4. 2011年ノーベル化学賞予想ーケムステ版
  5. 蛍光標識で定性的・定量的な解析を可能に:Dansyl-GSH
  6. マーシャル プロパルギル化 Marshall Propargylation
  7. 石油化学プラントの設備内部でドローンを飛行する実証事業を実施
  8. ホウ素と窒素で何を運ぶ?
  9. アイディア創出のインセンティブ~KAKENデータベースの利用法
  10. 蒲郡市生命の海科学館で化学しようよ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

分子は基板表面で「寝返り」をうつ!「一時停止」蒸着法で自発分極の制御自在

第613回のスポットライトリサーチは、千葉大学 石井久夫研究室の大原 正裕(おおはら まさひろ)さん…

GoodNotesに化学構造が書きやすいノートが新登場!その使用感はいかに?

みなさんは現在どのようなもので授業ノートを取っていますでしょうか。私が学生だったときには電子…

化学者のためのWordマクロ -Supporting Informationの作成作業効率化-

「化合物データの帰属チェックリスト、見やすいんですが、もっと使いやすくならないですか」ある日、ラ…

酢酸ウラニル(VI) –意外なところから見つかる放射性物質–

酢酸ウラニル(VI) (UO2(CH3COO)2·2H2O) はウラニル (二酸化ウ…

機械学習と計算化学を融合したデータ駆動的な反応選択性の解明

第612回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学 大学院理工学府(五東研究室)博士課程後期1年の坂…

超塩基配位子が助けてくれる!銅触媒による四級炭素の構築

銅触媒による三級アルキルハライドとアニリン類とのC–Cクロスカップリングが開発された。高い電子供与性…

先端領域に携わりたいという秘めた思い。考えてもいなかったスタートアップに叶う場があった

研究職としてキャリアを重ねている方々の中には、スタートアップは企業規模が小さく不安定だからといった理…

励起パラジウム触媒でケトンを還元!ケチルラジカルの新たな発生法と反応への応用

第 611 回のスポットライトリサーチは、(前) 乙卯研究所 博士研究員、(現) 北海道大学 化学反…

“マブ” “ナブ” “チニブ” とかのはなし

Tshozoです。件のことからお薬について相変わらず色々と調べているのですが、その中で薬の名…

【著者に聞いてみた!】なぜ川中一輝はNH2基を有する超原子価ヨウ素試薬を世界で初めて作れたのか!?

世界初のNH2基含有超原子価ヨウ素試薬開発の裏側を探った原著論文Amino-λ3-iodan…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP