[スポンサーリンク]

ケムステニュース

米陸軍に化学薬品検出スプレーを納入へ

[スポンサーリンク]

米センサー・システムのフリアーシステムズは、化学兵器として使用されるマスタードガスなどを検出するスプレーを米国陸軍に納入する契約を獲得したと発表した。マスタードガスなどが機器や衣類の表面に存在する場合、色の変化によって検出することができる。微量な汚染を迅速かつ正確に検出でき、前線の要員の防護に役立つ。契約の規模は最高3510万ドルで、時期数量未確定(IDIQ)方式の契約となっている。 (引用:時事通信10月4日)

今回、アメリカの陸軍で採用が決まったのは、フリアーシステム(FLIR)のCHEMICAL AGENT DISCLOSURE SPRAY Agentase C2です。使い方は簡単で、A液とB液が混合されて噴射できるスプレーで汚染が疑われるところに吹きかけるだけです。もしもG剤V剤の神経ガスやマスタードガスなどのびらん剤で汚染されている場合には、5分以内に色が黄色から赤色に変わって汚染箇所が特定できるというものです。

神経ガスやマスタードガスの一例

戦車などの大型の物体に対しては、下の動画のようにスプレーガンを使って迅速に吹きかけることも可能なようです。

商品説明欄には、酵素のテクノロジーを使った商品だと記載されています。FLIRでは、Agentaseの仕組みに関する特許を出願していて、これを読むとAcetylcholinesteraseUreaseが酵素として使われていることが推測されます。神経ガスである有機リン酸は、Acetylcholinesteraseの反応を阻害し、臭化シアン化合物は、Ureaseの反応を阻害します。どちらの酵素も反応が進行すると、それぞれ酸と塩基を発生させるため、系のpHは中性に保たれます。しかしながら、阻害剤が存在する(=神経ガスが存在する)とどちらかの活動が素材されてpHが酸性か塩基性に傾き、スプレー液に含まれている指示薬が反応して色が変わるという仕組みのようです。本特許からは、マスタードガスをはじめとする硫黄化合物の検出方法はわかりませんでしたが、神経ガス同様に酵素の働きが阻害されることでpHが変化しそれを指示薬で色の変化に変換して可視化していると予測されます。つまりA液には酵素と酵素安定化剤、安定化糖、界面活性剤などが含まれていて、B液には、pH指示薬のほか光散乱添加剤などが含まれているようです。

FLIRは、赤外線を応用した装置の製造・販売がメインのビジネスであり、危険物の検出についても赤外線を使った装置を数多く開発されています。そのため、このニュースのような化学検出についてはどのような経緯で研究開発を始めたかわかりませんが、機械による検出の欠点を知っているからこそ化学検出についてアメリカ軍と共同で研究を行ってきたのかもしれません。なお、 Agentase CAD-Kit/HRKは、日本でも取り扱いがあるようです。ただ、写真を見る限り、毒物によって薬品を使い分ける必要があり、Agentase C2では作業を簡便にするために配合を改良し薬品をまとめることに成功したと推測されます。

化学兵器についてはときどきニュースになり、アメリカ軍も本製品を本格採用したということから、残念ながら化学兵器が根絶される日はまだ遠いことがわかります。化学兵器は、核兵器よりも製造が難しくなく、散布するだけで甚大な被害を広範囲、長い期間与えてしまうため、テロでも使用されることも想定されます。このような化学製品の研究開発は、大変不本意に感じますが、Agentase C2が広まり化学兵器による被害が少なくなればと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4887218028″ locale=”JP” title=”化学・生物兵器の歴史”] [amazonjs asin=”4622074133″ locale=”JP” title=”神経ガス戦争の世界史―第一次世界大戦からアル=カーイダまで”]

毒に関するケムステ過去記事

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 環境対策と経済性を両立する電解酸化反応、創造化学が実用化実験
  2. 有機化合物合成中に発火、理化学研が半焼--仙台 /宮城
  3. 新型コロナウイルスをブロックする「N95マスクの95って一体何?…
  4. 三井化学、出光興産と有機EL材料の協業体制構築で合意
  5. 米国の博士研究員の最低賃金変更
  6. 福井県内において一酸化炭素中毒事故(軽症2名)が発生
  7. 旭化成、5年で戦略投資4千億
  8. 農薬メーカの事業動向・戦略について調査結果を発表

注目情報

ピックアップ記事

  1. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ募集】
  2. 世界⼀包括的な代謝物測定法の開発に成功〜ワンショットで親⽔性代謝物を⾼感度かつ網羅的に測定!〜
  3. ポンコツ博士の海外奮闘録 外伝② 〜J-1 VISA取得編〜
  4. 健康食品 高まる開発熱 新素材も続々
  5. 蓄電池 Rechargeable Battery
  6. イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成
  7. マイクロ波によるケミカルリサイクル 〜PlaWave®︎の開発動向と事業展望〜
  8. 還元的アルドール反応 Reductive Aldol Reaction
  9. “関節技”でグリコシル化を極める!
  10. 『Ph.D.』の起源をちょっと調べてみました② 化学(科学)編

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー