[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ミツバチの活動を抑えるスプレー 高知大発の企業が開発

[スポンサーリンク]

ミツバチをおとなしくさせるスプレー「ビーサイレント」を高知大学発のベンチャー企業「KINP(キンプ)」が開発した。昨年4月にはスズメバチの攻撃性を一時的に失わせるスプレーを発売しており、第2弾となる。  (引用:朝日新聞9月21日)

KINPは、2016年に高知大学教育研究部総合科学系生命環境医学部門の金哲史教授によって設立されたベンチャー企業です。金先生は、化学生態学がご専門で昆虫や植物の生理活性物質を調べ、その構造式を明らかにし、農業やの現場に応用できる技術の開発を行っているようです。

KINPでは、スズメバチ類・アシナガバチ類に対する忌避剤を開発してきました。秋になるとスズメバチの活動が活発になり、刺されたりした被害のニュースをよく聞きますが、よく使われている虫よけ剤はスズメバチに対して効果がなく確実な予防・防除手段はありませんでした。そこで、スズメバチが好む樹液と嫌う樹液を比較したところ、嫌う樹液には2-Phenylethanolが含まれていることを発見しました。さらに類似の化学構造について効果を確認したところ、Benzyl alcoholや3-Phenyl-1-propanol、1-Phenyl-2-propanol、Benzyl acetateでも同様の効果を確認しました。Benzyl alcoholは香料として食品にも使われている成分であるため、これを使ってスズメバチ向けスプレータイプの忌避剤、「スズメバチサラバ」を2018年に商品化しました。

スズメバチに効果があった分子の構造

今回開発したミツバチをおとなしくさせるスプレー「ビーサイレント」は、KINPが手掛けた商品の第二弾で、ミツバチの巣箱を点検する際にこのスプレーを使うとミツバチが巣箱に沈んでいくものです。通常、西洋ミツバチの巣箱を取り扱い際には燻煙器で作った煙を吹きかけ、ミツバチの興奮を抑えてから巣箱に手を付けます。しかしながら、都会では煙を使うことが避けられるため、スズメバチサラバをミツバチ向けに配合や濃度を改良した本商品を開発したそうです。

燻煙器

KINPではスズメバチサラバ据え置きタイプのモニター募集しています。スズメバチは、巣箱に侵入してミツバチを連れ去ったり食べてしまうため養蜂家にとって厄介者です。そこで、巣箱の出入り口にスズメバチサラバを設置してスズメバチの侵入を食い止めるようにするものだと思われます。また、登山やハイキングでは、人が常に移動するためスプレーの効果は限定的です。そのため、ミツバチ向けだけでなく、人が携帯できるような据え置き型が開発されればより使いやすいと思います。

スズメバチは確かに脅威ですが、農林業分野では害虫を駆除してくれる益虫でもあります。単にスズメバチを殺してしまうだけでは生態系のバランスを崩すだけでなく、私たちの生活にも影響を及ぼします。理想的にはこのような忌避剤のみで農業ができればよいのですが、現実的には強い殺虫剤を使わないと十分な収穫が得られない食物もたくさんあります。技術の発展により、よりよい害虫との付き合い方が開発されることを願います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4254431236″ locale=”JP” title=”新版 農薬の科学”] [amazonjs asin=”4882318466″ locale=”JP” title=”動物忌避剤の開発 (CMCテクニカルライブラリー)”]

関連リンクと農薬に関するケムスケ過去記事

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. のむ発毛薬で五輪アウトに
  2. タルセバ、すい臓がんではリスクが利点を上回る可能性 =FDA
  3. ヤクルト、大腸の抗がん剤「エルブラット」発売
  4. 大日本住友製薬が発足 業界5位、将来に再編含み
  5. グラクソ、糖尿病治療薬「ロシグリタゾン」が単独療法無効のリスクを…
  6. 旭化成の今期、営業利益15%増の1250億円に
  7. 住友化学、イスラエルのスタートアップ企業へ出資 ~においセンサー…
  8. 武田や第一三共など大手医薬、特許切れ主力薬を「延命」

注目情報

ピックアップ記事

  1. 新しい選択的ヨウ素化試薬
  2. ノーベル化学賞、米・イスラエルの3氏に授与
  3. 原子3個分の直径しかない極細ナノワイヤーの精密多量合成
  4. ペプチド縮合を加速する生体模倣型有機触媒
  5. 「重曹でお掃除」の化学(その1)
  6. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:②合成蛍光色素
  7. 電池長寿命化へ、充電するたびに自己修復する電極材
  8. マッチ博物館
  9. 光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発
  10. エドウィン・サザン Edwin M. Southern

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

次世代の二次元物質 “遷移金属ダイカルコゲナイド”

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー