ダイハツ工業と関西学院大学・理工学部・田中裕久研究室の研究グループは7月22日、福島第一原発廃炉に向けた課題の1つである水素安全の確立のため、自動車触媒を応用した「ハニカム型水素安全触媒」を開発したと発表した。 (引用:Response7月22日)
福島第一原子力発電所の事故から8年が経過し、廃炉に向けた作業が続けられていますが、廃炉にするためには、核燃料が一度溶融して原子炉内外で溶けた燃料デブリと呼ばれるものを取り出す必要があります。しかしながら、燃料デブリも高レベルの放射性物質であり、核分裂を続けているため、周囲の水が放射線によって水素に分解されてしまうことが課題となっています。燃料デブリを安全に運搬・保管するためには、放射線を遮蔽できる密閉容器に入れる必要がありますが、水素の爆発限界は4%から75%ととても広く、爆発を起こさないようにするためには水素の濃度を4%未満に保つ必要があります。そこで本研究では、水素を分解できる触媒の開発を行いました。
この研究は、ガソリン自動車用の排ガス触媒をこの水素除去に応用できないか考えたことが特徴で、具体的に下記4項目について検討が行われ、それぞれの項目で知見が得られました。
- 触媒性能評価:燃料デブリの核分裂を抑えるために容器を冷却することが予想され、低温でも水素を分解できることが必要です。そこで温度を変えて触媒の水素分解効率を測定しました。すると評価に用いた触媒は-20℃から活性があることがわかりました。
- 触媒反応メカニズム:触媒がどのような条件で水素と酸素が反応できるかを確かめるためにSPring-8を使って反応時に触媒の挙動を追跡しました。すると、Pdに結合している水素に酸素が近づき水が生成する水素過剰条件では、雰囲気がWet条件でも活性の低下は起こりにくく反応が続くことがわかりました。これにより密閉容器内で触媒の反応で水分が増えても触媒の活性が落ちないことが予想されます。
- スケールアップ:水素を6%充填した5,450 Lの容器に触媒を静置して水素の分解速度を測定しました。改良の結果、約3時間で水素濃度を1%以下に低下させることに成功し、約280 L/時間の水素を処理できる量産性の触媒であることが分かりました。
- 形状:触媒の形状についても検討され、燃料デブリの保管容器をほとんど改造することなく取り付けて水素の除去性能を発揮できるような触媒の試作に成功しました。
この研究では、自動車会社であるダイハツと関西学院大学・理工学部・田中裕久研究室が中心として進められ、大型放射光施設 SPring-8 における反応メカニズムに解析については日本原子力研究開発機構の協力により、触媒試作は、自動車用触媒の大手である株式会社キャタラーと日本ガイシ株式会社の協力により得られた成果です。また触媒改良の効果は、ドイツ・ユーリッヒ研究所 (Forschungszentrum Juelich GmbH) の大スケール反応装置にて実証されました。田中裕久教授は、自動車の触媒がご専門、エネルギー問題に関連した触媒の研究を行っています。
放射性物質を短期間で無害化することは不可能で、放射線を遮蔽できる容器に入れて安定同位体になるまで放置するしか手段はありません。この水素の問題も長期保管する上での課題であり、電気といった外部からのエネルギー供給がなくてもどんな時でも水素濃度を爆発限界以下に保つ技術が必要とされています。自動車用触媒も排気管接続され、自動車が廃車になるまで排ガスを浄化するために使われるものであり、使用条件が似ていることから応用が検討されたと推測されます。長期の安定性を短期間で実証することは大変難しいですが、原発事故をもう一度起こさずに廃炉を完了するために安全技術の確立を続けてほしいと思います。
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- 燃料デブリ等保管時の水素安全 技術のさらなる向上に目処:SPring-8プレスリリース
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