AIが作った香水がこのほどブラジルで発売された。といってもAIに嗅覚はないので、これまでの香水の配合データなどを基に、いろいろな成分の配合パターンをAIが提案し、それをベースに調香師が配合を調整した香水を幾つか用意した。消費者グループの人気投票の結果、調香師の調整なしのものが最も人気が高かったという。 (引用:AI新聞7月30日)
香水を作ったのはドイツの香料メーカーであるsymriseで、IBMとの共同研究で開発されました。Philyraと名付けられたAIには、170万種類の香水の処方のデータベースに加えて、国、性別、年齢別に好みのフレグランスのデータが搭載されていて香水の購入者ターゲットを入力すると最適な配合が示されるようになっています。実際に、ブラジルの化粧品メーカーであるO’Boticarioは、バレンタインデー向けに新製品の開発をsymriseに依頼し、symriseは1.Philyraの配合、2.Philyraの配合を少し調香師が改良した配合、3.調香師が独自に開発した配合の三種類を提示しました。するとO’Boticarioによる審査で、どの香水がAIによって開発されたものかについて隠されていたものの、大多数の人が1.Philyraの配合を選択しました。
調香師は、化粧品や芳香剤、洗剤などの香りを調合するエキスパートで、製品の要求に合わせて数千種類にも及ぶ香料を組み合わせ新しい香りを生み出します。symriseで39年もの調香師としてのキャリアがあるDavid Apelさんは、このプロジェクトでPhilyraの機械学習に携わりにました。最初は、David さんがPhilyraを教育しているようなものでしたが、Philyraの習熟度が上がり現在は、David さんが見たこともないような香水の配合をPhilyraが示すこともあるそうです。
人の評価では、性別や国籍、居住地などが公平な香りの評価を妨げるが、Philyraは公平なアプローチをしているとsymriseの香料部門の役員であるAchim Daubさんもを評価しています。そして調香師にとって嗅覚は重要ではなく、材料の配合によってどのような香りになるのかを理解することが必要で、それをまさにPhilyraが行っていると主張しています。一方Davidさんは、 Philyraが自分の仕事を奪うことを恐れておらず、むしろ人と機械の協力によって新しい香りを作ることができると考えています。人の知識と経験は創造性の壁となることがあり、例えば特定の香りを出すためにいくつかの材料を好んで使用する傾向があります。一方で、機械からは人が全く考えたこともない配合が生み出されると主張しています。
Philyraが開発した香水、Egeo ON MeとEgeo ON You は、ブラジルのバレンタインデーである6月12日に発売されました。
David さんは人間と機械の協力によってより良いものを作ることができるとしていますが、O’Boticarioによる審査では調香師が手を加えないAIの配合ほうが人気があったため、AIのみに頼ったほうが良い製品になるとも言えます。もちろん場合によりけりで、学習されていないターゲットに向けた製品、例えば猫が好む香水などに対してはAIと人が協力することで適した配合が開発できるのではと思います。経験がものをいう開発では、人が一人前になるまでに長い時間が必要になります。それは、過去の検討を読むだけでは身にならず、実際に開発を行わないと知識を蓄積できないからです。一方、機械はすべてを記憶し学習できるため、情報を整理してインプットするだけで学習されます。経験が長く何でも知っているマスターが開発現場に一人はいるかと思いますが、昨今の労働環境の変化によって次世代のマスターを育成できる余力がない場合も多く見られます。そのような状況下で、このAIという新入社員の導入で状況を改善できるかもしれません。
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