[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ダイキン、特許を無償開放 代替フロンのエアコン冷媒

[スポンサーリンク]

ダイキン工業は1日、エアコン用冷媒「HFC(ハイドロフルオロカーボン)32」の特許を外部に無償開放すると発表した。同社が2011年以降に申請した特許について、空調メーカーはダイキンと契約を結ばずに使える。代替フロン(HFC)の中でも環境負荷の小さいHFC32の普及を促すことで、過度な規制が今後設けられることをけん制する狙いがある。 (引用:日本経済新聞7月5日)

エアコンや冷蔵庫に使われている冷媒は、かつてオゾン層を破壊するクロロフルオロカーボンが使われていました。現在はオゾン層は破壊しないハイドロフルオロカーボン(HFC)が使われていますが、依然として地球温暖化係数(GWP)は高いという問題があります。地球温暖化係数を下げるには、分子中のフッ素原子を少なくしてある程度、水素原子で置換すれば良いのですが、その分可燃性が高くなり扱いが難しくなります。そこで現在は下記のHFCが冷媒として使用されています。

冷媒としての性能、低い可燃性、低いGWPすべての要求を満たすために、冷媒を混合する方法があり、R407CやR410Aはそれに該当します。しかし、混合冷媒をエアコンに入れる場合、液体で移送しなくてはならず、またGWPも依然として1000を超えています。そこでダイキンは、単組成でGWPが低いものの微燃性があるR32を安全に冷媒として使えるような機器の開発を進め、2012年に世界で初めてR32を使用した家庭用空調機を発売しました。

R32を冷媒としたダイキンのエアコン、現在では代金の全機種にR32が使われている。

背景の説明が長くなりましたが、ダイキンはこのR32の使用を促進するために保有している特許を外部に無償開放することを発表しました。つまり、他社が公開した特許に抵触する技術を使ってもダイキンは侵害を訴えないと宣言したことになります。2011年からは途上国限定で、2015年からは全世界で無償開放しましたが、個別契約が必要で、交渉に1年以上かかることもありました。しかし今回の発表では事前にダイキンに使用の許可を取る必要もなく、この宣言を将来にわたって撤回することもないとしています。該当する特許はこちらに掲載されていて、日本語の特許をざっと見たところ空調機器のハードウエアに関する特許がほとんどでした。ダイキンのプレスリリースを解釈すると、該当する特許技術が自由に使えるわけではなくR32単体冷媒を用いた空調機の製造や販売では特許の権利を行使しないということであり、他の冷媒を使った場合には、特許の権利を行使するようです。またダイキンがR32単体を使った機器を使用する際に、他社が特許侵害を訴えた場合には、この宣言を撤回するとしています。また、R32単体と限定しているため、混合冷媒については無償開放の対象外のようです。ダイキンとしてもより良い混合冷媒の開発を続けていて、特定の混合比の冷媒は積極的に特許(例えば、特開2019-64932)でプロテクトしているように見えます。

冒頭でも紹介しましたが、HFCでも一定のGWPがあるため、今年からHFCも段階的に排出を抑える必要があります。GWPが高いHFCの需要が続くとHFCそのものの規制が強まる恐れがあるため、ダイキンとしてはHFCの中でもGWPが低いR32が広く普及し過度なHFCに対する規制が今後設けられることをけん制する狙いがあるようです。ダイキンは空調機器とHFCどちらも販売しているため、特許の無償開放で自社の空調機器の売り上げが落ちてもHFCの売り上げが増えるメリットはあるように思えます。ただし空調機器の売り上げのほうが化学品のよりも10倍多いのでビジネスインパクトはわかりませんが、なにより規制でHFCとそれを使った空調機器がまったく売れなくなってしまう将来を危惧した判断があったのではと思います。

ダイキン工業株式会社の売り上げ(出典:2019年3月期決算短信

冷蔵庫などは、フッ素を使わない冷媒に切り替わっていますが、空調機器は冷蔵機器に比べてパワーが必要でハイドロフルオロカーボンの冷媒が必要なようです。カーエアコンにはR1234yfと呼ばれる、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)が使われ始めています。GWPはR32よりもとても低く1ですが、微燃性と高価であることがネックとなっています。そのため当面はダイキンが目指すように、ハードウエアで安全性を高めてGWPがそこそこなR32を使うのが現実的ではないかと思います。

R1234yf(2,3,3,3‐テトラフルオロプロペン)

関連書籍

[amazonjs asin=”4889671196″ locale=”JP” title=”冷媒圧縮機 (日本冷凍空調学会専門書シリーズ)”] [amazonjs asin=”4889670661″ locale=”JP” title=”HFC系純粋および混合冷媒の熱力学性質―Thermodynamic properties of pure and blended hydrofluorocarbon(HFC) refrigerants”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 花王、ワキガ臭の発生メカニズムを解明など研究成果を発表
  2. タミフル、化学的製造法を開発…スイス社と話し合いへ
  3. 三菱商事ナノテク子会社と阪大院、水に濡れるフラーレンを共同開発
  4. 99.7%の精度で偽造ウイスキーを見抜ける「人工舌」が開発される…
  5. 同仁化学研、ビオチン標識用キットを発売
  6. 痔治療の新薬で大臣賞 経産省が起業家表彰
  7. <アスクル>無許可で危険物保管 消防法で義務づけ
  8. 夏:今年もスズメバチ防護服の製造ピーク

注目情報

ピックアップ記事

  1. 研究のための取引用語
  2. 一流ジャーナルから学ぶ科学英語論文の書き方
  3. マテリアルズ・インフォマティクスの推進を加速させるためには?
  4. 経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】
  5. フェティゾン試薬 Fetizon’s Reagent
  6. 酵素の分子個性のダイバーシティは酵素進化のバロメーターとなる
  7. 光レドックス触媒と有機分子触媒の協同作用
  8. 西田 篤司 Atsushi Nishida
  9. 小学2年生が危険物取扱者甲種に合格!
  10. 旭化成の吉野彰氏 リチウムイオン電池技術の発明・改良で 2019 年欧州発明家賞を受賞

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年7月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

【産総研・触媒化学研究部門】新卒・既卒採用情報

触媒部門では、「個の力」でもある触媒化学を基盤としつつも、異分野に積極的に関わる…

触媒化学を基盤に展開される広範な研究

前回の記事でご紹介したとおり、触媒化学研究部門(触媒部門)では、触媒化学を基盤に…

「産総研・触媒化学研究部門」ってどんな研究所?

触媒化学融合研究センターの後継として、2025年に産総研内に設立された触媒化学研究部門は、「触媒化学…

Cell Press “Chem” 編集者 × 研究者トークセッション ~日本発のハイクオリティな化学研究を世界に~

ケムステでも以前取り上げた、Cell PressのChem。今回はChemの編集…

光励起で芳香族性を獲得する分子の構造ダイナミクスを解明!

第 654 回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 協奏分子システム研究セ…

藤多哲朗 Tetsuro Fujita

藤多 哲朗(ふじた てつろう、1931年1月4日 - 2017年1月1日)は日本の薬学者・天然物化学…

MI conference 2025開催のお知らせ

開催概要昨年エントリー1,400名超!MIに特化したカンファレンスを今年も開催近年、研究開発…

【ユシロ】新卒採用情報(2026卒)

ユシロは、創業以来80年間、“油”で「ものづくり」と「人々の暮らし」を支え続けている化学メーカーです…

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー