[スポンサーリンク]

ケムステニュース

ヘリウムガスのリサイクルに向けた検討がスタート

[スポンサーリンク]

冷やすと電気抵抗がゼロになる超電導材料の低温研究から医療機器や半導体製造まで、幅広く使われているヘリウムの調達が難しくなっている。ヘリウムを使用後に大気放出している企業に対し、研究所がリサイクルを手伝うことで“ヘリウム危機”を乗り越えられないか、検討に入った。  (引用:日刊工業新聞6月7日)

NMRやGCでおなじみのヘリウムですが、過去幾度となく供給不足になってきました。筆者がGCを管理していた時は、ヘリウムガスの納期が三週間以上かかり悩まされていた時もありました。そのヘリウムガスについて世界生産の約6割を占める米国は戦略物資と位置付け、国外への販売を2021年に終了します。また同じく生産の3割を占めるカタールは周辺国との国交断絶で船便の遅れが目立っています。このような状況で販売が絞られ値上げが進行しています。

日本での状況に目を向けると、販売量は過去5年間、横ばいで需要の変化はありません。主の用途はNMR+MRI(以下、核磁気共鳴装置)の超電導コイルの冷却や半導体、光ファイバーの製造に使われています。リークテストというのは、気体や液体の配管を向上などで作った後に漏れがないか調べることで、配管を真空にして接合した箇所に外側からヘリウムガスを噴射します。漏れがあると配管内にヘリウムが混入し接続した検出器がヘリウムを検知する仕組みです。減圧できない場合には、配管をヘリウムで満たし検出器を接合個所に近づけてヘリウムが漏れていないか確認します。空気中にヘリウムが微量しか含まれていないこと、不活性ガスで毒性・爆発性がなく安全であること、分子径が小さいため漏れ箇所に入りやすいこと、試験体などからの放出ガスにはほとんど含まれないことからヘリウムが使われています。

各大学にはNMRをはじめとするヘリウムを使用する機器が多く稼働していますが、ヘリウム再生設備をもつ大学も珍しくはありません。このような大学では、機器から排出されたヘリウムは配管を通して管理設備(低温センターと呼ばれる施設)で回収、精製、液化されるので70%以上はリサイクルされているようです。一方、民間では、回収して再使用することはほとんど行われていません。それはヘリウムの使用用途によっては、空気や他のガスと混ざってしまい再生を困難にしているからです。また純粋なヘリウムガスの再液化であっても設備はとても高価です。さらに高圧ガス保安法では、ガスを昇圧したり液化することも製造行為として定義されていて、届け出が必要になります。このような障壁でヘリウムの再生設備は民間では導入されていないようです。そのためヘリウムの価格が上がっても需要が急激に減少することはなく、研究所などへの供給には後回しになっていて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、観測気球用ヘリウムが十分に確保できず実験計画を変更したことを記者会見で明らかにしたそうです。

金沢大学のヘリウム液化設備(引用:金沢大学

このようにヘリウムの供給が緩和される希望はなく、民間では自前で再利用する設備の積極的な導入が期待できないことから、民間の使用済みのヘリウムを回収して大学の再生設備を利用して再利用する構想が、東大物性研を中心に考えられています。液化装置は巨大ですが、加圧してガスシリンダーで戻すくらいならば核磁気共鳴装置に付帯すること可能であると思います。

東大、物性研でのヘリウム回収率(引用:物性研究所 低温液化室

上記に取り組みに関しては、ヘリウムの充填が不要なNMRは開発されていますが、NMRは寿命の長い機器であり、すぐに日本中のNMRが切り替わるとは考えにくいので、核磁気共鳴装置から蒸発するヘリウムガスの回収においては大変有効であると思います。ただし、ガスをシリンダー貯めるためには加圧が必要です。ヘリウムの5MPaを超える加圧も高圧ガス保安法では製造行為となりますので、たくさん貯めようとすると大きな容器が必要になります。さらに磁性の容器は核磁気共鳴装置にくっついてしまうのでより高価な非磁性のガスシリンダーが必要になります。その制約と再生設備までの配送コストで割に合うかどうかがポイントではないでしょうか。

ヘリウムの産出地は限られていますが、新たな場所が見つかったという報道もあります。取引価格がさらに上昇すれば、新たな場所からの採掘や精製テクノロジーの商業化のニーズが上昇しそれによって供給が増え、供給が安定されることに期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4904905504″ locale=”JP” title=”工業ガスマーケティング年鑑「ガスジオラマ2015」”] [amazonjs asin=”4274223523″ locale=”JP” title=”2019-2020年版 高圧ガス製造保安責任者試験 丙種化学(特別) 攻略問題集”]

関連リンクとケムステ過去記事

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 富山化学とエーザイ 抗リウマチ薬(DMARD)T-614を国内申…
  2. 「2010年トップ3を目指す」万有製薬平手社長
  3. 茅幸二、鈴木昭憲、田中郁三ら文化功労者に
  4. 積水化学、工業用接着剤で米最大手と提携
  5. 千葉大など「シナモンマスク」を商品化 インフル予防効果に期待
  6. 【10周年記念】Chem-Stationの歩み
  7. AIが作った香水、ブラジルで発売
  8. 化学かるた:元素編ー世界化学年をちなみ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 当量と容器サイズでヒドロアミノアルキル化反応を制御する
  2. 2016年ケムステ人気記事ランキング
  3. 発光材料を光で加工する~光と酸の二重刺激で材料加工~
  4. 印象に残った天然物合成1
  5. 有機反応の仕組みと考え方
  6. 【太陽HD】新卒採用情報(20年卒)
  7. コバルト触媒でアリル位C(sp3)–H結合を切断し二酸化炭素を組み込む
  8. 玉尾・フレミング酸化 Tamao-Fleming Oxidation
  9. ノーベル週間にスウェーデンへ!若手セミナー「SIYSS」に行こう!
  10. 第16回 結晶から結晶への化学変換 – Miguel Garcia-Garibay

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP