平成の時代が幕を閉じ、令和の時代が始まりました。そこでケムステニュースとともに平成でどのようなことが起きたのか振り返ります。
ケムステニュースの軌跡
ケムステニュースは2004年(平成16年)から始まり、これまでに894の記事を公開してきました。化学に関連するプレスリリースや事件・事故、イベント情報など、時事ネタを一般のニュースよりも深く掘り下げて紹介することをコンセプトに執筆を行っています。
最初のケムステニュースは、「アルツハイマー病・ワクチン開発相次ぐ、副作用回避へ知恵絞る」で、アルツハイマー病の治療用ワクチンの研究開発が進展しているという記事でした。この記事から15年経ちましたが、残念ながら有効なワクチンや治療薬の市販化には至っていません。治療薬に至っては、アルツハイマー病治療薬の最有力候補が開発中止になるというような報道も2019年4月になってからありました。しかし、今もなお多くの研究者が有効な成分の研究を続けているので近い将来、治療薬が開発されることに期待します。
ケムステニュースの中で最も多く表示されているのは、「日本最大の化学物質データーベース無料公開へ」で日本化学物質辞書Web(日化辞Web)を紹介した記事でした。当時、自分はまだ高校生でしたが、いろいろな分子に興味を持ちこの日化辞Webを使って検索していた気がします。この日化辞WebはJ-GLOBALと統合され、構造だけでなく論文の情報とともに検索できるようになりました。構造を調べることに関してはこの15年で大きく変わり、構造だけならググればどんな複雑な分子でも表示されるようになり、Scifinder等の検索サービスを使えば、物性や分子の機器分析値、使用している論文、反応、試薬として購入する場合の価格までもわかるようになりました。
平成の5大ケムスケトピック
平成といってもケムステニュースが始まった平成16年以降の記事になってしまいますが、注目度が高かった5つのトピックについてケムステ過去記事とともに紹介します。
日本人のノーベル賞受賞
毎年、ノーベル賞の発表時期になるとケムステでは大変な盛り上がりを見せます。特に日本人のノーベル賞受賞は、大きなニュースとなりました。平成の時代になってから化学、物理学、医学・生理学の受賞が飛躍的に多くなりました。しかしながら、受賞のきっかけとなった研究は、数十年前であり、先生方の長きにわたる研究の賜物であることは間違いありません。研究費に関する問題は、ノーベル賞受賞者を巻き込んで大きな議論になったこともありましたが、今後も国を挙げて科学技術の発展をサポートを続けてほしいと思います。
- 速報! ノーベル物理学賞2014日本人トリプル受賞!!
- 【速報】2015年ノーベル生理学・医学賞ー医薬品につながる天然物化学研究へ
- 【速報】2010年ノーベル化学賞決定!『クロスカップリング反応』に!!
- ノーベル化学賞:下村脩・米ボストン大名誉教授ら3博士に
ニホニウム
113番目の新元素として理化学研究所が発見した新しい元素がニホニウムと命名されたニュースです。新しい元素の合成は、有機化合物の合成とは全く異なりますが、日本そのものの名前がついたことには大きな驚きがありました。理研での研究は続けられていて、令和の時代には日本発の元素第二号が生まれるかもしれません。
企業の合併
国内外の化学、製薬、石油会社が合併を行いました。一通り終わった感がありますが、先日の日立化成についての報道などもあり今後も経営の合理化により合併や分離などは十分にあると思います。
- 出光・昭和シェル、統合を発表
- 相次ぐ海外化学企業の合併
- 経営統合のJXTGホールディングスが始動
- ダウとデュポンの統合に関する小話
- 田辺製薬と三菱ウェルファーマが10月1日に合併へ‐新社名は「田辺三菱製薬」
- 三井化学と日産化学が肥料事業を統合
- 大日本製薬と住友製薬が来年10月合併・国内6位に
- 三共、第一製薬が統合へ 売上高9000億円規模
毒・クスリ
ケムステでは取り上げていませんが、和歌山カレー事件が平成最大の毒を使った事件ではないでしょうか。また、金正男氏が毒をかけられて殺された事件は、殺された対象と手法に大変な驚きがありました。覚せい剤をはじめとするクスリの事件もたびたび起きています。化学のテクノロジーをこのような目的で使うことは断じて許されず、令和の時代ではなくなることを切に願っています。
- 化学的に覚醒剤を隠す薬物を摘発
- マレーシア警察:神経剤VX検出で、正男氏は化学兵器による毒殺と判定
- 死刑囚によるVXガスに関する論文が掲載される
- ヒアリの毒素を正しく知ろう
- 静岡大准教授が麻薬所持容疑で逮捕
- 兵庫で3人が農薬中毒 中国産ギョーザ食べる
電子材料
ケムステニュースが始まった2004年に自分は、携帯電話(ガラケー)を買ってもらいました。それから15年今では、スマホ、タブレット、スマートウォッチと電子デバイスに囲まれた生活を送っているように、誰もが一台以上の電子デバイスを持つようになりました。またLEDも多く使われるようになり、現在では有機、無機LEDが幅広い光源に使われています。これらの発展には化学の貢献もあり各化学会社、電子材料の売り上げを大きく伸ばしました。電子材料の研究は進んでいて特にグラフェンやカーボンナノチューブなどのマテリアルの本格的な応用には今後の発展に期待します。
- 室温で緑色発光するp型/n型新半導体を独自の化学設計指針をもとにペロブスカイト型硫化物で実現
- 有機ELディスプレイ材料市場について調査結果を発表
- 「炭素ナノリング」の大量合成と有機デバイス素子の作製に成功!
- 世界初の有機蓄光
- 一重項励起子開裂を利用した世界初の有機EL素子
- 有機光触媒を用いたポリマー合成
- 代表的有機半導体の単結晶化に成功 東北大グループ
- 近年の量子ドットディスプレイ業界の動向
番外編:TVのチカラ
「メガネが不要になる目薬「Nanodrops(ナノドロップス)」」というケムステニュースを2018年3月に公開しました。多くの記事は、公開直後に最大の表示数を示しだんだん少なる傾向をとります。この記事も同様の傾向でしたが、どうも2018年11月にこのナノドロップスがTVで取り上げられたようで、2018年11月に表示数が急増し結局最大の表示数を示しました。このほかにもTVで取り上げられて表示数が急上昇した記事はあり、現代はTV離れでネットでコンテンツを見る時代とよく言われますが、TVがきっかけでネットを見る人も依然としてあることがわかりました。
最後に
一般的なニュースサイトでは、一定期間たつとニュースの記事が消えてしまう場合も少なくありません。しかしケムステでは記事をずっと残しているので何年たっても振り返ることができ、それをモチベーションとして記事を作成し続けています。令和の時代には明るいケムステニュースをたくさん配信できることを願ってやみません。今後ともケムステニュースを何卒よろしくお願いします!