化学変化を加えると覚醒剤に加工できる指定薬物を密輸しようとしたなどとして、東京税関成田支署と成田空港署は20日、医薬品医療機器法違反(営利目的輸入)などの疑いで、中国人の男を現行犯逮捕したと発表した。逮捕は2月28日。同支署によると、同薬物が指定された2017年12月以降の容疑で摘発したのは全国で初めて。千葉地検は20日、同法違反罪などで男を起訴した。
同支署によると、摘発した指定薬物は「t-BOCメタンフェタミン」。液体状で、覚醒剤のメタンフェタミンに「t-BOC基」を加えて化学的に覚醒剤を隠した薬物。化学的処理で再び覚醒剤に戻すことができる。千葉日報 2019.3.21
この商売をしておりますと、「化学的」とか「化学物質」などの用語がニュースに入っていると過敏に反応してしまいます。このニュースでは覚醒剤を「化学的に隠す」という耳慣れない言葉で表現しており、一瞬どういうことなのか分かりませんでした。
t-Bocメタンフェタミンという物質名がでてきて、あーなるほどと腑に落ちましたが、普通は意味不明だと思います。覚醒剤の成分としてメタンフェタミンという物質が知られていますが、その前になにやらついてますね。これが一体なんなのかと言いますと、有機化学的には「保護基」という用語で表現されるものです。
化合物を他の化合物へ変換したい場合、何らかの試薬を加えて反応を行うわけですが、その反応条件においてその化合物のうち変わって欲しくない他の部分が影響を受けてしまう場合が多々あります。そのような場合、変わって欲しくない部分を「保護」しておく必要があるのです。そういった場合、一時的にその部分を「保護基」をくっつけておいて反応を行い、望む変換が終わったあとにその保護基を外せばよいという戦略です。
メタンフェタミンの場合はそのような反応の必要がありません。では何故メタンフェタミンのアミノ基を「保護」しているんでしょうか?これはメタンフェタミンを検出できる警察犬の探知や検出方法を免れるための措置と考えられます。密輸が成功した後で国内のどこかの施設でBoc基を外す操作(一般にBoc基は酸で外せます。詳しくはこちら)を行うことでメタンフェタミンを「再生」する予定だったのでしょう。
この辺りは比較的盲点だったようで、なかなか規制が難しい物質群であったようですが、近年メタンフェタミンの前駆体となりうる化合物群が指定薬物として指定されていたようです。
いずれにしても化学の力を悪用する犯罪は決して許しません。