男性の避妊法はXXドームを付ける一時的なものか、パイプカットを行って完全に生殖行為を不可能にするかという極端な二択の状態です。そんな中、カクテルにインスパイアされた男性向け避妊法が、中国の研究者らによって開発されました。 (引用:Gigazine2月4日)
またZeoliniteはXXドームの話か。いいえ、今回はそのXXドームの代替になるかもしれない技術の紹介です。
今回の論文の著者は中国、江西省にある南昌大学の王小磊教授らのグループで、生物学や医学で応用できるマテリアルの研究を行っているようです。そのため本論文もACS Nanoからの発表ですしAdvanced Materialからも数多くの論文が発表されています。
まず研究の背景ですが、男性に対する一時的な避妊方法は開発途中であり、薬の場合は副作用が心配され、手術による方法も現在発表されている技術では、回復手術が必要であったり、精巣へのダメージが心配されていたりします。そこで、筆者らは安全で、避妊性が高く、非侵襲性の方法で回復できる方法が理想の一時的な避妊方法であると考え今回の技術「A Cocktail-Inspired Male Birth Control Strategy with Physical/Chemical Dual Contraceptive Effects and Remote Self-Cleared Properties」を発表しました。
題名の通りカクテルのようにケミカルを精管に層状に注入することで、精子が外に出ることを防ぎ、外部からの刺激(=カクテルの撹拌)でそのマテリアルが外に排出され避妊機能が解除される仕掛けです。カクテルは下記の四層によって構成されていていて(1が精巣側、4が対外側)
- PEG-AuNps:還元により合成された金ナノ粒子とポリエチレングリコールの複合体で物理的に精子をせき止めます。
- EDTA:エチレンジアミン四酢酸であり化学的に精子の運動を阻害します。
- PEG-AuNps:1と同じです。
- SA:アルギン酸カルシウムゲル:長期的に物理的に精子をせき止めます。
この順番でケミカルを精管に注入すると、SAは架橋を起こして固化します。PEG-AuNpsも37度で固体になるように設計されているため体内で固まり、これにより精子は精管でせき止められます。避妊を止めるときは、近赤外線を数分間照射します。するとPEG-AuNpsが溶けてEDTAと徐々に混ざり始め、さらに混ざったEDTAがSAを溶かしすべてのケミカルが溶けて排出されるという仕組みです。
本論文では、まず精管でカクテルができるか確認するためにチューブを使った評価を行いました。さらには各ケミカルの精子への影響、注射器により注入可能な粘度のチューニングなどの評価を行い最終的にはラットを用いた避妊の検証を行いました。すると、
- カクテルを注入してから5日目後にラットの交配が確認された。カクテルの注入量が少ないと精子の排出が確認されメスのラットの分娩が確認された(避妊失敗)が注入量を最適化すると65日間精子の排出は確認されなかった。
- カクテルを注入してから2~4日後に赤外光を当てると精子の排出が確認されメスのラットの分娩が確認された。
という結果になったそうです。この結果についてサルを使って同様の研究を行っているUC DavisのCatherine A. VandeVoort教授は、
- 何匹のラットにテストして、カクテル注入に成功したラットの数などの実験条件の詳細が記載されていない。VandeVoort教授の経験によれば、精管にケミカルを注入することは難しい。
- 避妊の効果がどれくらい続くかが示されていない。
- なぜ調査を65日で止めたか示されておらず、長期間体内にとどめたときのカクテルがどうなっているか調査すべき。
と手厳しいコメントをしているものの、赤外光でコントロールすることは、非常に興味深いとしています。ちなみにVandeVoort教授のチームでは、Vasalgelという精管に注入して精子の排出を阻害するポリマーを使った研究結果を報告していますが、そのポリマーを簡便に取り出すことについては検討していないようです。もちろん本論文の結論でも、ラットを使った実験には足りないところがあり、実験を続ける必要があることは認めていて、また精管を長期間閉塞させたときの副作用についても調べる必要があるとしています。金ナノ粒子に関しても人体への影響が完全に理解されているわけではないので、実用化段階になった時に安全性については他のケミカル以上に懸念されるかもしれません。
ラットの実験についてはいろいろとツッコミどころはありますが、論文がACS Nanoにて発表されたことを考えれば、精子の可逆的阻害という応用に対する金ナノ粒子を使ったアイディアとその基礎実験結果が評価されたといえます。またこの赤外光を使って管の閉塞を解除する”ケミカルバルブ”は、弁が付けられないほど細い管や、管に弾力性が必要で機械的には閉塞しにくいものなど、一度きりしか使えないですが、他の分野でも応用できるアイディアではないかと思います。