[スポンサーリンク]

ケムステニュース

台湾当局、半導体技術の対中漏洩でBASFの技術者6人を逮捕

[スポンサーリンク]

台湾の内政部(内政省)刑事局は7日、半導体製造に使う特殊な化学品の技術を中国企業に漏洩した営業秘密法違反の疑いで、化学品世界大手のドイツ企業、BASFの台湾法人の技術者ら6人を逮捕したと発表した。 (引用:日本経済新聞1月7日)

漏洩したのは半導体の製造工程で使用する高純度のアンモニア水や硫黄化合物などを製造する技術で、技術の価値は1億ユーロ(約120億円)に相当すると報じられています。逮捕された6人のうち1人はBASFの台湾法人の現職技術者でほか5人も同社に勤務した経験があり、報酬は計約2億台湾ドル(約7億円)で、この報酬の一部は実際に支払われていたそうです。

半導体は、シリコンウエハー上に薄膜を成膜したり部分的に削ったりして製造されていますが、その中の表面をきれいに洗浄するステップでアンモニア水は使われます。半導体製造では不純物が性能の低下に直結するため、超高純度の材料が要求されています。その超高純度を出すために各社オリジナルのノウハウがあると思われ、それを技術者が中国の企業に漏洩したと考えられます。実際この技術は中国の化学品大手、江陰江化微電子材料(江蘇省)が最近、新工場を立ち上げた際に使われたとみられています。

BASFはこの高品質なアンモニア水を、半導体製造大手であるマイクロン・テクノロジーSKハイネックスTSMCなどに供給していて、昨年の12月には、韓国に新たなアンモニア水の製造の工場を開設したと報じられています。このように単純なアンモニア水でも高純度の製造技術には1億ユーロの価値があるということのようです。

BASFの電子材料基礎化学品、無機系材料のラインナップ(引用:BASFHP)EGはエレクトロニック・グレードの略

日本では、サンディスクの技術者が韓国のSKハイネックスに研究データを不正に提供した事件が有名です。化学分野でも国内の同業他社への技術漏洩事件が昨年発生していて、日本で技術を漏洩すると、不正競争防止法違反に問われ、漏洩した個人には、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金が、法人には10送円の罰金が科せられます。国外に漏洩した場合には、国外重罰規定により罰金額が増額され個人で最高額3000万円、法人で10億円の罰金となるようです。

近年、転職が活発になり、同業他社に転職する技術者も増えていると予想されますが、前社の技術や顧客の情報を漏らすと取り返しのつかないことになります。また、本ニュースのような中国企業への技術漏洩ですが、モノづくりは中国で行われていても、そのモノづくりで使われる製造機器と材料は、品質の高い日本製であることも少なくないようです。中国としては、なるべく材料も中国で製造したいと思うのは自然であり、その一端がこのBASFの事件だと思います。同様の事件が日本で頻繁に起きるとは考えにくいですが、Linkedinといったビジネスに特化したSNSで特定社員を探してコンタクトことも可能であり、情報漏洩は技術者として注意すべきことではないでしょうか。

関連書籍

[amazonjs asin=”4818516090″ locale=”JP” title=”営業秘密防衛Q&A-内部不正による情報漏洩リスクへの実践的アプローチ”] [amazonjs asin=”4492533524″ locale=”JP” title=”なぜ特許世界一の日本が国際訴訟で苦戦するのか?: 情報漏洩、知財権の徹底防衛、外国法対策が日本の生命線だ!”]

ケムステ関連リンク

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 200MHzのNMRが持ち歩けるって本当!?
  2. 中皮腫治療薬を優先審査へ
  3. 20年新卒の志望業界ランキング、化学は総合3位にランクイン
  4. 産総研「先端半導体研究センター」を新たに設立
  5. 印民間で初の17億ドル突破、リライアンスの前3月期純益
  6. 新型卓上NMR Spinsolve 90 が販売開始
  7. 長寿企業に学ぶたゆまぬ努力と挑戦
  8. 積水化学、高容量電池の火炎防ぐ樹脂繊維複合材を開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. 「化学の日」はイベント盛り沢山
  2. 【書籍】機器分析ハンドブック3 固体・表面分析編
  3. ジアゾメタン diazomethane
  4. 窒素 Nitrogen -アミノ酸、タンパク質、DNAの主要元素
  5. フォン・リヒター反応 von Richter Reaction
  6. そこのB2N3、不対電子いらない?
  7. 有機合成化学協会誌2022年11月号:英文特別号
  8. 表裏二面性をもつ「ヤヌス型分子」の合成
  9. 食品アクリルアミド低減を 国連専門委「有害の恐れ」
  10. 金属-有機構造体 / Metal-Organic Frameworks

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP