カリフォルニア大学では、学術出版社大手であるエルゼビアとの間で、2500以上の学術雑誌と43万本以上の論文を閲覧することができるシステムについて、5年間で約5000万ドル(約57億円)の契約を交わしています。この契約は2018年末で切れることになっているのですが、契約の更新はまだ行われておらず、ロサンゼルス校(UCLA)の当局が教授らに対して、エルゼビアの発行する学術誌に掲載される予定の論文のレビューをしないよう異例の通知を出す事態となっています。 (引用:Gigazine 12月17日)
化学でエルゼビアといえば、Tetrahedronなどの有名な論文の出版社ですが、その論文の閲覧システムの更新をめぐってUCLAと問題が起きているようです。要点まとめると
- UCLAとの契約は2018年末で切れるため、更新の交渉をUCLAとエルゼビアが行っている。
- 大学側は契約の中に高額でない購読料と簡素化されたオープンアクセスを組み込みたいが、交渉は難航し時間切れが近い。
- エルゼビアに圧力をかけるために、大学は教職員に対して論文査読の拒否とエルゼビア以外への投稿を求めるアナウンスを行った。
この高騰している購読料とオープンアクセスの問題は、数年前から始まっていて、すでに欧州のいくつかの大学では契約を更新しない事態になっています。UCLAの場合、雑誌購入費のうち25%をエルゼビア一社に費やしています。交渉担当であるJeffrey K. MacKie-Mason教授は、「彼らは研究へのアクセス手段を売っているわけで、研究がなかったら売るものがなくなる。」とコメントし値下げを求めています。一方、エルゼビアの副社長であるGemma Hersh氏は、「大学との契約は、オープンアクセスを含めて個別の案件である。」としオープンアクセスに関しては、「状況を注視している。」「顧客によって違った傾向がある」とコメントしています。高額な購読料に関してエルゼビアは、コンテンツの量と質に加えて引用も増えているため妥当だとしていますが、査読や編集管理は研究者によるボランティアであるため問題だといわれています。
この問題に対して日本の大学の状況を見てみると、そもそも電子ジャーナルは2004年頃から各大学の図書館が利用を始めているようで、現在では図書館資料費の50%以上を電子ジャーナル、電子書籍、データベース(Scifinderなどの検索サービス)で占められています。その電子ジャーナル購読料は、大手三社に対して全体の支出の50%以上が支払われています。そしてその電子ジャーナルの購読料は年々値上げされているようで、化学系雑誌の平均価格は3.4%毎年値上げをしています。
一方のエルゼビア社の財務状況というと、エルザビアは大手情報サービス会社であるRELX Groupの子会社であり、そのScientific, Technical & Medical部門の収益、営業利益はともに前年より数パーセント増を達成しています。RELX Groupとしても財政状態は問題なく、2017年は2,284百万ポンドの利益を計上しました。そしてその利益のうち762百万ポンドを株主へ配当し、残りを借金の返済に使っているようです。RELX Groupには5%以上を保有している株主は存在せず、主要株主である投資ファンドが数パーセントずつ保有しています。つまり”研究者がほぼ無償で査読や校正した論文を売って儲けたお金は、投資ファンドに配当され、投資信託契約者に配当される”という流れになっているようです。
電子ジャーナルはビジネスの商品であるため値段が売り主によって変更されるのは仕方がないことです。しかし買う側は同じジャーナルをほかの出版社からは購入できないので価格の選択権はありません。さらに多くの研究者はジャーナルを使ってアカデミックな活動を行っているので、アカデミックとビジネスの境界ということになります。そのため価格を転嫁することができず問題になっていると考えられます。この問題の打開策がオープンアクセスであり、多くの活動が研究者によって行われています。現在は、まだ読者のメリットよりも投稿者による雑誌の権威への信頼のほうが勝っているため有名な雑誌に投稿が集まっているままですが、この優劣が逆転し投稿者がオープンアクセスを選択するようになった時、出版社はジャーナルへの考え方を変えるのではと期待しています。
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