新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は9月4日、東京大学や信州大学と共同で、可視光領域で水を分解する窒化タンタル光触媒を開発したと発表した。(引用:日系TECH9月5日)
本多-藤嶋効果の発見から研究が始まった光触媒ですが、汚れ対策や殺菌効果を目的とした応用では実用化がなされていて、酸化チタンを使った数多くの製品が販売されています。しかしながら、本多-藤嶋効果元々の反応である水の酸素と水素への分解は、酸化チタンでは収率が低く実用化されていないのが現状です。
光触媒による水の分解反応は太陽光を使って水素を製造することができるため実用化が期待されています。しかしながら、地表に届く太陽光には可視領域の光が多く含まれているものの、酸化チタンの最大吸収波長は紫外領域であるため変換効率を重要視する水の分解反応には適していません。そのため、可視光領域に最大吸収を持つ光触媒の開発が進められてきました。その一つが窒化タンタルであり2000年ごろから研究が行われてきましたが、生成した電子の再結合が起きてしまい水の分解反応を示してきませんでした。
そこで本研究では、既存の窒化物合成手法とは異なる原料の選定と合成条件の研究を進めてきたそうです。具体的には、KTaO3を新しい窒化処理によりKTaO3を取り囲むように単結晶のTa3N5 ナノロッドを生成させ、この光触媒に助触媒Rh/Cr2O3を担持し疑似太陽光下で水の分解反応を起こすことがわかりました。
水素を太陽光から生成することは環境に優しいモノづくりを実現するために重要で、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)では、水から水素を製造し工場から排出された二酸化炭素と反応させ一酸化炭素、さらにはオレフィンを製造する脱化石エネルギーによる化学品合成プランを研究しています。このプロンの第一ステップが太陽光を使った水素製造であり、東京大学大学院工学系研究科教授の堂免一成先生をチームリーダーとして大規模に研究が行われています。同プロジェクトでは、水素と酸素を別々の光触媒で生成するタンデムセル型光触媒も研究しており、CIGSベースの水素生成光触媒と、BIVO4からなる酸素生成光触媒をタンデム配置した2段階セルでの新しい研究結果も発表されています。もちろん、タンデムセル型光触媒の方が水素発生効率は高いですが、本発表の窒化タンタル微粉末+水素/酸素分離プロセスと比較するには、効率だけでなく寿命や製造コストなども考慮する必要があるため本プロジェクトではどちらの研究にも取り組んでいると予想されます。
今後は、合成方法や窒化、酸化、硫化物への展開などで改良を進め実用化へ研究を加速するそうです。
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