[スポンサーリンク]

ケムステニュース

海水から「イエローケーキ」抽出に成功、米科学者グループが発表

[スポンサーリンク]

米国の科学者が普通のアクリル繊維を用いて、海水からウラン含量の高い「イエローケーキ」の抽出に成功した。(引用:ロイター通信8月15日)

この技術を開発したのは、アメリカエネルギー省の研究機関であるPacific Northwest National Laboratory (PNNL) とアイダホ大学化学科のChien M. Wai教授が2014年に設立した LCW Supercritical Technologiesで、 ウランが吸着できるように修飾したアクリル繊維を使うことで、ウラン含量の高いイエローケーキの抽出に成功しました。

イエローケーキは酸化ウランを含有する粉末のことで、このイエローケーキを原料として同位体分離や化学処理を行うと、原子炉で使うことができる核燃料を製造することができます。本研究では、カルボキシ基を有するアクリル繊維を、海水につける前にヒドロキシルアミンで前処理を行い、効率的にウランを吸着できる方法を開発したそうです。実証実験では、約900 gのアクリル繊維を、人工的に海流を作った海水のタンクの中で一か月留置することで、5gのイエロケーキを抽出することに成功しました。

海水からウランを抽出する研究は歴史があり、1999年に日本の日本原子力開発機構が1 Kgのイエローケーキを抽出したことが始まりです。研究グループによると海水中のウランの濃度は約3.2ppmですが、全世界で40億トンものイエローケーキを海水から抽出できる余地があるそうで実用化に向けて研究を続けていくようです。

福島の原発事故以降原子力発電への風当たりは強くウランの将来需要はわかりませんが、純粋な技術開発としては興味深く、修飾基や前処理を変えることで他の元素、例えば貴金属の回収などに応用できないか気になります。一方で、イエローケーキを沿岸で入手できるようになるということは、海に面している国であればウランを入手できるようになるわけであり、テロリストによって悪用されないか心配です。もちろん遠心分離機などは輸出が厳しく制限されているため、こっそり濃縮することは容易ではありませんが、素晴らしい技術は平和的な応用のみに使われることを強く望みます。

関連書籍

[amazonjs asin=”4807909312″ locale=”JP” title=”続 狂気の科学: 真面目な科学者たちの奇態な実験”] [amazonjs asin=”479734945X” locale=”JP” title=”理工系のための原子力の疑問62 (サイエンス・アイ新書)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 毛染めでのアレルギー大幅低減へ ~日華化学がヘアカラー用染料開発…
  2. 米国ACSジャーナル・冊子体廃止へ
  3. ヘリウムガスのリサイクルに向けた検討がスタート
  4. 痔治療の新薬で大臣賞 経産省が起業家表彰
  5. Jエナジーと三菱化が鹿島製油所内に石化製品生産設備を700億円で…
  6. ノーベル賞親子2代受賞、コーンバーグさんが東大で講演
  7. ピンポン玉で分子模型
  8. 三井化学と日産化学が肥料事業を統合

注目情報

ピックアップ記事

  1. 酸化反応条件で抗酸化物質を効率的につくる
  2. 「社会との関係を見直せ」とはどういうことか
  3. 【第一回】シード/リード化合物の創出に向けて 1/2
  4. ブーゲ-ランベルト-ベールの法則(Bouguer-Lambert-Beer’s law)
  5. クルチウス転位 Curtius Rearrangement
  6. 高電気伝導性を有する有機金属ポリイン単分子ワイヤーの開発
  7. ノーベル街道起点
  8. 「消えるタトゥー」でヘンなカユミ
  9. 日本化学会ケムステイブニングミキサーへのお誘い
  10. Cell Pressが化学のジャーナルを出版

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー