もたもたしていたら2017年も最終日となってしまいました。
読者の皆様の2017年はいかがでしたでしょうか。2017年も様々な出来事がありました。
2017年を振り返る
2016年に劇的勝利をあげ、2017年1月より第45代米大統領に就任した米国の実業家ドナルド・トランプ氏。思ったよりもめちゃくちゃになっていないようにに思えますが、「パリ協定」の脱退、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)からの脱退など独自の路線を進み続けています。歴史が証明するかもしれませんが、なかなかの強硬っぷりが来年も続きそうです。
隣国でも大きな出来事がありました。北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射も止まりません。2月には金正男氏(現朝鮮労働党書紀の叔父)の殺害もありました。また、韓国では、3月に朴槿恵(パククネ)大統領の罷免、5月に文在寅新大統領の任命もありました。
大統領と言えば、5月にフランスの大統領となった、マニュエル・マクロン氏は史上最年少の39歳。ドイツと共にEUの統合深化を主導する考えで、その手腕が注目されている。EUといえば3月にはイギリスの離脱が正式通知。今後どうなっていくのでしょうか。
国内に目を向けてみると、今月天皇退位特例法が成立し、2019年5月に改元が決定。どのような元号になるのか注目されるところですが、混乱をさけるために来年にも発表されるそうです。来年の注目話題になりそうですね。
政治的には衆院選で自民圧勝。しばらく自民党の時代が続きそうですね。景気に関してはどうなのかいまいちわかりませんが、学生の就職に関しては感じられるほどよくなっています。ほかにも暗いニュースはいっぱいありましたが、明るいニュースとして、将棋・囲碁界の活躍。
14歳棋士、藤井四段が29連勝(6月)や将棋の羽生善治竜王と、囲碁の井山裕太棋聖への国民栄誉賞授与(12月)が検討されています。
さて、科学の世界ではどうであったでしょうか。今更始まったわけではないですが、AI(人工知能)や深層学習(ディープラーニング)一色だった気がします。丁度囲碁の話がでていましたが、盤上の頭脳戦ではすでに独学にて人間が太刀打ちできない状態まで進んでいるとのこと。数年後、どれだけの仕事がAIに置き換わっているでしょうか。
化学の世界でも振り返ってみよう
さて前置きが長くなりましたが、2017年最終日のケムステでは恒例の化学に関係するニュースを独断と偏見で勝手に選んだ「化学10大ニュース」をお送りします。一部2017年人気記事ランキングと重複する内容がありますがご容赦ください。
それでは、今年の化学を振り返ってみましょう。過去の10大ニュースについては後述のリンクをごらんください。
タンパク質を観るークライオ電子顕微鏡の開発
今年のノーベル化学賞は構造生物学の分析法の開発から。
スイスのジャック・デュボシェ氏、英国のリチャード・ヘンダーソン氏、米国のヨアヒム・フランク氏の研究、「溶液中の生体分子の構造を高い解像度で観察できるクライオ電子顕微鏡の発明」に対しての授賞が決定しました。
構造生物学の研究目標は、タンパク質に代表される生体分子の3次元構造を精密に解析し、生命現象の理解や人類に役立つ応用に示唆を与えることです。今回の受賞対象にもなったクライオ電子顕微鏡(Cryo-Electron Microscopy, Cryo-EM)(以下クライオ電顕)が”第3の構造解析法”として台頭しはじめたのです。実用化が最近なされて受賞にはもうすこしかかるといわれていましたが、先んじて今年の受賞となりました。
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プレプリント・サーバーの流れが化学にもーChemRxiv
物理分野では70%の論文がプレプリント・サーバーに投稿されてから実際の論文投稿となるようです。生物分野でもbioRixivが4年前に開始されましたが、いまだ全体の1.5%程度。そして今年、化学でもはじまりました。その名も「ChemRxiv」。
まだβ版ということですが、アップデートを重ねて研究者コミュニティに定着すれば、化学系論文の投稿・出版プロセスが大きく様変わりを見せるかも知れません。
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外来種「ヒアリ」が上陸
化学の10大ニュースとは言いづらいところはありますが、今年の話題の1つではあります。
これだけ世界中でヒト、物が行き来する時代ですので、外来種の侵入、定着を完全に封じ込めるのは不可能に近いですが、それがヒトの健康を脅かすものであったり、既存の生態系を著しく破壊したり、また経済的に許容できない被害を与えたりする場合は、何としても防御態勢を整えることが重要です。
ヒアリの毒素、95%を占める主成分はピペリジンを共通の骨格としたアルカロイドであり、置換基が異なる化合物がいくつか検出されています。特にsolenopsin Aとして知られる化合物はPI3キナーゼ阻害活性などがある化合物として知られています。
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ヘリウムガス値上げ・供給不安再び
2012年末、世界的なヘリウム不足が話題となりましたね。今年もカータールの情勢不安によるヘリウム安定供給に陰りがみえました。
カタールは現在世界のヘリウムの25%の需要を賄う、世界最大の輸出国。そのカタールが、2017年テロリストを支援しているとして、サウジアラビアをはじめとするアラブ諸国から国交の断絶による経済制裁を受けました。
ちなみに、日本のヘリウムの供給を50%を担う岩谷産業によると、岩谷産業の関わるヘリウムに関しては全量アメリカからの輸入であるそうです。各国や研究者団体はそれぞれすでに対策を打っているようで、ヘリウム供給不足になることはないようですが、値上げは起こっています。
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相次ぐ企業の改ざんー化学企業にも
個々研究者による、論文改ざんは近年の話題であり、今年も悲しいことながら多くの改ざんが発覚しました。
加えて今年は個々の研究者だけでなく企業ぐるみでの研究データの改ざんが話題となりました。化学関連企業でも東レの関連会社や三菱マテリアルなど芋づる式に改ざんが発覚しています。これが氷山の一角なのか、収束に向かうのか。”リスクゼロ”を狙うリスクアセスメントの弊害にも思えますが、データには誠実でいたいものです。技術者・科学者倫理を再確認のこと。
超大型化学企業の誕生
2017年9月ついにダウ・ケミカルとデュポンが正式に合併し、新会社「ダウ・デュポン」が誕生しました。
会社ロゴは各々の元のロゴを並べただけ。歴史のあるロゴであり、両者とも超有名企業であったため譲れなかったのでしょうか。いずれにしても、2社を合わせた時価総額は1300億ドル(約14兆3千億円)という超大型化学企業の誕生です。プラスのことも多いと思いますが、しばらく事業再編で大幅なコストカットとなりそうです。
それ以外にも2017年もいくつかの企業の大型合併がありました。
スペシャリティケミカル分野のスイスのクラリアントと米ハンツマン→ 約140億ドル(約1兆5600億円)
産業ガス世界2位の独リンデと3位の米プラクスエア→時価総額は700億ドル超
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AIが化学反応を予測する?
AIに39万5千の化学反応を勉強させ未知の化学反応を予測できるようにしたということです。
そして、実際にこのシステムに特許データベース中の反応を予測させたところ、他のシステムよりも第一候補の正解率が80.3%と他の方法よりも6%ほど高い結果となったそうです。
製薬会社などでもここ2、3年、特に今年はこぞってAI関係の部署をつくって、その利用を画策し始めています。まだまだ実用化には時間がかかりそうですが、近い将来AIに置き換わる可能性があるという希望と驚異をみせられたニュースでした。
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世界を驚かせた最新化学研究
今年も様々な素晴らしい化学に関する研究が報告されました。
もちろんケムステの今年の過去記事をみていただければある程度網羅できると思いますが、それ以外のまとめに関しては以下のサイトを御覧ください。
関連記事&ウェブサイト
- 2017年の注目分子はどれ? | ケムステ
- 2017 Year in Chemistry| C&EN
- Breakthrough of the Year 2017| Science
- 2017年有機合成化学論文オブザイヤーを勝手に選んでみた | たゆたえども沈まず-有機化学あれこれ-
訃報2017ー化学
今年も様々な偉大な化学者たちがこの世を去りました。
個人的に最も残念なのは、有機金属化学の大家である、山本明夫先生(東工大名誉教授)がなくなったこと。いまやっている化学はかなりこの巨人の肩に立たせていただいており、私の働く早稲田大学出身の化学者としても残念なお知らせでした。
計算化学者の諸熊奎治氏もなくなりました。日本に限らず、計算化学者は諸隈一派であることが多いです。
国外ではレジェンド化学者・ブレスロウ・オラー・ストークが本年亡くなったこと。特にストーク先生に関しては本年出された論文を「Gilbert Stork最後の?論文 」として紹介した、数週間後に亡くなってしまい、本当に最後の論文になってしまいました。
その他化学者の訃報は以下の通り(順不同)
三輪匡男(静岡県立大)・ 木羽敏恭(金沢大)・ 樋口隆昌(京大)・升島努(広大)・ 荻野和己(阪大)・ 木下眞喜雄(上智大)・ 坪井昭三(山形大)・立川涼(高知大)・小林宏(九大)・北尾敏男(京都工業繊維大)・ 山本晋平(高知大)・山本明夫(東工大)・古川義宏(広大)・須沢利郎(広大)・藤井克己(岩手大)・本田進(近畿大)・ 茅幸二(慶応大)・ 田中元治(名古屋大)・ 諸熊奎治(エモリー大)
Jerome A. Berson(アメリカ)・John Watkinson(ニュージーランド)・Su Qiang(中国)・John Ross(オーストラリア人・アメリカ)・Mushi Santappa(インド人・イギリス)・A. Welford Castleman Jr.,(アメリカ)・Klaus Bechgaard(デンマーク)・George Andrew Olah(アメリカ)・Robert Parr(アメリカ)・Raymond Chang(アメリカ)・David Chandler(アメリカ)・Nicholas Sand(アメリカ)・Peng Shaoyi(中国)・Alexander M. Cruikshank(アメリカ)・Philip Coppens(アメリカ)・Shen Panwen(中国)・Max Gergel(アメリカ)・John Potter(イギリス)・David E. H. Jones(イギリス)・Allan Hay(カナダ)・Gérard Férey(フランス)・Cedric Hassall(ニュージーランド)・Kurt Mislow(アメリカ)・Gilbert Stork(アメリカ)・Ronald Breslow(アメリカ)・William Klemperer(アメリカ)・Edward C. Taylor(アメリカ)・Michael Hartshorn(ニュージーランド)
国内化学企業関係はこちら
偉大な化学者・化学関係者の皆様のご冥福をお祈りします。
ケムステの2017年
例年通り、最後のニュースはケムステの1年。
3月には恒例のケムステイブニングミキサーを行いました。今年は代表である私が最後の運営であったためマグロ解体ショーという謎の企画を行いましたところ、600人近くの若手研究者があつまりました。来年3月は弊サイトスタッフの八木亜樹子さん(名古屋大助教)を中心にして、若手の会を盛り上げていきます。
8月には再度のサーバー移転を行い、完全HTTPS化を実現しました。コストはかなり増大しましたが、おかげで、毎年恒例であったノーベル化学賞発表時のサーバーダウンも回避されて、安定運営ができています。
今年から新たにはじめたのは記事の導出を行いました。3社に我々の記事を提供しています(記事:ケムステの記事を導出しています)。また、学会関係とも連携組み始めました。有機合成化学協会の発行する、有機合成化学協会誌の紹介を開始しました。これまでに比べ多くのアクセスが望めるようなったそうです。
一方で、昨年開始するといっていた、「ケムステしごと」ですが、単発の記事はありながらも、企業からの研究や製品紹介記事の公開には至っておりません。来年1月早々にいくつかの研究・製品紹介を始める予定ですので乞うご期待。
なお、今年公開した記事は539件でした。600記事の公開を目指していましたが、昨年が408記事であったので(それでも一昨年の1.5倍以上)大きく公開記事数を伸ばしました。2018年は今度こそ600記事を超える記事数を公開できたらと思っています。
最後に、来年はケムステにとって嬉しいある賞の受賞が待っていますのでお楽しみに。
長文となりましたが、来年もケムステをよろしくお願いいたします。それでは皆様良いお年をお迎えください。