ノーベル賞ウィークも終わったので、たまには身近な化学でも。最近大学内と公園のイチョウの木から落ちる「ぎんなん」がとてつもなく臭いなと思っていましたが、ふとニュースを眺めていたらこんな話題が。
ぎんなんは古くから薬や食材として用いられてきましたが、実は食べすぎると中毒を起こします。有毒成分は4-メトキシピリドキシン(4-MPN)という物質です。4-MPNはビタミンB6と構造がよく似ているため、ビタミンB6が結合して働く場所へ誤って結合してしまいます。そのため、ビタミンB6が本来の仕事をすることができず、中毒症状が起こるのです。4-MPNは乾燥ぎんなん1gに約100mcg含まれています。主な中毒症状は嘔吐と痙攣で、ぎんなんを食べてから1~12時間後に発症し、90時間以内(半数は24時間以内)に回復します。しかし、大量に食べ過ぎてしまった場合の死亡例も報告されていますから、あなどれません(一部引用:ぎんなんの食べ過ぎはキケン!何個までなら大丈夫? | GetNavi web ゲットナビ)。
きのこなど秋の味覚には天然物化学の宝庫ですが、ぎんなんはこんな化合物が含まれていたんですね。化学者なのに知らなかったので、どのくらい似ているのか調べてみると、この通り。左が、ビタミンB6(いくつかある構造の1つ)で、右が、ぎんなんに含まれている4-MPN。確かにヒドロキシ基(OH)がメトキシ基(OMe)になっただけで、その他は全く同じ。似ているからといって同じ作用を示すとは限りませんが、メチル基(Me)ぐらいの違いなら誤認識してしまいそうです。
因みにニュースによると、小児で7~150個、成人は40~300個ぐらいが食べ過ぎで中毒症状が出る可能性があるそうです。実例に基づいているのである程度正確なのでしょう。
ところで、臭いに戻りますが、あの臭いについてもちょっと調べてみました。原因は酪酸とエナント酸だそうです。酪酸(炭素4つのカルボン酸)はわかりますが、エナント酸って何?とさらにみてみると、炭素7個のカルボン酸のヘプタン酸ですね。酪酸とヘプタン酸のコンビなら臭いはずです。4と7で、揮発性が高く臭いものと、揮発性が低くて鼻に残るので、防ぎようがないですね。昔、炭素6個のヘキサン酸を誰かが落として、研究室内地獄になったのを思い出します。ちなみにヘキサン酸の臭いは「吐瀉物」です。
イチョウといえば、やっぱりギンコライドが有名ですね。天然物化学の権威、中西香爾先生が構造決定を行った複雑化合物です。これは化学者なら知っていて欲しい情報です。
一方で、どうでもいいですが、意外と知られていない情報にギンコライドを有効成分としてつくったサプリメント「バイオギンコ」をアフィリエイトプログラム(情報を掲載したウェブから商品が売られた場合ある一定のマージンを支払うシステム)を採用した走りであるのも実は有名な話。書籍飯場のアマゾンよりも先にはじめており、昔それを知って驚きました。というわけで、ときどき、気になった身近な化合物もお話のネタとして調べて紹介したいと思います。
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