2015年も残り2日。今年も様々な出来事がありました。
10大ニュースを覗いてみると、日本国内では北陸新幹線が開業、東芝の不正経理発覚、芥川賞に又吉さんが選出、東京五輪のエンブレム問題、マイナンバー制度スタート、国産初のジェット機スタートなどがありました。
海外では、原油価格の低下、ネパール大地震、フォルクスワーゲンの排気ガス不正、中国一人っ子政策廃止、ミャンマー総選挙、イスラム国のテロ多発などが大きくニュースとなった出来事でした(国内外共に化学に関係する出来事を除く)。皆様の2015年はいかがでしたでしょうか。
さて、ケムステでは恒例の勝手に選んだ「化学10大ニュース」で今年の化学を振り返ってみましょう。
(過去の記事:2014年、2012年、2011年前編、2011年後編、2010年Part1、2010年Part2、2009年Part1, 2009年Part 2、2008年, 2008年2, 2007年)。
今年の化学を振り返りながら新年をお迎えください!
2億人を救った分子
みな「化学賞」と間違ってしまう、今年のノーベル医学・生理学賞。
寄生虫の特効薬のもとを発見した大村智博士に与えられました(ウィリアム・キャンベル博士とトゥ・ヨウヨウ氏との共同受賞)。大村先生は個人的にも大学の大先輩となるため、昔から何度も講演を聞いていました。素晴らしい研究成果だと思います。
せっかくなので強調しますが、結果的に、2億人を救う薬につながる研究でありましたが、そうならないことも往々にしてあります。
これが基礎研究です。応用指向の研究スタイルがもてはやされる時代がしばらく続いていますが、基礎研究のあとに応用研究という周期があることは自明であり、基礎研究への火を消してはならないと訴えたいと思います。
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DNAの修復の仕組み
“日本人が受賞した”ノーベル医学・生理学賞に比べて、今年の化学賞は余り知られていません。
しかながら、「DNA修復」という生化学の教科書では基礎の基礎である仕組みを解明した研究は、ノーベル化学賞で当然の研究成果です。
受賞者の3氏(トマス・リンダール博士、ポール・モドリッチ博士、アジズ・サンジャル博士)の経歴と研究を振り返りながら、また未来のノーベル賞を予想しながら、来年も「1年に一度の科学の祭典」を楽しむことにしましょう。
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世界最大の化学企業誕生へ
今年も多くの化学企業の合併・統合の発表がありました。
その中でも年末に飛び込んできた、「ダウ・ケミカルとデュポンの合併」の発表は成果最大の化学企業の誕生ということで今年の最大の化学関連仰天ニュースといっても過言ではないでしょう。合併は2016年の後半にはじまり、その後、最終的には3社に分割されるため、実際には世界最大「ダウ・デュポン」となるのは短期に至りますが、それでも3社とも数兆円規模。これを火種に、化学系企業合併がはじまるのか?来年が楽しみであり心配でもありますね。
ちなみに製薬・石油業界の統合・合併も半端ないです。
他の化学関連企業企業合併・統合は以下の通り(すべては網羅していません)。
- 3月 旭化成、中核子会社2社を吸収合併発表(2016年4月)
- 3月 中国化工集団、伊ピレリを買収発表
- 5月 マクミランとシュプリンガーの合併完了 → 「シュプリンガー・ネイチャー」
- 7月 イスラエルテパ、米アラガンの後発部門を買収発表(2016年)
- 8月 堺化学工業、連結子会社大崎工業、博光化学工業の統合など → 「堺化学工業」「大崎工業」
- 8月 電気化学工業、独アイコン・ジェネティクスを買収発表
- 10月 片倉チッカリンとコープケミカル合併完了 →「片倉コープアグリ」
- 10月 日立化成、子会社を吸収合併
- 10月 エーザイの消化器疾患事業と味の素製薬の統合発表(2016年4月予定)→ 「EAファーマ」
- 11月 独メルクの米シグマアルドリッチの買収が完了 →「メルク」?
- 11月 出光興産と昭和シェル石油の経営統合発表(2016-2017年)→ 「未定」
- 11月 エーザイ、子会社エーザイフード、エーディアを三菱化学フーズ、積水化学工業に譲渡
- 12月 JXホールディングスと東燃ゼネラル石油の経営統合発表(2017年)→「未定」
- 12月 米ファイザーと米アラガンの買収発表 →「ファイザー」?
- 12月 三菱ケミカルHDが連結子会社三菱化学、三菱樹脂及び三菱レイヨンを統合を発表、ついでに各々のさらにグループ会社も合併・吸収(2017年4月予定)→「三菱ケミカルHD」
- 12月 クラレ、子会社のバイオハードカーボンを吸収合併
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登録された分子は1億個
今年の6月に、1億件目となる化学物質が登録されたことが話題となりました。
CAS構築から今年で50周年の節目を迎えたところです。
登録は加速しており、現在の登録数は10,489,173個。すでに発表から約500万個増えています。ちなみに登録数はこちらから確認できます。
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5年に1度の化学の”祭典”
化学のアカデミアの方々の5年に1度の化学の”祭典”Pacifichemがハワイで開催されました。
71カ国・地域から1万6000人以上が参加したそうです。アメリカ人も多く参加していますが、メインは日本人だらけ。この時期にハワイでなにかがあったら日本の化学は壊滅状態になります。無事で何より。
次回は2020年、さてどんな化学が興隆していることやら。
世界を驚かせた最新化学研究
今年もChemistry world のCutting edge of Chemistry in 2015から化学分野での注目研究を箇条書きで少しだけ紹介します。
- 芸術の化学:ゴッホの絵を化学的に調べてみた[1]
- 酵母の力で鎮痛薬を作ることに成功[2]
- 彗星探査機、有機化合物を発見[3]
- アルカリ金属が水と爆発的に反応する理由が明らかに[4]
- いろいろな化学反応が”みれた”[5]
- ペロブスカイト太陽電池の効率20.1%[6]
関連文献
- (a) Vanmeert, F.; Van der Snickt, G.; Janssens, K.;Angew Chem. Int. Ed. 2015, 127, 3678. DOI: 10.1002/ange.201411691 (b) Monico, L.; Janssens, K.; Hendriks, E.; Vanmeert, F.; Van der Snickt, G.; Cotte, M.; Falkenberg, G.; Brunetti, B. G.; Miliani, C.;Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 13923.DOI: 10.1002/anie.201505840
- Galanie, S.; Thodey, K.; Trenchard, I. J.; Filsinger Interrante, M.; Smolke, C. D.;Science 2015, 349, 1095. DOI: 10.1126/science.aac9373
- (a) Capaccioni, F. et al, Science, 2015, DOI: 10.1126/science.aaa0628 (b) Goesmann, F et al, Science, 2015, DOI: 10.1126/science.aab0689
- Mason. P.E. et al, Nat. Chem., 2015, 7, 250. DOI: 10.1038/nchem.2161
- (a) Öström, H. et al, Science, 2015, 347, 978 DOI: 10.1126/science.126174 (b)Kim, K.H, et al, Nature, 2015, 518, 385. DOI: 10.1038/nature14163 (c) M P Minitti et al, Phys. Rev. Lett., 2015, 114, 255501 DOI: 10.1103/PhysRevLett.114.255501
- Jeon N J et al, Nature, 2015, 517, 476. DOI: 10.1038/nature14133
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113番目の元素が「ジャポニウム」に?
年末ギリギリのところで、非常に嬉しいニュースがとびこんできました。
113番目の元素の命名権が日本の理化学研究所(森田グループ)に与えられることがほぼ確実となりました。
はじめて発見したのは2004年のことですから、すでに10年以上が経過しています。さらに、112番目の元素「コペルシウム」が2010年に名付けられた際も、113番目ももうすぐといわれてはや5年。番号の大きい114番目「フレロビウム」と116番目「リバモリウム」にも抜かれて、忘れ去られていた矢先のことでした。
来年は元素ブーム到来か?と予感させる素晴らしいニュースでした。正式に決まるのは来年1月後半だそうです。楽しみに待ちましょう。
【追記2015.12.31】本年最後の日に急遽命名権が与えられることに決定しました!おめでとうございます!命名は1年以内だそうです。
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訃報2015ー化学
今年も様々な著名な化学者たちがこの世を去りました。
個人的には2010年に鈴木章、根岸英一とともにノーベル化学賞を受賞したリチャード・ヘック氏の死がもっとも衝撃的でした。2005年にメタセシス反応機構の解明でノーベル化学賞を受賞したイヴ・ショーヴァンもこの世を去りました。
偉大な化学者の皆様のご冥福をお祈りします。
2015年逝去した化学者(順不同)
Yves Chauvin(フランス),、Richard F. Heck (米国)、Irwin A. Rose(米カルフォルニア大アーバイン校)、木曽義之(広島大)、 大倉洋甫(九大)、田中郁三(東工大)、和田悟朗(奈良女子大)、鶴田禎二(東大)、立田清朗(九大)、宮崎哲郎(名大)、河口広司(名大)、増田精造(徳島大)、志摩健介(宮崎大)、椿山教治(福井大)、鈴木公宏(福井大)、中村以正(筑波大)、早石修(京大)、緒方直哉(上智大)、Anthony Ledwith,(英国)、Anton Amann(オーストラリア)、Rositsa Yanakieva(ブルガリア)、Carl Djerassi(米国スタンフォード大)、Gerald Hurst(米国)、Rayson Huang(香港大)、Brice Bosnich(オーストラリア)、Eli M. Pearce(米国)、Arthur Bourns(米国)、David P. Craig(オーストラリア)、Evelyn Ebsworth(英国)、John Buckingham(英国)、Dan Eley(英国)、Ângelo da Cunha Pinto(ブラジル)、Kenneth Koe(米国)、Pierre Gy(フランス)、Alan Davison(英国)、Lauri Vaska(米国)
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t-ブチルリチウムの悲劇再び
化学研究には事故がつきもので、厳重な管理下、しっかりとした教育をうけた研究者が行う必要があります。
年末の中国清華大学で起きた悲劇原因はまたtert-ブチルリチウムでした(関連記事参照)。32歳のポスドクの方が亡くなったそうです。日本に比べて中国の安全教育、研究環境はまだまだ遅れていると聞きます。リスク管理を徹底している日本ですら多くの事故が発生する化学実験には油断が禁物です。今一度引き締めて、実験を行いましょう。
【追記: 調査の結果、事故は水素ガスボンベの爆発によって起こったことが明らかとなりました。2016. 1.15 】
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ケムステの2015年
10大ニュース最後は、我田引水ですが、Chem-Stationの2015年を振り返って終わりましょう。
2014年10月末にウェブサイトを完全リニューアルしてから1年強経ちました。ようやく皆さん慣れてきていただいたようで、アクセス数も元の通りに戻っています。3月には2度目となった日本化学会年会での「ケムステイブニングミキサー」を主宰し、5月には設立15周年を迎えました。9月にはブログ「化学者のつぶやき」にて、「スポットライトリサーチ」という新しいコンテンツを始め、すでに8名の超若手研究者を紹介しています。12月初旬には公開記事3650記事を超え、現在3687記事。化学企業の製品紹介や、インタビュー、日本人の研究紹介など、実際にコンタクトをとって、製品や研究者を紹介する記事も多くなってきています。中国語版、国際版もちょうど開設2年を迎えまだまだですが、次第に認知されるようになってきました。個人的にも大きな出来事が多く、2016年は新たなスタートとなりそうです。
今後も様々な世代が学び、刺激できる化学情報を配信していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。
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2016年はどんな年に?
さて、10大ニュース、なんとなく後半ばかりの話題になってしまいました。良いニュース、悪いニュースもありましたが、皆様の1年は いかがであったでしょうか。
本年の記事更新は本日で最後になります。それでは良いお年をお迎えください!来年もよろしくお願い致します!
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