[スポンサーリンク]

ケムステニュース

170年前のワインの味を化学する

[スポンサーリンク]

 

170-year-old stash of perfectly preserved champagne taken from a shipwreck off the coast of Finland has brought to light an array of curious facts about past winemaking practices. Chemical analysis of the vintage sparkling wine revealed particularly high levels of sugar and salt compared with modern-day champagne, as well as the presence of unexpected metals, likely used in 19th-century wine preservation and storage (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2015, DOI: 10.1073/pnas.1500783112)(引用:C&EN 2015年4月20日).

 

2010年にバルト海から170年ぶりに引き上げられた168本のボトル。中身はシャンパーニュ、しかもコルクをみると有名なヴーヴ・クリコ・ポンサルダン(Veuve Clicquot Ponsardin: VCP)やエドシック(Heidsieck)であると判明。

「170年」もののお味は?

と試してみたいところです。少し前のニュースになりますが、それを化学的に分析してみようということで、数年がかりで化学者が最新分析機器で調べた結果が米国科学アカデミー紀要 に報告されました。

168本すべてが完全な保存状態でなかったものの、数本、コルクがしっかり閉まっていて、かつ貯蔵するには最適条件が整っていたとのこと。それもそのはず、海の底は、暗く、2-4度という理想的な「貯蔵室」であったからです。

"貯蔵"されていたシャンパン

“貯蔵”されていたシャンパン(出典:論文より)

分析を行ったのはフランス・ランス大学のPhilippe Jeandet教授ら。ワイン分析の専門家であり、まさにシャンパーニュ、シャンパンで知られる発泡性ワインの作られているシャンパーニュ地方にある大学の研究者たちです。

現在のワイン同様のワインとの元素分析を比較してみたところまず、高い金属カチオン濃度が観測されたとのこと。例えば、鉄イオンや銅イオンは現代のワインの100倍近くの濃度でした。これはブドウの栽培過程や、製造につかった容器などから混入した可能性が高いとのこと。

元素分析の一部(論文より抜粋)

元素分析の一部(論文より抜粋)

ではアルコール度はどうでしょうか。現在のシャンパーニュが12.33%程度であるのに対し、170年前のワインは9.34-9.84%と若干低い。その他にも様々な分析を行っていますが、最も異なるのは砂糖の量。

なんと、140グラム/リットルの砂糖が入っていたのです。通常のシャンパーニュの砂糖の量が22-66グラム/リットルなのでかなり多いことがわかります。またコカ・コーラの砂糖が110グラム/リットルであることより相当甘いことが想像できるでしょう。

成分分析

成分分析

 

 

また、NMR分析により5-ヒドロキシフルフラールが高濃度で含まれていることがわかり、製造過程での加熱によりフルクトースのメイラード反応が起こっていることがわかります。

2015-05-21_09-48-27

NMR分析

 

その他にもまじめに化学的に分析しているので、ぜひ原著論文をお読みください。また別件ですが、同時に揚げられたビールの分析もされています[1]。ちなみにこの中の一本のボトルは2012年に競売にかけられてなんと1800万円の値がついたとのこと。

最後に、気になるお味は?というと、獣臭く美味しいとは程遠い味であったそうです。残念!

 

関連論文

  1. Londesborough, J.; Dresel, M.; Gibson, B.; Juvonen, R.; Holopainen, U.; Mikkelson, A.; Seppänen-Laakso, T.; Viljanen, K.; Virtanen, H.; Wilpola, A.; Hofmann, T.; Wilhelmson, A. J Agric Food Chem 2015, 63, 2525. DOI: 10.1021/jf5052943

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. EUのナノマテリアル監視機関が公式サイトをオープン
  2. 1回の実験で高活性な金属ナノ粒子触媒
  3. 秋の味覚「ぎんなん」に含まれる化合物
  4. 富山化学 「YP-18 」の開発を開始
  5. ダイセルによる化学を活用した新規デバイス開発
  6. 伊藤嘉彦京都大名誉教授死去
  7. クラリベイト・アナリティクスが「引用栄誉賞2018」を発表
  8. 5歳児の唾液でイグ・ノーベル化学賞=日本人、13年連続

注目情報

ピックアップ記事

  1. ブラン環化 Blanc Cyclization
  2. 2012年Wolf化学賞はナノケミストリーのLieber博士,Alivisatos博士に!
  3. リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応
  4. ヨードホルム (iodoform)
  5. 合同資源上瀑工場
  6. 第6回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ
  7. クメン法 Cumene Process
  8. ナノってなんて素敵ナノ
  9. グラクソ、パーキンソン病治療薬「レキップ錠」を販売開始
  10. 化学者だって数学するっつーの! :定常状態と変数分離

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年5月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー