ほとんどの抗菌薬が効かないメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を殺菌する効果のある新しい抗生物質を発見したと、浜本洋・東京大助教(微生物学)らの研究チームが8日付の米科学誌ネイチャー・ケミカルバイオロジー電子版に発表した。MRSAは院内感染が問題になっており、新薬開発が期待される。
研究チームは約2年7カ月かけ、各地で採取した土壌中にいる約1万4000種類の細菌を調査。沖縄県の土から見つかった細菌が、MRSAを殺す抗生物質を作り出すことを発見し、ライソシンEと名付けた。ライソシンEの殺菌力は強く、既存の抗菌薬が投与後約30分経過してようやくMRSAを殺菌し始めるのに対し、1分で99.99%を殺菌できた。また、菌の細胞膜のみを破壊し、マウス実験では生体への悪影響がないことも分かった。
チームは今後、治療薬としての承認に向けた実験を開始する考えで、浜本助教は「7〜8年後の実用化を目指したい」と話す(引用:毎日新聞)。
新しい抗生物質の発見のニュースです。東京大学浜本洋助教・関水和久教授らは「カイコ幼虫を実験モデル動物とした創薬基盤の確立に関する研究」を行っています。彼らはカイコを用いた創薬を提唱しカイコをモデル動物として、体内動態及び細胞毒性を、ごく初期の段階で判定できる系を構築しています。
今回もカイコを実験動物としてつかって、約1万5000株の土壌細菌が生産する化学物質の中から、既存の抗生物質が効かないMRSAに有効な物質「ライソシンE」を発見しました。[1]
抗生物質は耐性菌との戦いで使えば使うほど強くなり、最強の抗生物質とも言われたMRSAに効果があるバンコマイシンにも耐性菌(バンコマイシン耐性腸球菌(VRE))が出現しています。VREに対して最後の武器とされていたリネゾリドもあまり効果が上がらず、対費用効果を考えると新規開発を行なう製薬企業も少なくなって新製品はほとんど販売されていません(抗菌剤の年表)。バンコマイシン系がダメであった際には、上述のリネゾリドかリポペプチド系のダプトマイシンが処方されることになっています。アカデミック発の新しい抗生物質の開発なるか。今後に注目したいと思います。
関連文献
- Hamamoto, H.; Urai, M.; Ishii, K.; Yasukawa, J.; Paudel, A.; Murai, M.; Kaji, T.; Kuranaga, T.; Hamase, K.; Katsu, T.; Su, J.; Adachi, T.; Uchida, R.; Tomoda, H.; Yamada, M.; Souma, M.; Kurihara, H.; Inoue, M.; Sekimizu, K. Nature Chemical Biology 2014. DOI:10.1038/nchembio.1710
関連書籍
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外部リンク
- 東京大学関水研究室 University of Tokyo – microbiology
- 抗生物質の話| Chem-Station
- バンコマイシン耐性腸球菌:国立感染症研究所 感染症情報センター
- 耐性菌の出現と歴史:多剤耐性菌、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)など|薬に役立つ情報
- 抗生物質の危機(2)~魔法の終わる時~ | 有機化学美術館