[スポンサーリンク]

ケムステニュース

京都の高校生の学術論文が優秀賞に輝く

[スポンサーリンク]

 

2013年3月号に京都府立桃山高等学校の高校生が主に行った研究に関する論文が日本化学会欧文誌Bulletin of the Chemical Society of Japanに掲載され、見事にSelected Paperに選出されました!

 

まずは皆様おめでとうございます!

研究グループは京都工芸繊維大学の楠川隆博准教授と、京都府立桃山高等学校2年生の丹羽元樹さん、佐々木貴都さん、大澤亮介さん姫野航さん、そして加藤正宏先生となっております。

桃山高等学校はスーパーサイエンスハイスクール(SSH)であり、活発に理科に関する活動を行っているようです。昨年の9月には千葉大学主催の第6回高校生理科研究発表会にて優秀賞を、11月に第9回高校化学グランドコンテストにて大阪市立大学長賞を、12月には株式会社リバネス主催のサイエンス・キャッスルin KANSAIで、口頭発表部門優秀賞並びに麻布大学賞をそれぞれ受賞するなど、正に総なめ状態で数々の栄誉に輝いています。今回はそれらで発表してきた研究内容を英文の論文としてまとめ、学術論文誌に掲載されるばかりでなく、優秀賞を獲得するという偉業です。

 

それではどんな研究なのか少しだけご紹介しましょう。

Observation of a Hydrogen-Bonded 3D Structure of Crystalline Glycerol

Kusukawa, T.; Niwa, G.; Sasaki, T.; Oosawa, R.; Himeno, W.; Kato, M.

Bulletin of the Chemical Society of Japan, 2013, 86, 351-353.

doi:10.1246/bcsj.20120300

グリセリンという名前は一般的に目にする機会が多いですよね。化粧品なんかには保湿効果を期待して添加されていますし、車のラジエーターに入れるいわゆる不凍液にも入っています。彼らが注目して研究したのが、このグリセリンの不凍性に関してです。

 

glycerol_0.png

グリセリンの構造

グリセリンは常温で液体ですが、どろっとしています。そして低温になると凍るはずですが融点は17.8°Cに過ぎません。これはちょっと寒いと凍ってしまうような融点で、酢酸の融点16.7°Cよりも少し高いくらいです。酢酸は純度が高ければ冬にでもなると勝手に凍っています。しかし、グリセリンは凍りません。さてこれは何故でしょうか?

この辺が謎でして、グリセリンの結晶化に関しては嘘の逸話も出回っているくらいです。彼らの論文にも記載がありますが、実際には極低温まで冷却して種となる結晶を取得した後、グリセリンと1-プロパノールとの混合液に種結晶を加え、冷蔵庫で冷却することで結晶を得ています。

 

glycerol_2.jpg

グリセリンのX-線結晶構造解析による三次元図(図は論文より引用)

そして、ここからが彼らの論文の肝となる部分ですが、彼らはその結晶のX-線結晶構造解析を行っています。過去にもグリセリンのX-線結晶構造解析は行われていたようですが、水素結合の観測には至っていませんでした。今回彼らは分子間の水素結合も含めた三次元ネットワークをも明らかにしています。その図を見ると当然結晶なので整然と並んでいるのですが、非常に面白い形でネットワークを形成していることがうかがえます。逆に言えばこのような複雑なネットワークを形成しないと結晶化しない訳ですから、グリセリンが融点が低い割には結晶しづらいことの理由の一つかもしれませんね。

 

グリセリンほど身近な物質の基本的な性質について未解明の部分があったとは筆者はこのニュースを見て少し驚きました。彼らの着眼点に脱帽です。今後もぜひとも化学の世界で活躍していただけることを期待しております!

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4806142085″ locale=”JP” title=”京都ルール”][amazonjs asin=”4777517071″ locale=”JP” title=”京大生が書いた高校化学基礎編―「有効数字の見方」や「化学式の書き方」からはじめる (I/O BOOKS)”][amazonjs asin=”4621039180″ locale=”JP” title=”化学実験ガイドブック―中・高校生と教師のための”][amazonjs asin=”4860103297″ locale=”JP” title=”高校生・化学宣言〈PART7〉 高校化学グランドコンテストドキュメンタリー”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 米で処方せん不要の「やせ薬」発売、売り切れ続出
  2. 食品アクリルアミド低減を 国連専門委「有害の恐れ」
  3. 日本で始まる最先端半導体の開発 ~多くの素材メーカーが参画~
  4. 第一稀元素化学工業、燃料電池視野に新工場
  5. SchultzとKay: 米スクリプス研究所のトップへ
  6. 日本化学会:次期会長に藤嶋昭氏を選出--初の直接選挙で
  7. ノーベル化学賞:下村脩・米ボストン大名誉教授ら3博士に
  8. 酸素ボンベ爆発、男性死亡 

注目情報

ピックアップ記事

  1. エストロゲン、閉経を境に正反対の作用
  2. 水蒸気侵入によるデバイス劣化を防ぐ封止フィルム
  3. 第87回―「NMRで有機化合物の振る舞いを研究する」Daniel O’Leary教授
  4. ~祭りの後に~ アゴラ企画:有機合成化学カードゲーム【遊機王】
  5. アメリカ大学院留学:卒業後の進路とインダストリー就活(1)
  6. 酵母還元 Reduction with Yeast
  7. うっかりドーピングの化学 -禁止薬物と該当医薬品-
  8. Late-Stage C(sp3)-H活性化法でステープルペプチドを作る
  9. 1-ヒドロキシタキシニンの不斉全合成
  10. C70の中に水分子を閉じ込める

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

新たな有用活性天然物はどのように見つけてくるのか~新規抗真菌剤mandimycinの発見~

こんにちは!熊葛です.天然物は複雑な構造と有用な活性を有することから多くの化学者を魅了し,創薬に貢献…

創薬懇話会2025 in 大津

日時2025年6月19日(木)~6月20日(金)宿泊型セミナー会場ホテル…

理研の研究者が考える未来のバイオ技術とは?

bergです。昨今、環境問題や資源問題の関心の高まりから人工酵素や微生物を利用した化学合成やバイオテ…

水を含み湿度に応答するラメラ構造ポリマー材料の開発

第651回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院工学研究科(大内研究室)の堀池優貴 さんにお願い…

第57回有機金属若手の会 夏の学校

案内:今年度も、有機金属若手の会夏の学校を2泊3日の合宿形式で開催します。有機金…

高用量ビタミンB12がALSに治療効果を発揮する。しかし流通問題も。

2024年11月20日、エーザイ株式会社は、筋萎縮性側索硬化症用剤「ロゼバラミン…

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー