[スポンサーリンク]

ケムステニュース

高校生が河川敷で化学実験中に発火事故

[スポンサーリンク]

平成24年6月23日午後2時50分ごろ、東京都足立区日ノ出町の荒川河川敷で、私立の中高一貫校の男子生徒11人が理科部の活動で化学実験をしていたと ころ、炎が上がり、高校1年の4人が顔や手などにやけどを負った。病院に搬送されたが、1人が重傷、他の3人が軽傷で、全員命に別条はないという。
11人中10人は高校、1人は中学の生徒で(中高一貫校の為)、高純度の銅をつくる実験をしていた。酸化銅、アルミニウム、マグネシウムなどをコンクリートの上に出し着火したところ、高さ約2メートルの炎が上がったという。実験は生徒だけでインターネットのサイトを参考に実施し、顧問の教諭はいなかった。
学校側の説明によると、実験の際は顧問が立ち会うことになっていたが、顧問は今回の実験について聞いておらず、酸化銅などは学校から勝手に持ち出されたという。校長は「きちんと企画を提出させ、必ず顧問が立ち会う中で実験するように指導を徹底したい」と話している。

 

 

最近事故のニュースが多い気がするのは気のせいであって欲しいのですが・・・

理科部に所属する中高生が行った化学実験を行うというのは大変結構なことだとは思うのですが、やり方などが全く賛成できないところばかりです。まず、今回の実験が指導者の立ち会いの下ではなかったというのは大変危険です。筆者は大学の教員なので、大学院生が自ら企画し教員の知らないところで実験した結果素晴らしい成果を挙げたという経験を少なからずしています。ただし、その場合は設備が整った実験室で、かつ大学院生レベルの実験に対する安全知識を身につけているから任せられるのであって、その辺が身に付いていない高校生では勝手な実験は慎むべきです。特に、今回はマグネシウムアルミニウムを用いていることから火災の危険が大変高い実験となっています。マグネシウム、アルミニウムの粉末は危険物の乙2類に属しますので、危険物取扱者の免許を持つ者の指導下でなければ扱う事ができません。

アルミニウムやマグネシウムは酸化剤と混合したり、着火したりすると、猛烈に燃焼(酸化)して眩いばかりの光を発します。少量のマグネシウム片の燃焼実験をしたことがありますが、想像以上の光に驚かされます。よって設備が整っていない場所での取り扱いには十分注意する必要があります。

報道の内容を見ると彼らはテルミット法 (thermite process: 人名ではありません)と呼ばれる酸化還元を利用した金属の精錬を試みたものと思われます。金属のイオン化傾向の差を利用した反応で以下のように酸化物が入れ替わります。

テルミット法の例) 3CuO + 2Al -> 3Cu + Al2O3

この反応は高校化学の教科書にも紹介されるような(酸化鉄が多いようです)一般的な反応で、演示実験にもよく用いられます。しかし、この反応は一度始まると制御ができないので、危険な側面があることを忘れてはなりません。演示する場合はごく少量で実験を行うべきです。

ここからは想像ですが、彼らはこの実験の危険性をある程度認識していたのではないでしょうか。顧問に無断で試薬を持ち出している事、学校の実験室ではなく、河川敷の橋の下(?)で行っている事、大人数が集まっていることから、少々盛大にやってみようという甘い考えがあったのではないかと推察致します。2 mほど火柱が上がったという報道もあるようですので試薬を大量に使ったことが事故を大きくしたものと思われます。

またインターネットのサイトを参考にしたということのようですので、くれぐれもそういった悪のりは真似しないでいただきたいものです。

化学実験は安全に配慮していれば危険性は十分下げることが可能です。重傷者もいるようなのでお見舞い申し上げます。今回の一件で部員を含め化学を志す若者が減らない事を切に願います。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759809589″ locale=”JP” title=”実験を安全に行うために”][amazonjs asin=”4759810811″ locale=”JP” title=”続 実験を安全に行うために―基本操作・基本測定編”]

 

Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 「富士フイルム和光純薬」として新たにスタート
  2. 東レから発表された電池と抗ウイルスに関する研究成果
  3. ビールに使われている炭水化物を特定する方法が発見される
  4. マラリア治療の新薬の登場を歓迎する
  5. 「魔法の水でゴミの山から“お宝”抽出」
  6. 高知市で「化学界の権威」を紹介する展示が開催中
  7. 相次ぐ”業務用洗剤”による事故
  8. ノーベル化学賞、米仏の3氏に・「メタセシス反応」研究を評価

注目情報

ピックアップ記事

  1. 英語で授業/発表するときのいろは【アメリカで Ph.D. をとる: TA 奮闘記 その 1】
  2. 概日リズムを司る天然変性転写因子の阻害剤開発に成功
  3. 三菱ケミカルのサステナビリティに関する取り組み
  4. 2011年日本化学会各賞発表-学会賞-
  5. REACH/RoHS関連法案の最新動向【終了】
  6. ウーロン茶の中でも医薬品の化学合成が可能に
  7. 専門家要らず?AIによる圧倒的高速なスペクトル解釈
  8. 宮浦・石山ホウ素化反応 Miyaura-Ishiyama Borylation
  9. 大日本住友製薬が発足 業界5位、将来に再編含み
  10. ゲノムDNA中の各種修飾塩基を測定する発光タンパク質構築法を開発

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

Carl Boschの人生 その11

Tshozoです。間が空きましたが前回の続きです。時系列が前後しますが窒素固定の開発を始めたころ、B…

PythonとChatGPTを活用するスペクトル解析実践ガイド

概要ケモメトリクスと機械学習によるスペクトル解析を、Pythonの使い方と数学の基礎から実践…

一塩基違いの DNA の迅速な単離: 対照実験がどのように Nature への出版につながったか

第645回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科相田研究室の龚浩 (Gong Hao…

アキラル色素分子にキラル光学特性を付与するミセルを開発

第644回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 総合研究院 応用化学系 化学生命科学研究所 吉沢…

有機合成化学協会誌2025年2月号:C–H結合変換反応・脱炭酸・ベンゾジアゼピン系医薬品・ベンザイン・超分子ポリマー

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年2月号がオンライン公開されています。…

草津温泉の強酸性硫黄泉で痺れてきました【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい!  というわけで、硫黄系の温泉であり、日本でも最大の自然温泉湧出量を誇る草津温泉…

ディストニックラジカルによる多様なアンモニウム塩の合成法

第643回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理工学研究科 村上研究室の木之下 拓海(きのした …

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー