春の褒章の受章者が発表され、芸能やスポーツの分野で功績があった人に贈られる紫綬褒章(しじゅほうしょう)を俳優・柄本 明さん(62)や、劇作家・野田秀樹さん(55)らが、業務に精励し、模範になる人に贈られる黄綬褒章(おうじゅほうしょう)をソムリエ・田崎真也さん(53)らが受章した。春の褒章は例年4月に発表されているが、2011年は東日本大震災の影響で延期されていた。(引用:FNNニュース)
通常、4月後半に発表される春の褒章。今年は震災の影響で1ヶ月半あまり発表は延期となりました。化学からは京都大学大学院工学研究科の北川進教授と、東北大学大学院理学研究科の平間正博教授の2名が選ばれました。勝手にタイトルをつけさせていただきまして、お二人を簡単に紹介したいと思います。
人工多孔性材料のパイオニア:北川進教授
CO2を取り込むことが可能なPCPの概念図
北川進教授は「無機-有機骨格体」(MOF)、もしくは「多孔性金属錯体」(PCP)と呼ばれる人工多孔性材料のパイオニアです。1997年に世界で初めて、室温において安定な多孔性材料として機能する多孔性配位高分子(PCP)を合成し、その化合物がメタンを吸蔵、脱着できることを実証しました。[1]当時はあまり注目されませんでしたが、水素吸蔵やエネルギー問題、さらに地球温暖化の原因物質と言われる二酸化炭素(CO2)を吸蔵できるといった特徴のある多孔性分子が開発されました。その結果、2004年に発表した総説[2]はすでに引用回数3000回を超え、関連研究は毎年2000報以上、現在化学でも再注目分野のひとつとなっています。
代表文献
[1] Kondo, M.; Yoshitomi, T.;,Matsuzaka, H.;Kitagawa, S.*, Seki, K. Angew. Chem. Int. Ed. 1997, 36, 1725. DOI: 10.1002/anie.199717251.[2] Kitagawa, K.; Kitaura, R.; Noro, S. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334. DOI: 10.1002/anie.200300610
天然物合成の革命児:平間正博教授
平間正博教授は自然に存在する生理活性物質を合成し、生物学的研究を行う天然物化学研究で優れた業績をあげました。特に人工合成研究においては、非常に不安定な9員環エンジイン化合物や巨大分子毒シガトキシンなどの全合成[1]を成し遂げ、生物学的研究や機構解明研究に取り組みました。これらの研究は多くの化学者を魅了し、多数の合成化学者を輩出しました。現在、平間教授は東北大学において卓越した業績を挙げた教授に与えるディスティングイッシュトプロフェッサー(distinguished professor)の称号を得ています。
代表文献
[1] (a )Hirama, M.; Oishi, T.; Uehara, H.; Inoue, M.; Maruyama, M.; Oguri, H.; Satake, M. Science 2001, 294, 1904. DOI:10.1126/science.1065757;(b) Inoue M, Miyazaki K, Ishihara Y, Tatami A, Ohnuma Y, Kawada Y, Komano K, Yamashita S, Lee N, Hirama M. J. AM. Chem. Soc. 2006, 128, 9352. DOI: 10.1021/ja063041p
[2] Kobayashi,S.; Ashizawa, S.; Takahashi, Y.; Sugiura,Y.; Nagaoka, M.; Lear, M. J. Hirama, M.; J. Am. Chem. Soc., 2001, 123, 11294. DOI: 10.1021/ja011779v
特に東北大学の平間先生の受賞は震災に見舞われた東北の方々にとって嬉しい吉報だと思われます。お二人の受賞を心よりお祝い申し上げます。