少し時間があきましたが学会賞、学術賞に続いて、最後に進歩賞の発表です。進歩賞とは名前が悪いですが、
「化学の基礎または応用に関する優秀な研究業績を挙げ、受賞対象となる研究についての主論文を日本化学会会誌に一報以上発表し、年齢が受賞の年の4月1日現在において満37歳に達していない者。」
が対象となっており、研究室をもってPIとなった、もしくはなる前の日本の化学分野における、最高の賞となっております。現在でも素晴らしい結果をお持ちですが、未来の日本の化学を背負う人材がこの中からでるかもしれません。今回の人物紹介には代表的にな仕事1つをピックアップして紹介させていただきました。それではGO!
第58回日本化学会進歩賞
植村 卓史 氏 (京大院工)「金属錯体ナノ空間内での高分子合成」
機能性高分子の合成制御ー
有機無機ナノ複合体の機能性創造空間を利用して高分子の合成や得意的な挙動の観測を行いました。例えば ピロールの重合において、二次元、三次元的な空間を有する錯体を鋳型として実験を行うことで、レイヤー状や多孔性のポリピロールが生成することを明らかにしました。
“Fabrication of Two-Dimensional Polymer Arrays: Template Synthesis of Polypyrrole between Redox-Active Coordination Nanoslits”
Yanai, N.; Uemura, T.; Ohba, M.; Kadowaki Y.; Maesato, M.; Takenaka, M.; Nishitsuji, S.; Hasegawa, H.; Kitagawa, S., Angew. Chem. Int. Ed, 2008,120, 10031.
加納 太一 氏 (京大院理)「デザイン型アミン有機触媒を用いた高選択的合成手法の開発」
キラルアミン触媒ー
有機分子触媒は触媒として主要である金属を用いず、有機分子そのものが触媒として作用するもののことをいいます。キラルアミン触媒はプロリンやマクミラン触媒など多数の不斉触媒として有用なものが知られています。その中でも、下記のようなビナフチル骨格を有する触媒を合成し、多数の不斉触媒反応を開発しました。下記の例ではアルデヒドのα位の不斉ヨウ素化に成功しています。
“Direct Asymmetric Iodination of Aldehydes Using an Axially Chiral Bifunctional Amino Alcohol Catalyst”
Kano, T.l; Ueda, M.; Maruoka K. J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 3728.
DOI:10.1021/ja074003o
【略歴】1996年名古屋大学工学部卒業、1999年ハーバード大学化学・化学生物学科留学(E. J. Corey教授)、2001年名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了(山本尚教授)後、日本学術振興会博士研究員、カリフォルニア工科大学博士研究員(B. M. Stoltz教授)を経て、2003年京都大学大学院理学研究科助手、2006年同大学講師(丸岡啓二教授)となり、現在に至る。
川﨑 常臣 氏 (東理大総合)「炭素同位体キラル化合物による不斉誘導現象の発見と超高感度不斉認識」
不斉自己触媒反応ー
硤合不斉自己触媒反応は合成的な有用点は少ないが、ほぼ唯一の不斉の起源(Homochirality)を理解する為のモデル反応とみなされている。
この反応において、炭素同位体置換による極微小不斉が,アルキル亜鉛のアルデヒドへの付加反応のエナンチオ選択性を制御し得ることを、不斉自己触媒反応による不斉増幅と組み合わせること、により初めて明らかにしました。
“Asymmetric Autocatalysis Triggered by Carbon Isotope (13C/12C) Chirality”
Kawasaki, T.; Matsumura, Y.;Tsutsumi, T.; Suzuki, K.; Ito, M.; Soai, K. Science 2009, 324, 492.
【略歴】1999年東京大学農学部卒業、2004年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(北原武教授)後、理化学研究所ジュニア・リサーチ・アソシエイトとなる。2004年東京理科大学理学部応用化学科助教(硤合憲三教授)となり、2009年より東京理科大学総合研究機構講師 (理学部応用化学科併任)、現在に至る。
笹森 貴裕 氏 (京大化研)「新規な機能・物性発現を指向した高周期典型元素π電子系化合物の創製」
高周期典型元素π電子系化合物ー
不安定化学種はかさ高い置換基で”保護”することで単離し得る場合があります。Tbt (2,4,6-tris[bis(trimethylsilyl)methyl]phenyl) 基およびBbt (2,6-bis[bis(trimethylsilyl)methyl]-4-[tris(trimethylsilyl)methyl]phenyl) 基もそれら保護基の代表選手です。下記論文ではそれらの保護基を用いて、安定に扱うことが可能となった、ジブロモジシレンから置換ジシレンの合成とケイ素ーケイ素三重結合のジシリンの合成に成功しています。
“Synthesis and Reactions of a Stable 1,2-Diaryl-1,2-dibromodisilene: A Precursor for Substituted Disilenes and a 1,2-Diaryldisilyne”
Sasamori, T.; Hironaka, K. Sugiyama, Y.; Takagi, N.; Nagase, S.;Hosoi, Y.; Furukawa, Tokitoh, N, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 13856.
DOI: 10.1021/Ja8061002
【略歴】1997年東京大学理学部化学科卒業、2002年九州大学大学院理学研究科博士後期課程修了(時任宣博教授)後京都大学化学研究所 研究員、2003年に2003.4: 京都大学化学研究所助手となり、2009年京都大学化学研究所准教授(時任研究室)。現在に至る。
鳶巣 守 氏 (阪大院工)「炭素-酸素、炭素またはケイ素結合の切断を経る触媒的置換反応の開発」
C-C結合切断ー
不活性結合の活性化による新規反応の開発を行っています。
例えば、不活性な炭素-炭素結合の一つである、炭素-シアノ結合の切断を経る新しい触媒的シリル化反応がロジウム触媒・ジシランという反応系で進行することを見出しています。このようなユニークな触媒反応は、反応系中で生成するロジウム-シリル種によるものであると考えられます。
Rhodium-Catalyzed Reductive Cleavage of Carbon−Cyano Bonds with Hydrosilane: A Catalytic Protocol for Removal of Cyano Groups
Tobisu, M.; Nakamura, R.; Kita, Y and Chatani, N J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 3174. DOI: 10.1021/ja810142v
【略歴】1996年大阪大学工学部応用化学科卒業。2001年に同大学院工学研究科応用化学専攻博士課程修了(村井眞二教授)後、武田薬品工業へ就職。2005年に大阪大学大学院工学研究科助教(茶谷直人教授)、2006年より特任講師となり現在に至る。
中西 尚志 氏 (物質・材料研究機構他)「フラーレンへのアルキル基導入による超分子ソフトマテリアルの創出」
水飴状フラーレンー
超微細なサッカーボール状の炭素分子「フラーレン」の1カ所に枝状の物質を付け、室温で水あめのような液体にすることに成功しました。通常のフラーレン(は肉眼では、すすと区別できない粉末状。これまで、フラーレンをさまざまな溶媒に溶かし、液状にした例はあったが、電気を通す性質などが変わってしまう欠点があった。 同機構の中西尚志研究員らは、ベンゼン環を中心とする枝状の物質をフラーレンに1カ所だけ付ける合成法を開発。この物質に、フラーレン本体が集まって固体になるのを抑える効果があり、性質をあまり変えずに液状にすることに成功した(HPより抜粋)。
“Room Temperature Liquid Fullerenes: An Uncommon Morphology of C60 Derivatives” Michinobu, T.; Nakanishi,* T.; et al J. Am. Chem. Soc. 2006, 128 , 10384. DOI:10.1021/ja063866z
【略歴】1996年長崎大学工学部応用化学科卒業、その後同大学院に進学し、2000年長崎大学大学院海洋生産科学研究科海洋資源学専攻博士課程修了。その後同大学院及びヒューストン大学、オックスフォード大学で博士研究員として過ごす。2004年物質・材料研究機構 物質研究所超分子グループ研究員、2007年より同機構主任研究員となり現在に至る。JSTさきがけ「構造制御と機能」 研究員兼務
不破 春彦 氏 (東北大院生命)「複雑な構造を有する海洋天然有機化合物の効率的全合成」
海洋ポリエーテル化合物の全合成ー
一貫して下記に示すようなポリエーテル化合物を中心とした生物活性物質を有する天然物の全合成を行ってきました。2002年にガンビエロールの全合成を達成した後、2003年にギムノシン、2006年にブレベナールの全合成を達成しました。その卓越した合成センスを活かし、独自の方法論で多数の天然物を全合成を達成し、構造活性相関への応用への展開を行っています。
“Total Synthesis of the Proposed Structure of Brevenal”
Fuwa, H.; Ebine, M.; Sasaki, M. J. Am. Chem. Soc., 2006, 128, 9648.
DOI: 10.1021/ja062524q
【略歴】1997年東京大学理学部化学科卒業 2002年東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了(橘和夫教授)。 その後東京大学大学院薬学系研究科寄付講座教員、 日本学術振興会特別研究員などを経て現在東北大学大学院生命科学研究科准教授(佐々木誠教授)。
山本 洋平 氏 (科学技術振興機構)「自己組織化による電子活性ナノ材料の創成」
光電導性を示す同軸型ナノチューブの作製ー
ヘキサベンゾコロネン(HBC)を親水性部位と疎水性部位で就職した複合体がナノチューブを形成することが近年明らかになっています。基本的にこのHBCナノチューブを用いて、多数の物性や機能研究を行いました。そのなかで、下記の論文では親水性部位の末端に様々な置換機を導入し、顕著な光電導性を示す同軸型ナノチューブの作成に成功しています。
Photoconductive Coaxial Nanotubes of Molecularly Connected Electron Donor and Acceptor Layers
Yamamoto,Y.; Fukushima,T.: Suna, Y.;Ishii, N.; Saeki, A.; Seki, S.; Tagawa, S.; Taniguchi, M.; Kawai, T.; Aida, T. Science 2006, 314.1761.
DOI: 10.1126/science.1134441
【略歴】2003年3 月大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て、2005 年より科学技術振興機構ERATO 相田ナノ空間プロジェクト研究員、2005 年10 月よりERATO‒SORST 「分子プログラミングによる電子ナノ空間の創成と応用」研究員、2008 年より同プロジェクトグループリーダー。
最後に一言、日本化学会の英語サイトがかなりしばらくの間更新されていないのが気がかりです。これでは海外の研究者が誰が今回の素晴らしい賞をとっているのかわかりません。中国化学会やインド化学会と同じもしくはより劣っています。英語サイト、我々もそろそろ本格的に考えようと思います。
さらには日本語サイトにしてもケアが行き届いてない気がします。会員数4万人を誇る日本で2番目の大きな学会なのですから、正直立派なものにして欲しいと思います。