京都大学 物質-細胞システム統合拠点の上杉志成教授と東京大学の酒井寿郎教授らのチームは、細胞内で脂肪の合成を妨げる化合物を発見した。マウスに
この物質を与えたところ、食べ過ぎても糖尿病や脂肪肝になるのを防ぐことができた。内臓に脂肪がたまり糖尿病などを招くメタボリック症候群の治療薬開発の
足がかりになる成果だ。 米科学誌ケミストリー・アンド・バイオロジー(電子版)に28日掲載された。発見した化合物は「ファトスタチン」。上杉教授が収集した3万種類の化合物の1つで、人工合成で安価に作れる。 (引用:NIKKEI.NET)
先日取り上げたアドヘサミンに続いてまたもや京大・上杉グループからのニュースです。
細胞内で脂肪の合成を抑える物質・ファトスタチン(fatostatin)を発見したというニュースです。
ファトスタチンは癌抑制研究の過程で見つかってきた化合物と言うことで、抗癌作用と脂肪低減作用を両方持つそうです。そのターゲットは、脂肪合成遺伝子群を制御する、転写因子タンパクSREBP。 これを抑制することで、脂肪合成をおさえるというのが作用機序だそうです。マウスに投与した結果が冒頭写真(右のマウスがファトスタチン投与)。
Chemistry & Biology誌のインパクトファクターは、生化学研究のスタンダード雑誌J.Biol.Chem.などと同じ程度(IF=5.7)です。Natureシリーズ、Cell、Science掲載に比べれば、世間の注目度は必然そこまで高くならないように思えるのですが・・・どういうわけか、国内外問わずあらゆるメディアがこの仕事を取り上げているようです。最近同グループから報告されたばかりのアドヘサミンも、同じChemistry & Biology誌掲載だったはずなのですが、それとは比較にならないぐらいの反響です。
おそらくは、「メタボ対策」というキーワードで打ち出した、アピール戦略の勝利なのでしょう。「この効果こそは、メタボメタボ言ってやまない世間に訴える力があるぞ!」と見たのでしょうね。スマートですね。
体内のどこで起こっているかイメージしづらい細胞接着がどーたらよりも、「メタボに効く!」と謳ったほうが短文でも分かりやすいですからね・・・。
しかしこのようなキーワードだけが先走りしてしまいがちな仕事については、ミスリーディングを防ぎつつ報道する、ということにも相当な筆力・手腕が問われるのだと思えます。踏み込んだ内容まで正直筆者は評価できない研究分野ですが、科学的に妥当な報道がされていることを願うばかりです・・・。
ともあれ機会ある事に世間にアピールしていかないと、生き残りづらい風潮になってるというのは事実なのでしょう。世間が不況でひーひー言って先が見えない最中にあって、分かりにくい研究は国民の理解が得がたくなってきつつあるということかもしれません。
・・・とはいえ「直接的なアピールがしづらいけど重要な基礎研究」も確かにあるので、それが蔑ろにされないことを願うばかりです。
関連論文
“A Small Molecule That Blocks Fat Synthesis By Inhibiting the Activation of SREBP”
Wakil, S. J. ; Uesugi, M. et al. Chemistry & Biology 2009, 16, 882. doi: 10.1016/j.chembiol.2009.07.007
Sterol regulatory element binding proteins (SREBPs) are transcription factors that activate transcription of the genes involved in cholesterol and fatty acid biosynthesis. In the present study, we show that a small synthetic molecule we previously discovered to block adipogenesis is an inhibitor of the SREBP activation. The diarylthiazole derivative, now called fatostatin, impairs the activation process of SREBPs, thereby decreasing the transcription of lipogenic genes in cells. Our analysis suggests that fatostatin inhibits the ER-Golgi translocation of SREBPs through binding to their escort protein, the SREBP cleavage-activating protein (SCAP), at a distinct site from the sterol-binding domain. Fatostatin blocked increases in body weight, blood glucose, and hepatic fat accumulation in obese ob/ob mice, even under uncontrolled food intake. Fatostatin may serve as a tool for gaining further insights into the regulation of SREBP.
外部リンク
- 京都大学 物質-細胞システム統合拠点 (iCeMS)
- Fatostatin’ Is A Turnoff For Fat Genes (Science Daily)
- New fat-fighting drug has anti-diabetes action too (Reuters)
- 食べ過ぎでもメタボ知らず?=脂肪合成妨げる物質発見-京大など (時事ドットコム)
- メタボ治療に新化合物 京大教授らのグループ発見 (京都新聞)
- メタボ薬開発に道、脂肪合成妨げる化合物発見 京大など (NIKKEI.NET)
- ファトスタチンは、薬になれるか (薬作り職人のブログ)