米製薬大手メルクは9日、同業のシェリング・プラウを411億ドル(約4兆700億円)で買収すると発表した。 買収は現金と株式を合わせたもので、シェリング株主は一株につきメルク株式0.5767株と現金10.50ドルを受け取る。シェリング株主の持ち株は約32%で、残りはメルク株主分となる。 合併後の新会社はメルクのリチャード・クラーク社長兼最高経営責任者(CEO)が率いることになる。AP通信が伝えたメルク広報担当の話によると、新会社発足に伴い従業員の約15%に当る1万6,000人がリストラされる見通しであるという(引用:IBTimes )。
世界の製薬会社売上第8位のメルク(Merck) と同第18位のシェリング・プラウ(Schering-Plough) の合併が発表されました。なんだか中途半端な規模の合併のように思うひともいるかもしれませんが、それは違います。20世紀はトップを走り続け、製薬再編激化する数年前まではトップ5に君臨していた医薬品業界の優等生メルク。それが18位といっても日本の製薬会社トップの武田薬品工業(同17位)とほぼ同等の売上高を挙げているシェリング・プラウを買収するというわけです。また、シェリング・プラウ社は2007年にオランダの製薬会社オルガノンを買収しており、通年で考えると武田より売上高は高くなります。さらには両社は今年の製薬業界再編は共同出資でメルク/シェリング・プラウ製薬を有しており(同28位、日本の中堅製薬会社よりも大きい)、それをあわせると売上高でファイザーについで第2位に躍り出るといいます。
メルクは2004年にCOX2選択的阻害剤バイオックス(VIOXX)の失敗で5000億円以上の巨額の賠償金を払たことを契機に、現在までリストラや研究所の閉鎖を余儀なくされました(関連記事参照)。それにも関わらず、今回の買収に踏み切るメルクの買収の思惑はなんなのでしょうか?
製薬会社の統合にはいくつか種類がありますが、今回の買収の意図の1つとして、メルクCEOリチャード・クラーク氏は「シェリング・プラウが保有する相補的製品のポートフォリオとパイプラインの獲得のみならず、新興国を含めた米国市場以外へのリーチが大きな目的となる」と述べています。これにより合併後の新会社はフェーズIIIの新薬を18個所有することとなるようです。
また、実は今回メルクの買収であることは確かなのですが、存続会社はシェリング・プラウの方であるらしいのです(ただし新会社名はMerck)。その理由としてシェリング・プラウが販売権を有しているJohnson & Johnson の抗TNFa治療薬レミケード(Remicade)のためではないかといわれています。契約では会社が買収されるなどが起こった場合、その販売権を失うこととなります。形式上シェリング・プラウは存続会社であるため、この販売権を持続させることが出来る可能性があるというわけです。そんな簡単にはいかないと思われますが。
図 抗体医薬「レミケード」
図 両社のCEO。新会社はクラークが率いることとなる
今年1月にファイザーがワイスの買収を発表しました(関連記事参照)。また、現在スイスの大手製薬会社ロシュが米ジェネンテックの完全子会社化に躍起になっているところです。ロシュがジェネンテックの子会社化に成功すればまた順位がかわります。仏サノフィ・アベンティス が買収標的 としてブリストル・マイヤーズスクイブ を挙げているという噂もあります。2010年問題(医薬品の特許切れが多い年である)に向けて今年も製薬業界は再編の嵐になりそうな予感がしてきました。
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