日本学士院(久保正彰院長)は12日、優れた研究や業績を顕彰する2009年度の日本学士院賞に次の10人を選びました。村上哲見、 江口徹、 川人貞史、 安藤隆穂、 竜田邦明、 矢川元基、渡邊貞、 武田和義、 清水孝雄、 御子柴克彦。
今年の日本学士院賞の化学分野は早稲田大学理工学術院の竜田邦明教授が受賞しました。受賞名は「糖質を用いる多様な天然生理活性物質の全合成」です。
以下日本学士院のホームページから引用します。
竜田邦明氏はグルコースやグルコサミンなど、いわゆる糖質を用いる合成法を開拓して構造、生理活性共に多様な多くの天然生理活性物質の全合成に成功し有機合成の重要な方法論として基礎を築きました。 抗生物質を始め自然界に存在する天然物は、構造中に不斉炭素原子を数多く持つものが多く、殆どの場合その立体異性体は元の生理活性を示しません。最小単位の原料から天然物と同じ立体配置を持つ化合物を有機化学的に合成するためには、立体配置の確定している物質を不斉炭素源とし、立体特異的な反応を組み合わせて目的の天然物のみを合成することが重要です。 同氏は、立体配置が確定し、かつ入手容易な糖質を不斉炭素源として目的の天然物を全合成する立体特異的合成法を開拓することによって、タイロシン(動物薬)、テトラサイクリンおよびチエナマイシン(いずれも細菌による感染症用)など、有用な抗生物質を含む57種の多様な天然物の全合成を世界に先駆けて完成しました。これらの研究は有用物質の創製および工業的合成法の開発(ペニシリン系抗生物質の製造に応用)など、関連する領域の発展にも大きく貢献しました。
下記に示すエリスロマイシンやテトラサイクリンを含む4大抗生物質群の代表化合物を合成したことが主な業績です。かなり竜田教授は厳しいという噂をききますが、ものづくり化学の厳しさを知っているからこそだと思います。4大抗生物質それぞれを合成するのに1つにつき10年以上かかっている竜田先生の合成研究は、「効率的」というところからは少し離れていますが、面白い、興味深い反応が数多く含まれているものであると思います。
ちなみに余談ですが、有名であるのにJACSなどの雑誌で見られないのは、抗生物質を主に合成し、合成が完了したらどんなものでも日本の雑誌であるJ. Antibiot. へ投稿しているからです。
受賞おめでとうございます!
関連書籍
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関連リンク
- 研究最前線 世界初 4大抗生物質を1からつくる~人類の健康と福祉に大きく貢献~:WASEDA Weeklyの特集より。
- 先生への突撃インタビュー(その3) 竜田先生:早稲田応用化学会のインタビュー記事
- 抗生物質の話:ケムステコンテンツ「有機って面白いよね!!」より