2008年10大化学ニュースPart 1 に続きましてPart 2!
早くしなければ2009年も過ぎていってしまいます!
遠藤章博士がラスカー賞受賞
ことしのラスカー医学研究賞の受賞者に血中コレステロールを下げる薬「スタチン」を発見した遠藤章氏が決まりました。スタチン系薬物は、高脂血症の特効薬として処方され、HMG-CoA還元酵素を阻害する事で薬理作用を示します。世界中で処方されている薬の一つであり、ペニシリン以来の夢の薬と言われています
旧三共株式会社に所属していた遠藤博士は、スタチン系最初の薬物であるメバスタチン(コンパクチン)を発見し、後に大きな市場となるスタチン系薬物の研究フィールドを切りひらきました。
下村脩氏ら3人にノーベル化学賞
スウェーデン王立科学アカデミーは、2008年のノーベル化学賞を下村 脩 氏(米ボストン大学医学校 名誉教授)、マーチン・チャルフィー氏(米コロンビア大学)、ロジャー・Y・チャン氏(米カリフォルニア大学サンディエゴ校)の3人に授与しました。今年の一般的にも通用するお話はやはりこれでしょう。今回のノーベル賞は一般的には意味はわからなくとも見た目でわかりやすい内容でした。
万有製薬つくば研究所閉鎖
万有製薬(メルク)のつくば研究所が閉鎖されるという事態に落ちいりました。特に今回の場合、ファイザーやグラクソスミスクラインの日本サイトが閉鎖された後あまり時が経っていないため、他の製薬会社も研究員の補充をすでに行っており、リストラされた研究員の行き先が狭き門になっていることが問題でした。業界がこんな感じであると、薬を創って世界中の病気を治したいと志す、薬学、化学系の学生が減ってしまうことが懸念されます。さらにMBLAという若手有機化学者にとって最高の名誉である賞の行方も来年以降気になるところです。ちなみに今年は東京工業大学の大森健准教授がその栄誉を得ました。
天然物合成化学の活性化
一般的化学10大ニュースから外れるところになると思いますが、筆者の専門分野の一つである天然物合成の分野にも大きな話題がいくつかありました。若手のカリスマス合成化学者クリプス研究所のPhil Baran教授が他の教授が数年以上かかっても歯が立たなかった palau’amineの類縁体の2つ(axinellamines, massadines)を一挙に合成するという快挙を成し遂げました。また、血管新生阻害活性を有するCortistatinのエレガントな半合成も達成し、その勢いはとどまるところをしりません。CortistatinはハーバードのShair教授、Baranの師であるNicolaou教授によってもその後全合成が達成されました。また、スタンフォード大学のTrost教授が自身で提唱するアトムエコノミーの概念を存分にアピールしたブリオスタチンの全合成をNatureに報告しました。他にも今年から創刊されるNature Chemistryに会わせたようなすばらしい合成が目白押しでした。さらには、タミフルの合成競争も東大薬学部柴崎教授、先に述べたTrost教授らによって行われました。その合成競争に終止符に打つようなすばらしい合成を報告したのが、東京理科大学林雄二郎教授です。この話は2009年になるのでまた来年。
というわけで、天然物をただ作る、作った後にそれをつかって何かを行うという天然物合成のある意味ワンパターンな目的から、真に有用な合成方法論の開発により、10年で作れない化合物を短期間で合成したり、プロセス化学レベル(まだほど遠いか)まで磨き上げる合成競争が目につきました。今後もこのような展開に合成化学は進んでいくと思われます。今年は、K.C.Nicolau教授、中田忠教授(東京理科大)らが合成するマイトトキシン完成なるか?タキソール以来の合成化学のマイルストーンpalau ‘amine陥落なるか!?が注目です。
有機EL実用化進む
10月に幕張で開催されたCEATEC Japanでは、ソニーが薄さ0.3mmの有機ELディスプレイを発表しました。つい1990年代には研究段階にしか過ぎなかった有機ELがこの10年で飛躍的な進歩を遂げ、今年は多くの商品化が進みました。昔に描いていた21世紀。有機ELで作られたディスプレイがこれを再現させることは容易なことのように思えてきます。今年もどこまで躍進する
のでしょうか?
というわけで、2008年を偏見で見た化学で振り返ってみました。2009年はケムステニュースもしっかり更新致しますので本年もよろしくお願い致します。