中国産の冷凍ギョーザを食べた兵庫県高砂市の自営業の男性(51)ら家族三人が、有機リン系の農薬「メタミドホス」による中毒になっていたことが、兵庫県警などの調べで三十日分かった。(引用:中国新聞)
メタミドホス(methamidophos)は、上記構造式から分かるように、リン(P)元素を持っている有機化合物です。こういったタイプの化合物(有機リン剤)は農薬などに多用されていることが知られています。
?たとえば、他の有機リン農薬には、以下のような化合物が知られています。
オウム真理教地下鉄サリン事件でよく知られるようになった、サリン、タブン、ソマン、VXガスなども原理的には同じ作用機構で毒性を及ぼす化合物です。こちらは揮発性が高いため広範囲に飛散しやすく、人間にも効果があるのでとても危険です。
いずれも、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)の活性部位と強く結合し、アセチルコリンの分解を長時間にわたり止めてしまいます。
アセチルコリンは活動性神経伝達物質の一種です。必要ないとき(情報伝達の必要がないとき)はAchEによって過剰に存在しないように分解されます。これがうまく機能しないと神経が常に活発化された状態が生じます。それにより嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、めまいなどの症状が起き、ひどい場合には死に至ります。
昆虫のAchEと人間のそれは性質が少し違ってきます。この点に着目し、人間のAchEにはあまり効かず、昆虫のそれに強く効くものを農薬として選んで使っている、というわけです。ただ、メタミドホスはそれでも人間への毒性が強く、中国でも使用が禁止されたばかりです。?
今回のメタミドホス事件は、身近な加工食品に関することです。誰もが日常的に直面しうる不安は、被害が及びうる範囲を考えても重く捉えられるべきでしょう。もちろんこれだけで「中国製食品が全て悪い」と決めつけるのは賢い意見とは思えません。しかし、「疑わしきは食せず」と、消費者側でのリスク管理を意識していく、良い機会になるのではないでしょうか。
外部リンク
- メタミドホス – Wikipedia
- 有機リン化合物 – Wikipedia
- 殺虫剤 – Wikipedia
- メタミドホス餃子の一件 (有機化学美術館・分館)
- メタミドホスの混入経路は?(こども省)