2007年、今年も残すところあと数日で終わりです。今年はいかがであったでしょうか。社会では米国のサブプライム問題、消えた年金問題、また首相の退陣、福田新首相の誕生、原油の高騰など様々な出来事がありました。
その目を化学に向けてみると、今年の化学に関する研究、出来事、事件はどのようなものがあったのでしょうか。独断と偏見で今年の化学10大ニュースを紹介したいと思います。
- 【賞】固体表面上の化学反応の研究へノーベル化学賞
今年のノーベル化学賞は独マックス・プランク財団フリッツ・ハーバー研究所のゲルハルト・エルトゥル氏でしたね。受賞理由は「固体表面上の化学反応の研究」。 ナノテクノロジーのさきがけとなる理論研究でした。2008年のプリーストリーメダルに選ばれた、類似研究を行っていたカリフォルニア大学バークレー校のソモライ教授は残念ながら選考からもれました。当サイトではなんとか予想ができましたが、こういってはなんですが、期待はずれの結果に終わっています。来年こそは日本人、カップリング反応の開発もしくはカーボンナノチューブの発見に期待したいと思います。
他に日本人化学者が受賞した大きな賞といえば、コロンビア大名誉教授中西香爾氏の文化勲章、東京大学大学院薬学研究科の柴崎正勝氏のアメリカ化学会賞とPrelog Award Medal(スイス連邦工科大学(ETH)化学科の最高の賞)でしょうか。
- 【新団体】日本化学連合の発足
あまり世間に知られていないというのがかなり寂しいところですが、今年の6月29日に日本化学連合(Japan Union of Chemical Science and Technology)という日本の化学学会をまとめた組織が発足しました。18の学協会、総延べ会員数11万人以上の参加を得ているそうです。イメージはアメリカ化学会(ACS)の部会制ですが、それにしてはあまりにもチープな内容。もちろん批判するわけではなくむしろ応援したいのですが、素人が作ったようなホームページをかかげて、大きなことを言っても、現代の化学者は誰もついていきません。まずACS並みのサイトをつくってみてはいかがでしょう。
現在、論文を投稿、閲覧するだけにしてもインターネットは欠かせません。ましてや日本の化学学会を束ねようとする組織のサイトからあのような状態であると考えると非常に悲しくなります。来年の躍進を期待いたします!
- 【再編】製薬業界再編第二幕
今年の4月に旧第一製薬と三共が完全統合し第一三共になりました。これでひとまず製薬業界の再編は終わったものと思われました。しかし、そうではなかったのです。今年10月19日大手ビールメーカー、キリンビールによる大手バイオメーカー「協和発酵工業」の買収が発表されました。1年後キリンの医薬会社キリンファーマと合併し新会社となるそうです。得意の抗体技術を基とした今回の合併。その後武田薬品工業も抗体子会社の設立、アステラスもバイオ企業の買収、そして最近エーザイも4300億円で米国のバイオ企業「MGIファーマ」を買収しました。2010年多くの大手製薬企業の主力製品が米国で特許切れを迎えます。それを見通しての新たな再編が始まるのでしょうか。また、後発医薬品(ジェネリック医薬品)をめぐる合併もまだまだ起こりそうです。
- 【事故】三菱化学火災事故
12月21日に起こった三菱化学鹿島事業所(神栖市東和田)のプラント火災が起きました。完全鎮火までに12時間を要したこの火災により4人の死者を出しました。今年の化学関連会社での事故としては最悪の事故となりました。ましてや大手化学メーカーである三菱化学がこのような大きな事故を起こしたということで、化学製品を扱う会社にとっては今後の安全対策を強く求められることになります。
- 【研究】C-H酸化、21年かかった天然物合成
専門分野の関係から有機化学分野しか話すことができませんが、今年の代表的な研究として二つの研究をあげたいと思います。 C-H結合活性化反応は最近の触媒化学分野の注目分野とされ、未来の化学を担う若手化学者が次々とこの分野に参入しています。その理由は、分子モデルをくっつけるかのごとく、C-H結合に窒素や炭素、酸素を導入できるからです。とはいってもまだまだ複雑な化合物が耐えることのできる条件とはいえない、タフな条件が必要です。イリノイ大学のM. Christina White准教授はC-H酸化反応において、今までよりも相当温和な条件、すなわち、複雑な化合物が耐えることができるかもしれない条件を開発しました。同氏の研究は今年のScienceに公開されています。まだまだこれらの反応は改良され、合成化学の分野においてGrubbsのオレフィンメタセシスのような革命をもたらしてくれることでしょう。
また、天然物合成の極みといえば、アザジラクチンの全合成。 ケンブリッジ大学・Steven Leyといえば知る人ぞ知る天然物合成化学者の大物ですが、彼が21年もの歳月をかけて合成したアザジラクチンは現在の合成化学の限界をよく反映していると思います。実際アザジラクチンは天然から多く採取することができ、こんなものつくって何になるか?意味があるのか?批判が多く、そういう意味でも話題になった化合物ですが、合成技術が確立された現在でもまだまだ困難な化合物は多数存在することを知らしめました。このようにして人間が化学合成する知見は広がっていくのです。決して無駄ではないと思います。中途半端なものをつくり、ケミカルバイオロジーという名のもとに類縁体の生物活性を調べたり、構造薬理活性相関を行う、それもよいですが、もう一度「効率的な合成」というものを見直す時期なのかもしれません。米国の若手研究者はすでにこのことに気づき、多くの研究者がこの分野に参入しています。
さて、続きは2007年10大ニュース(2)で!