ロシアで開かれた国際化学オリンピックで23日、日本代表の4人全員が銅メダルを獲得した。 4人は、開成高校(東京)3年の田中成さん(18)、筑波大付属駒場高校(東京)3年の角田翔太郎さん(18)、同校3年の広井卓思さん(17)、静岡県立清水東高校3年の山口一樹さん(18)。
大会には68か国・地域から265人が参加し、10日間の日程で実験・筆記試験に挑んだ。
銅メダルおめでとうございます!国際化学オリンピック、そんなものがあるとは化学の仕事に携わっている筆者でも、最近まで知りませんでした(実はもちろん化学以外の物理や、生物もあるらしい。)。いままでこのオリンピックに関してこのケムステニュースでも紹介してきましたが今一度紹介したいと思います。
国際化学オリンピックは1968年に東欧3ヵ国(ハンガリー、旧チェコスロバキア、ポーランド)が始めた高校生の学力試験から発展した、1年に1度開催される「化学」の国際大会です。つまり、文字通り高校生化学世界一を決める大会ですね(実際には最優秀者は一人ではない。)。現在は60ヶ国200人を超える各国の代表者が参加しています。なかなか問題も難しく、高校レベルで習わない用語もちらほら。筆記問題と実験問題があり、実技とそこから考える能力も問われるわけです。
今年は第39回でロシアのモスクワで試験が行われました。
出題される問題はもともと準備問題を解き、この準備問題、実際の試験問題に内容、出題傾向が類似しているためそれに従って学習をするわけです。今回は少しだけ問題を除いてみましょう。なお、実際の試験問題及び準備問題は国際化学オリンピックの公式ホームページに公開されています。
問題10: 不斉自己触媒作用 -キラル不斉の増幅
生体の本質はホモキラルである: ほとんど全ての天然のアミノ酸はL型配置をとり、一方糖類はD型配置をとる。この現象は、不斉自己触媒作用の概念に基づいて説明することができる。ある反応においては、キラル生成物が自己を生成する触媒として作用する。この反応の際に、一方の鏡像異性体の割合が高いほど合成の速度は大きくなる。
1.最も簡単な自己触媒作用の式は、A + P →2P である。ここで、Pは生成物である。反応は、試薬を一度に混合する閉鎖系、または濃度が一定になるように試薬Aを連続的に加える開放系において行われる。
閉鎖系と開放系それぞれの場合について、生成物Pに対する反応速度式および反応速度曲線を示せ。ただし、Pの初期濃度は0ではないが、十分に小さいと仮定する。
最初の不斉自己触媒作用は、1990年代初期に発見された。トルエン中での、ピリミジン-5-カルボアルデヒドへのジイソプロピル亜鉛の付加反応により、鏡像異性体X1とX2の混合物が生成する。その後、加水分解により、鏡像異性体であるアルコールY1とY2になる:2. XとYの鏡像異性体の構造を描き、それぞれの立体中心の絶対配置を示せ。
生成物Y1またはY2のどちらか一方が少量存在することにより、それに対応した生成物の生成反応が選択的に進行し、反応混合物中のその鏡像異性体の増加を促進することが分かった。ただし、各生成物の収率は、合成前のアルコール混合物中のその成分のモル分率の二乗に比例すると仮定せよ。
3.55%のY1を含むY1とY2の混合物1 mmolに、1 mmolのアルデヒドと1 mmolのジイソプロピル亜鉛を数回加える。アルコール混合物中のY1をa) 70%、b) 90%、c) 99%にするためには、試薬をそれぞれ何回加えればよいかを計算せよ。ただし、反応収率の合計は100%と仮定する。(引用:第39回国際化学オリンピック(ロシア)準備問題)
どうでしょう、大体不斉自己触媒反応(東京理科大学のそあい先生が発見した反応)から出題されるとは完全に高校レベルを超えています。内容的には意外と簡単なような気がしますが、高校生には相当ハードです。
問題2
逆相クロマトグラフィー:
酢酸とサリチル酸の中和滴定
酢酸(AA)とサリチル酸(SA)は極性が少し違うので、逆相カラムを用い、水を溶離液として流せば分離できる。AAが先に溶離される。混合溶液中のAAとSAの全量は滴定によって求められる。次に、AAとSAの量はクロマトグラフィーで分離してから別々に定量する。
2-1. 酸の混合物(MA)溶液の中のAAとSAの全量の決定
a) 蒸留水10 mLを、与えられたNaOH (< 5 mM) 溶液を用いて滴定せよ。蒸留水1 mLあたりに「初めから入っている酸の量」を、NaOH溶液の体積として答えよ。求めた「初めから入っている酸の量」は、以後のすべての溶液のデータを解析する際に考慮すること。計算欄にこの補正を明記すること。
b) KHP(フタル酸水素カリウム)の標準溶液(1.00 x 10-2 M)を2.00 mL用いて、NaOH溶液の濃度を決定せよ。滴定を繰り返し、NaOH溶液の濃度を答えよ。「初めから入っている酸の量」をどう考慮したかがわかるように記すこと。
c) MA溶液を1.00 mLとり、酸の全濃度を決定せよ。滴定を繰り返し、MA溶液1.00 mL中のAAとSAの物質量(モル数)の和を答えよ。
2-2. 逆相クロマトグラフィーによる分離と滴定
a) 新しいC-18カラムに、10 mLの注射器を使い、約10 mLの蒸留水を流せ。
b) カラムに1.00 mLのMA溶液を移せ。カラムの出口で試験管1に溶離液を集めよ
(分画1)。
c) 蒸留水1 mLを用いて溶離せよ。溶離液を別の試験管に集めよ(分画2)。この
操作を、分画20まで繰り返せ。それぞれ約1 mLの液体の入った20本の試験管が
得られる。
d) 各試験管中の酸の量を滴定で求めよ。各試験管で消費されたNaOHの体積と酸4の量を答えよ。酸の量を表すグラフを解答用紙のFig. 2-2に描け。
e) 「初めから入っている酸の量」のほか、バックグラウンド(カラムに残留し、洗い流される酸の量)も差し引かなければならない。溶離したAAの量を求める際には、微量の酸しか入っていない試験管は無視せよ。ほとんどのAAは試験管2と3に入る。これらの試験管に入っているAAの量を合計し、溶離されたAAの全量を計算せよ。同様にして、溶離されたSAの全量も計算せよ。それぞれの酸の量を求めるためにどの分画を用いたか、Fig. 2-2に付記せよ。
f) MA溶液中のAAのモル百分率を計算せよ(引用:第38回国際化学オリンピック(韓国)試験問題 )。
高校で逆層クロマトグラフィーを習った記憶はないですが、いろいろ高校で習うこと以外のことも勉強するのでしょうね。というわけでたった2問ですが、国際化学オリンピックの内容を紹介しましたが、前述したように公式ホームページにすべての問題、解答が公開されているので、腕試しにチャレンジしてみてはいかがですか。
- 関連リンク
国際化学オリンピック 公式ページ
国際化学オリンピック– Wikipedia