[スポンサーリンク]

ケムステニュース

DNAに電流通るーミクロの電子デバイスに道

[スポンサーリンク]

細胞の核にあり、遺伝情報を担うDNA(デオキシリボ核酸)の中を電流が流れることを、大阪大産業科学研究所の真嶋哲朗教授(光化学)の研究グループが突き止めた。DNAの2本の鎖がつくる二重らせんの幅は2ナノメートル(ナノは10億分の1)。これを利用してナノサイズの「電線」ができれば、半導体など超ミクロの電子デバイスの作製につながる。今週の米科学アカデミー紀要電子版に発表する。(引用:asahi.com)

 

 DNA(デオキシリボ核酸)は、生物すべての遺伝情報をつかさどる根源要素で、大変美しい二重らせん構造をとっていることはあまりにも有名です。

DNAに電流が流れる事実(電荷移動現象:Charge Transfer)そのものは、カリフォルニア工科大学のJacqueline Bartonらによって幾分前に示されていました[1]。では、今回のニュースの主題でもある、大阪大学の真嶋哲朗教授のグループが達成したこととはいったい何でしょうか?それは、DNAの電荷移動を「一分子レベルで直接観測することに成功した」[2]ということになります。

 

DNAの構成成分である塩基(アデニン・チミン・グアニン・シトシン)は、単純に水素結合で対に結びつくだけでなく、冒頭図のように層状に配列・相互作用(π-スタッキング)することで、構造の安定化に寄与していることが知られています。 この規則正しく近距離にある、π-スタッキング系を電子が連続的に飛び移ることでDNAに電流が流れる、というメカニズムが最もありうるものとして受け入れられています。しかし、実験的にこれを直接観測・確認することは困難でした。

真嶋教授らは単一分子分光(Single-Molecule Spectroscopy)という技術を用い、電荷移動効率は①塩基対配列に依存すること ②一つでもミスマッチ塩基対が存在すると格段に効率が低下すること を証明しています。これは、DNA電荷移動は主鎖ではなく塩基対を介して起きていることの強い証拠になります。

 

  • 関連文献

[1] Perspective: “Long-Range DNA Charge Transport”

Delaney, S.; Barton, J. K. J. Org. Chem.2003,68, 6475. DOI:10.1021/jo030095y

jo030095yn00001

The stack of base pairs within double helical DNA has been shown to mediate charge transport reactions. Charge transport through DNA can result in chemistry at a distance, yielding oxidative DNA damage at a site remote from the bound oxidant. Since DNA charge transport chemistry depends on coupling within the stacked base pair array, this chemistry is remarkably sensitive to sequence-dependent DNA structure and dynamics. Here, we discuss different features of DNA charge transport chemistry, including applications as well as possible biological consequences and opportunities.

[2] “Single-molecule observation of DNA charge transfer”

Takada,T.; Fujitsuka, M.; Majima, T. Proc. Natl. Acad. Sci., USA 2007,104, 11179. DOI:10.1073/pnas.0700795104

DNA charge transfer highly depends on the electronic interaction between base pairs and reflects the difference in the base composition and sequence. For the purpose of investigating the charge transfer process of individual DNA molecules and the optical readout of DNA information at the single-molecule level, we performed single-molecule observation of the DNA charge transfer process by using single-molecule fluorescence spectroscopy. The DNA charge transfer process, leading to the oxidation of the fluorescent dye, was explored by monitoring the on–off signal of the dye after the charge injection by the excitation of a photosensitizer. The photobleaching efficiency of the dyes by the DNA charge transfer specifically depended on the base sequence and mismatch base pair, demonstrating the discrimination of the individual DNA information. Based on this approach, the optical readout of a single-base mismatch contained in a target DNA was performed at the single-molecule level.

 

  • 外部リンク

大阪大学産業科学研究所 真嶋哲朗研究室
Jacqueline K. Barton Group(Caltech)
DNAと遺伝情報(有機って面白いよね!)
デオキシリボ核酸(Wikipedia)

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 粉いらずの指紋検出技術、米研究所が開発
  2. アレルギー体に抑制力:岐阜薬科大学長ら発見
  3. 富士写、化学材料を事業化
  4. picoSpin世界最小NMRシステムの販売開始
  5. エーザイ、抗体医薬の米社を390億円で買収完了
  6. カラス不審死シアノホス検出:鳥インフルではなし
  7. 室内照明で部屋をきれいに 汚れ防ぐ物質「光触媒」を高度化
  8. グラクソ、パーキンソン病治療薬「レキップ錠」を販売開始

注目情報

ピックアップ記事

  1. コーラから発がん物質?
  2. 塩野義製薬/米クレストール訴訟、控訴審でも勝訴
  3. 夏休みの自由研究に最適!~家庭でできる化学実験7選~
  4. 小スケール反応での注意点 失敗しないための処方箋
  5. 嵩高い非天然α,α-二置換アミノ酸をさらに嵩高くしてみた
  6. スルホキシイミンを用いた一級アミン合成法
  7. 新生HGS分子構造模型を試してみた
  8. 後発医薬品、相次ぎ発売・特許切れ好機に
  9. シュプリンガー・ネイチャーが3つの特設ページを公開中!
  10. 第7回日本化学会東海支部若手研究者フォーラム

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWS 34-1 号「創薬を支える計測・検出技術の最前線」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

医薬品設計における三次元性指標(Fsp³)の再評価

近年、医薬品開発において候補分子の三次元構造が注目されてきました。特に、2009年に発表された論文「…

AI分子生成の導入と基本手法の紹介

本記事では、AIや情報技術を用いた分子生成技術の有機分子設計における有用性や代表的手法について解説し…

第53回ケムステVシンポ「化学×イノベーション -女性研究者が拓く未来-」を開催します!

第53回ケムステVシンポの会告です!今回のVシンポは、若手女性研究者のコミュニティと起業支援…

Nature誌が発表!!2025年注目の7つの技術!!

こんにちは,熊葛です.毎年この時期にはNature誌で,その年注目の7つの技術について取り上げられま…

塩野義製薬:COVID-19治療薬”Ensitrelvir”の超特急製造開発秘話

新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類移行となり、昨年はこれまでの生活が…

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー