図のような1,2-ジオールは光学活性体でしょうか?不斉炭素(分子中の炭素原子に異なる四つの原子および原子集団が結合しているもの)を有するから光学活性体です。・・・というのは不正解です。これはメソ化合物といい、不斉炭素を有しながら分子内に対称面を持つために、光学活性体(キラルな化合物)ではありません。しかし、このアルコールの片方に選択的に何らかの官能基を導入することができれば、対称面がなくなり、キラルな化合物となります(不斉非対象化)。このような物質のことをプロキラルな化合物といいます。しかも鏡像体の1:1混合物であるラセミ体から片方の鏡像体を得るためにはどうしても収率が50%を超えないのに対し、メソ化合物からは100%得ることができます。?
そのためこのような不斉非対称化反応は非常に効率的です。通常、リパーゼなどの酵素を作用させることによって、この反応は実現できます。ただ酵素反応では適用反応が狭い、酢酸ビニルを使ってアセチル化するため、1,2ージオールや、1,3-ジオールの場合アセチル基の分子内転位反応によってラセミ化しやすいという欠点があります(言葉で書いてもよくわかりませんね。すみません。)。とはいっても非常によい反応で工業的にも使われております。
このような酵素の反応を模倣し、人工的な触媒で行うことができればすばらしいですよね。(実際いくつかの例は最近報告されています。)
今回ボストン大学のAmir H.Hoveyda教授とMarc L. Snapper教授らは共同してこの反応に取り組み以下のような反応を開発し、ネイチャーに報告しました。(Nature 2006, 443, 67)
この反応は、図のような触媒を使うことで、tert-ブチルジメチルシリル基(TBS基)の保護によりプロキラルなジオールを非対称化し、キラルなアルコールを得る方法です。触媒は使用量がちょっと多いのが気になりますが、アミノ酸由来で単段階で合成できるそうです。
アミノ基およびアミドのカルボニル基とジオールの水酸基が水素結合して近づき、イミダゾール部位でシリル化を促進し、逆側は大きなtert-ブチルで覆うことで高い光学収率で目的の生成物を得ることに成功しています。うまいですね。
ところで、最近、ネイチャーやサイエンスに報告される合成や化学反応が多い気がします。面白くなってきたのでしょうか?