DeepDyve社、どんな論文でも1日5分だけ無料で読めるサービスを開始
学術論文のオンラインレンタルサービスを手掛けるDeepDyve社が、「5分間フリーミアム」サービスを発表しました。これは、1日5分間だけどのような論文でもフルテキストを無料で閲覧できるというものです。
なお、同社は、この新サービスとともに、利用頻度の高い職業研究者や時々利用するユーザ等の利用実態に合わせた利用者別プランも発表しています。
図書館に関する情報ポータル(http://current.ndl.go.jp/node/23680)
- DeepDyve社のサービスとは?ウェブサイト(http://www.deepdyve.com/)抜粋訳
DeepDyve is the largest online rental service for scientific, technical and medical research.
DeepDyveは科学・技術・医療研究のための最も大きなオンライン貸出サービスです。
What does “renting” mean?
Renting articles is the simple and affordable way to get the high quality articles that you want, with the same layout and formatting as the printed or PDF versions.
“Rented” articles are available through DeepDyve’s cloud-based service and can be viewed through your browser from anywhere you have an internet connection.
Read the articles as much as you want during the rental period, which varies according to your account plan. Rented articles cannot be downloaded, printed or shared.
「貸出」の意味するところは?
記事貸出は、印刷版やPDF版と同じ配置と形式で、あなたの欲しがる高い質の記事を、手に入れるための、単純で手頃な方法です。貸出される記事は、DeepDyveのクラウドベースドサービスを通して利用可能であり、インターネット接続環境さえあれば、あなたのご使用のブラウザを通してどこでも閲覧できます。貸出期間中に何度でも好きなだけ記事をよむことができます。なお、アカウントのプランによって5分間か30日間か、期間は異なります。
What is a 5-minute rental?
5-minute rentals are a great way to scan through any rentable article, for free. You get to read the complete full-text of an article in your browser for 5 minutes.
You can do as many 5-minute rentals as you want for free– just not the same article twice in the same day.
「5分間貸出」とは?
5分間貸出とは、貸出可能な記事ならばすべてどれでもについて、目を通せるグレートな方法です。しかも、なんと無料。あなたのブラウザ上で、完全なフルテキストを5分間にわたり読むことができます。1日に1回ずつであれば、日をはさんで何度でも無料で5分間貸出が可能です。
What do I receive with my Freelancer Plan?
The Freelancer Plan is a free plan with the option to purchase $20 packs which allows you to rent any 5 articles for up to 1 year from the start of the plan. Once an article has been rented, it can be read as often as you like until its expiration in 30 days. Any pre-paid rentals that remain unused after 1 year will become void. The Freelancer Plan also gives you unlimited 5-minute rentals for any article in our system.
「フリーランスプラン」とは?
フリーランスプランでは、20ドルを払うと1年間有効な5記事を貸出される権利を、自由に買うことができます。いったん記事が貸し出されると、30日間の期間満了まで何度でも読み返すことができます。ただし、5記事分の貸出の権利は1年間以内にお使いください。フリーランスプランではさらに、5分間貸出のサービスが適用されます。
What do I receive with my Professional Plan?
The Professional Plan is $40 per month and entitles you to “virtually” unlimited rentals each month, i.e. you can rent up to 40 articles per month and/or purchase and download up to 40 PDFs per month for a 20% discount. If you need even more access, please contact us because you are extraordinary!
「プロフェッショナルプラン」とは?
プロフェッショナルプランでは毎月40ドルかかります。都合上、上限は40記事に設定してありますが、実質的にこのプランでは月に何度でもそれぞれの記事を貸出すことができます。1ヶ月に何記事を貸出しても料金は同じです。またPDFをダウンロードの場合は本来よりも2割引きでご利用できます。40記事以上、お読みになりたい場合は、特別待遇を考えるので、別途、ご相談ください。
もうお試ししましたか?DeepDyveここに期待!
DeepDyve新サービスに期待が集まる。
論文の公表方法はどうあるべきか。インターネットが普及し、世界の各都市が高度情報化社会を迎える中、各方面で議論が白熱しています[1],[2]。いわゆる図書館情報学の枠組みはもちろんのこと、市民との科学対話や、科学政策への貢献など、サイエンスコミュニケーションの観点でも、公表姿勢のあり方は関心高い項目のひとつです。
例えば、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health; NIH)のパブリックアクセスにおける先進的取り組みは、昨今、よく引き合いに出されます。アメリカ国民の健康を守るという目的のもと、補助を受けた研究成果はすべて、PubMed Central(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/)に電子版をデポジットすることが義務化されているのです。アメリカ政府が、国民の健康と、そのための医学研究についてどのように考えているのか、よく伝わってくる事例だと思います。同時に、政策決定権を持つ政治家に発信できてこその科学だという姿勢[3]のあらわれでもあるでしょう。
DeepDyveでは2013年6月から「5分間ちょっと見」が可能になりました。DeepDyveで利用可能な雑誌を調べたので次の表にまとめておきます。
ただしDeepDyve社の営業努力で2013年現在も貸出対応雑誌は増加中
ACS系列とAngewandte Chemie 以下ワイリーの化学材料系には今のところ対応していません。ワイリー社では現在26雑誌のみで様子見とのことです[4],[5]。化学屋には痛いですね。シュプリンガー社から出ているものはほとんど貸出対応しています[6]。やった、さすが。RSC系列は看板のChemical Science だけ貸出対応し、データ取りして今後次第でしょうか。毎月のように何十と貸出可能雑誌も増えているのでDeepDyve社の営業努力に今後も期待です。
- 今できること
とりあえず、現段階で、次のように考えて使ってみるのはいかがでしょう。ケムステ読者の方に提案です。
まず、機関購読している雑誌については、自宅でチラチラ見るときに便利だということ。Google Scholar等にも対応しはじめているので、検索の仕方を工夫すれば、利便もとれそうです。そして、機関購読していない雑誌では言わずもがな本領発揮であり、例えば次の3雑誌が注目です。
まず、1つ目。みなさんご存知「ネイチャー」。合成系の論文だけ機関購読していて、総合誌のネイチャーは取っていないというところは少なくないはず。本誌の他、いくつかの姉妹紙もDeepDyveにあります。ただ、たいへん残念ながらNature Chemistryはありません。
お父上様(?)もこうおっしゃっております
次に、2つ目。物理学最高峰「フィジカルレビューレターズ」。ノーベル物理学賞の大元論文も圧倒的に最多であり、物理屋さんの中で「フィジカルレビューレターズ」はたいへん権威ある雑誌だと聞いています。ぽっと出の「ネイチャー」や「サイエンス」に載るだけの論文はインパクト重視すぎてむしろ信用できないとか、せめて理論は先にフィジカルレビューレターズで固めとけとか、勢いのある発言もごにょごにょ(?)。
ぜひ読みたい!私撰「フィジカルレビューレターズ論文ベスト10」
※たまたま出会えたいきあたりばったりで選らんいるため、優れたインパクトある論文が他にあっても許してください。
[01] 結晶でもアモルファスでもない第三の構造をもつアルミニウムマンガン合金の準結晶“Metallic Phase with Long-Range Orientational Order and No Translational Symmetry.” Shechtman D et al. Phys. Rev. Lett. 1984 DOI: 10.1103/PhysRevLett.53.1951
[02] イットリウムバリウム銅酸化物高温超伝導体の発見“Superconductivity at 93 K in a new mixed-phase Y-Ba-Cu-O compound system at ambient pressure.” Wu MK et al. Phys. Rev. Lett. 1987 DOI: 10.1103/PhysRevLett.58.908
[03] カミオカンデによる超新星爆発に由来したニュートリノバーストの観測“Observation of a neutrino burst from the supernova SN1987A.” Hirata K et al. Phys. Rev. Lett. 1987 DOI: 10.1103/PhysRevLett.58.1490
[04] ベリリウム7の電子捕獲による核崩壊の場合はフラーレンの中で核反応が遅延する“Enhanced Electron-Capture Decay Rate of 7Be Encapsulated in C60 Cages.” Ohtsuki T et al. Phys. Rev. Lett. 2004 DOI: 10.1103/PhysRevLett.93.112501
[05] 高分子の準結晶“Polymeric Quasicrystal: Mesoscopic Quasicrystalline Tiling in ABC Star Polymers.” Hayashida et al. Phys. Rev. Lett. 2007 DOI: 10.1103/PhysRevLett.98.195502
[06] ダイヤモンドより硬いか窒化ホウ素と単体ローズデンライト炭素で理想条件を予測演算“Harder than Diamond: Superior Indentation Strength of Wurtzite BN and Lonsdaleite.” Pan Z et al. Phys. Rev. Lett. 2009 DOI: 10.1103/PhysRevLett.102.055503
[07] グラフェンのケイ素版にあたるシリセンの物性の実験証拠“Experimental Evidence for Epitaxial Silicene on Diboride Thin Films.” Fleurence A et al. Phys. Rev. Lett. 2012 DOI: 10.1103/PhysRevLett.108.245501
[08] 芳香族炭化水素からのクーパー対の観測
“Photoemission of Cooper Pairs from Aromatic Hydrocarbons.” Wehlitz R et al. Phys. Rev. Lett. 2012 DOI: 10.1103/PhysRevLett.109.193001 [09] 光合成産物輸送コストによる背の高い樹木の葉のサイズを決める物理要因“Physical Limits to Leaf Size in Tall Trees.” Jensen KH et al. Phys. Rev. Lett. 2013 DOI: 10.1103/PhysRevLett.110.018104
[10] 金属アルミニウムは表面と平行な酸素分子で酸化される決定的な証拠“Steric effect in O2 sticking on Al(111): Preference forparallel geometry.” Kurahashi M et al. Phys. Rev. Lett. 2013 DOI: 10.1103/PhysRevLett.110.246102
arXiv等でプレプリントが読める場合もありますけど
そして、3つ目。セル姉妹紙から「カレントバイオロジー」。セルプレスとしては本誌「セル」はDeepDyve未対応にして、この「カレントバイオロジー」で様子見といったところでしょうか。「カレントバイオロジー」には変わった生き物のちょっとツッコんだ研究やユニークな手法でアプローチした研究がちょくちょく載ります。セル本誌は重厚で気合い入れないとなかなか読破できませんが、こちらはちょっと興味がそそられただけくらいの動機でも読みやすいため、おススメです。
ぜひ読みたい!私撰「カレントバイオロジー論文ベスト10」
※たまたま出会えたかいきあたりばったりで選んでいるため、優れたインパクトある論文が他にあっても許してください。
[01] リグニンの材料となるモノリグノールを細胞内から細胞外へ排出する輸送体ABCG29を発見“AtABCG29 Is a Monolignol Transporter Involved in Lignin Biosynthesis.” Alejandro S et al. Curr. Biol. 2012 DOI: 10.1016/j.cub.2012.04.064
[02] ノコギリエイの突起は獲物に衝撃を与えることと刺激を感知することの両方の役割を持つ“The function of the sawfish’s saw.” Wueringer BE et al. Curr. Biol. 2012 DOI: 10.1016/j.cub.2012.01.055
[03] フンコロガシは真っ直ぐ歩く目印に天の川を使う“Dung Beetles Use the Milky Way for Orientation.” Dacke M et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2012.12.034
[04] ホワイトタイガーにはメラニン輸送体SLAC45A2がアラニンからバリンに置換する変異がある“The Genetic Basis of White Tigers.” Xu X et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.04.054
[05] ガチョウと異なりニワトリなど多くの鳥のオスの生殖器が小さく進化したBMP4ペプチドによる仕組み“Developmental Basis of Phallus Reduction during Bird Evolution.” Herrera et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.04.062
[06] 遺伝子操作でアントシアニンを作らせた紫色のトマトは2倍ほど長持ちする“Anthocyanins Double the Shelf Life of Tomatoes by Delaying Overripening and Reducing Susceptibility to Gray Mold.” Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.04.072
[07] 化石記録によればエウノトサウルスはカメの祖先である“Evolutionary Origin of the Turtle Shell.” Lyson TR et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.05.003
[08] 人だけではなく鳥も歌いながら気が向けば調べに合わせて踊りもする“Dance Choreography Is Coordinated with Song Repertoire in a Complex Avian Display.” Dalziell AH et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.05.018
[09] キャベツなど作物の生物時計による成分変化は昆虫の生活習慣に合わせ収穫後も継続する“Postharvest Circadian Entrainment Enhances Crop Pest Resistance and Phytochemical Cycling.” Goodspeed D et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.05.034
[10] ニワトリは生物時計で陽が登る前から鳴きはじめる“Circadian clock determines the timing of rooster crowing.” Tsuyoshi Shimmura et al. Curr. Biol. 2013 DOI: 10.1016/j.cub.2013.02.015
セルプレスは総じて遅延オープンアクセスなので待てば読めますけど
無料でできることも多いので、まずは試してみることをおすすめします。
参考文献
[1] 科学出版の本当のコスト: 低コストのオープンアクセスジャーナルの出現で、論文掲載料に対する出版社の付加価値に関して疑問の声が上がっている。 [2] オープンアクセスの早期実現のために:インターネット上の学術文献に誰もが無料でアクセスできるようにするオープンアクセス運動を支持する3人が、論文の「発見されやすさ」から自国語への翻訳まで、この運動を次の段階に進めるための処方を提案する。 [3] 科学を誰に伝える? [4] Wiley-Blackwell、DeepDyveから論文提供を行うパイロットジャーナル26誌を発表 [5] Wiley-Blackwell Announces Pilot Program for Biotechnology Journals with DeepDyve [6] Springer content now available via DeepDyve’s online rental service for scholarly publications