ブライアン・コビルカ (Brian K. Kobilka、1955年5月30日-)はアメリカ合衆国の分子生化学者であり、Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor; GPCR)のアミノ酸配列および遺伝子の塩基配列の決定、ならびにエックス線結晶構造解析による立体構造の解明によって、2012年にロバート・レフコウィッツとともにノーベル化学賞を受けました(画像:University of Washington)。
経歴
1988 エール大学 MD取得
受賞歴
2012 ノーベル化学賞
研究概要
ヒトをはじめとする多細胞生物は、細胞どうしお互いに情報を担う分子をやりとりして、信号を交わしコミュニケーションしています。このシグナル物質を認識する装置は、しばしばGタンパク質共役型受容体と呼ばれるタンパク質であり、アドレナリン受容体の他、実際の具体例は枚挙にいとまがありません。鍵になるアドレナリンと、鍵穴になるアドレナリン受容体の組が一体となって、生命現象を調節していくのです。
ブライアン・コビルカは、ロバート・レフコウィッツのポスドクとしてGタンパク質共役型受容体のひとつアドレナリン受容体の同定を目指して、1986年[1]には遺伝子をクローニングし、そこから全長アミノ酸配列を決定することに成功しました。このアドレナリン受容体とアミノ酸配列の似た数々のGタンパク質共役型受容体には、いまだリガンド分子の不明なものがたくさん存在し、また薬剤分子の標的であることも多いことから、今も盛んに研究が進められています。
ブライアン・コビルカらは、2007年[2]にはエックス線結晶構造解析によってアドレナリン受容体の立体構造を解明。膜タンパク質かつ複数のサブユニットの複合体ということで難易度の高い業績であり、再び注目を集めました。これにより、他のGタンパク質共役型受容体についてもアドレナリン受容体を鋳型にした立体構造予測が可能になり、薬剤分子の設計をはじめ各方面に大きな影響を与えました。
立体構造情報はPDB(Protein Data Bank)より
かつて、アミノ酸の点変異導入で明らかにされていたところによると、アドレナリンの認識には複数の領域が関与しています。そのため、全長タンパク質ではなくリガンド結合領域だけを結晶構造解析する手法は使えませんでした。かなり広い領域のアミノ酸が協調して、アドレナリンのようなリガンド分子を認識しているため、Gタンパク質共役型受容体に属するタンパク質は「やわらかい」構造をしており、このことも結晶化を困難にしていました。ブライアン・コビルカらは、アドレナリンのGタンパク質共役型受容体と相互作用する抗体タンパク質を作成し、共結晶とすることでこの難題を突破しました。
カラゾロールはアドレナリン高親和アンタゴニスト
アドレナリンの代わりに使われたカラゾロールは、高親和アンタゴニスト(標的タンパク質に結合するがシグナル伝達にスイッチを入れる生理活性はなく競合して内生のシグナル分子の作用を阻害する薬剤) であり、日本国内では畜産動物のストレス軽減などで使われています。
参考論文
[1] Dixon RA, Kobilka BK, Strader DJ, Benovic JL, Dohlman HG, Frielle T, Bolanowski MA, Bennet CD, Rands E, Diehl RE, Mumford RA, Slater EE, Sigal IS, Caron MG, Lefkowitz RJ, Strader CD (1986) “Cloning of the gene and cDNA for mammalian beta-adrenergic receptor: primary structure and membrane topology.” Nature DOI:10.1038/321075a0 [2] Rasmussen SG, Choi H, Rosenbaum DM, Kobilka TS, Thian FS, Edwards PC, Burghammer M, Ratnala VRP, Sanishvili R, Fischetti RF, Schertler GFX, Weis WI, Kobilka BK. (2007) “Crystal structure of the human beta2 adrenergic G-protein coupled receptor.” Nature DOI: 10.1038/nature0632