経歴
1961 名古屋大学理学部 卒業(平田義正教授、後藤俊夫助教授)
1966 名古屋大学理学研究科博士課程修了(平田義正教授、後藤俊夫助教授)
1966-69 名古屋大学 理学部 講師
1966-1968 ハーバード大学 博士研究員(R. B. Woodward教授)
1969-74 名古屋大学 農芸化学部 助教授
1972-73 ハーバード大学客員教授
1974 ハーバード大学 教授
1982- ハーバード大学教授(Morris Loeb Professor of Chemistry)
1989-92 ハーバード大学化学科主任(Chairman for the Department of Chemistry)
1997 ハーバード大学特任教授(Morris Loeb Research Professor of Chemistry)
兼任
1997 Eisai Research Insistute Chairman
Eisai Co, Ltd. Board of Director, Chief Scientific Advisor, CED
2010 名古屋大学特別教授
受賞歴
1981 Harrison Howe Award
1988 アーサー・C・コープ スカラー賞
研究概要
海洋産天然物の全合成を通じた有機合成・天然物化学への貢献
神経毒(palytoxin, tetrodotoxin, saxitoxin, batrachotoxin, pinnatoxin A)、ポリエーテル系抗生物質(monensin, lasalocid A, salinomycin/narasin)、アンサマイシン系抗生物質(rifamycin S)、抗腫瘍活性天然物(halichondrins, mitomycins)、発癌プロモーター(aplysiatoxins)、二次代謝物(gliotoxins, sporidesmins)、その他(ophiobolins, Cypridina luciferin)など多数の天然物の全合成を達成。またパリトキシン、海ホタルルシフェリン、マイトマイシンなどの天然物構造決定にも貢献している。
中でも彼が圧倒的なスピードで全合成を完了したパリトキシン[1]・テトロドトキシン[2]・サキシトキシン[3]・ハリコンドリンB[4]・マイトマイシン[5]・バトラコトキシニン[6]などは、現代的な合成技術をもってしても化学合成がきわめて難しいものばかりである。
パリトキシンは人類によって化学合成された構造確定済天然物としては最大のサイズを誇り、不斉炭素も64個存在し、単一立体異性体として合成することは当時の疑いない最先端課題であった。彼は合成経路にアリル1,3-反発などを巧みに組み込んだ鎖状化合物の立体制御法を活用し、これらの問題を統一的に解決している。
最近ではポリオール系化合物の構造決定に利用できるNMRデータベースの開発研究も行っている。
野崎-檜山-岸カップリング反応の開発
大きなパーツ同士を化学選択的に結合できるフラグメントカップリング反応は、合成経路の収束化を促すことで、合成効率の劇的な向上をもたらすことになる。
京都大学の野崎・檜山らの報告したクロム(II)を用いる穏和な還元的カップリング反応に対し、微量のニッケル金属の共存が重要であることを突き止めたうえで最適条件を確立[7]。現在では野崎-檜山-岸(NHK)カップリング反応という人名反応として広く認知されている。
また岸教授は巨大天然物合成の鍵反応として本反応を自ら多用しており、その力量は余すこと無く実証されている。
例えば以下はハリコンドリン部分構造の化学合成の俯瞰図だが、多数回の不斉NHK反応が実際に使用されている[8]。
抗ガン剤ハラヴェン(エリブリン、E7389)の開発と実用化
自ら成し遂げたハリコンドリンBの全合成から、右半分の部分構造が強い抗ガン活性と良好な医薬特性を持つことを発見。エーザイ社との共同研究によってこれをラージスケールで合成、様々な試験を経たのち、転移性乳がんなどに適用を持つ抗ガン剤(商品名ハラヴェン)として市販することに成功した。これほどまでに複雑な構造を持つ人工化合物を大量合成し、実用医薬として成立させた例は人類史上はじめてのことである。
この前人未踏の偉業は、天然物の単離構造決定→その全合成→医薬への応用というプロセスで達成されており、いずれのステージにも日本人化学者が多大なる貢献を果たしている。天然物化学界のサクセスストーリーとして物語られる。
コメント&その他
名言集
関連文献
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- Kishi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 15636.DOI: 10.1021/ja9058475
- Eisai Inc. Synlett 2013, 24, 323, 327, 333.
- “Research Summary of Kishi Group” Heterocycles 2007, 72, 7. DOI: 10.3987/2007-72-0007
関連書籍
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- 岸義人 – Wikipedia
- Yoshito Kishi – Wikipedia
- エリブリン – Wikipedia
- Succes Story: The Halichondrin and E7389(PDF, Kanai Group)
- Yoshito Kishi, Morris Loeb Professor of Chemistry, Emeritus (Harvard University)