人羅 勇気(ひとら ゆうき, 1987年5月3日-)は、日本の化学者である。熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター・准教授。専門は天然物化学。第50回ケムステVシンポ講師。
経歴
2010 東京大学農学部 卒業
2015 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了
2015 理化学研究所吉田化学遺伝学研究室訪問研究員・JSPS特別研究員PD
2016 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)・助教
2018 熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター・助教
2022 熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター・准教授(現職)
受賞歴
2021 日本薬学会生薬天然物部会奨励研究
2022 第64回天然有機化合物討論会奨励賞
2024 日本生薬学会学術奨励賞
研究業績
海洋生物や微生物、植物など様々な生物種を対象とした天然物の探索研究に取り組んできた。タンパク質分解制御機構であるユビキチン―プロテアソームシステムを標的とする天然物の探索や、効率的な天然物探索を可能にする分析手法の開発に取り組んでいる。
ユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)依存的なタンパク質分解を阻害する天然物の探索
ユビキチンープロテアソームシステム(UPS)は、細胞内のタンパク質の分解制御機構である。UPSは、細胞内の不要となったタンパク質を選択的に分解することにより、生体内のタンパク質の恒常性を維持し、細胞周期の進行やシグナル伝達、免疫反応など様々な生体反応を制御している。UPSの異常は、がんや免疫疾患、神経変性疾患と関連しており、UPS依存的なタンパク質分解を阻害する化合物は抗がん剤として利用されている。
構造多様性に富む天然物はUPS阻害物質の有用な探索源である。UPSによって分解されるレポータータンパク質を発現させたがん細胞を用いて微生物や海洋生物のエキスライブラリをスクリーニングすることにより、UPS依存的なタンパク質分解を阻害する天然物を複数発見した[1]。さらに、スクリーニングによって見出したRemotididymella属真菌からMellain類を発見し、プロテアソームによるタンパク質分解を阻害することを明らかにした[2]。
20Sプロテアソームの活性化物質の探索
UPSにおいてユビキチン化されたタンパク質の分解を担う26Sプロテアソームは、酵素活性を有する20Sプロテアソームと19S複合体が会合した巨大な酵素複合体である。20Sプロテアソームは、αリングとβリングがαββαの順に会合した円柱状の構造をとる。通常20Sプロテアソームは基質の取り込み口となるαリングが閉じた不活性な状態である。近年、αリングを開口させる低分子化合物は、神経変性疾患の原因とされている天然変性タンパク質のプロテアソームによる分解を促進させることができることが明らかにされ、神経変性疾患の新たな治療戦略として注目されている[3]。天然物スクリーニングによって、20Sプロテアソーム活性化物質を発見することができると考え、20Sプロテアソームを用いた酵素試験系を用いて天然物ライブラリをスクリーニングした。その結果、活性化作用を示す複数の天然物を発見し、その中でもreserpineおよびsyrosingopineが強力な20Sプロテアソーム活性化作用を有することを明らかにした。さらに、syrosingopineが20Sプロテアソームによる-synucleinの分解を促進するとともに、細胞内のプロテアソームを活性化させる作用を有することを明らかにした[4]。
LC-MS/MS分析を用いた天然物の探索研究
微生物や海洋生物、植物のエキスには数百種類以上の化合物が混在しているので、生物活性物質を単離するまでに多段階の分画と生物活性試験が必要である。さらに多大な労力と時間を要して単離した化合物の構造を決定した結果、既に生物活性に関する報告がされている“既知化合物の再発見”に至る可能性も高い。そこで近年は、LC-MS/MSによる成分の網羅分析と情報解析技術を組み合わせることにより迅速に活性成分を同定する様々な分析技術が開発されている。自動データーベース照合による化合物同定やLC-MS/MS分析と生物活性情報の統合解析技術を融合した天然物の分析手法を開発し、効率的な天然物探索を試みている。
名言集
コメント&その他
関連動画
関連文献
[1] Hitora, Y.; Tsukamoto, S. J. Syn. Org. Chem. Jpn. 2023, 81, 1073. DOI:10.5059/yukigoseikyokaishi.81.1073
[2] Nishimura, S.; Hitora, Y.; Kawahara, T.; Tanabe, M.; Ogata, E.; Kato, H.; Srikoon, P.; Watanabe, T.; Tsukamoto, S. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2022, 59, 128566. DOI:10.1016/j.bmcl.2022.128566
[3] Njomen, E.; Tepe, J. J. J. Med. Chem. 2019, 62, 14, 6469. DOI:10.1021/acs.jmedchem.9b00101
[4] Sadahiro, Y.; Nishimura, S.; Hitora, Y.; Tsukamoto S. J. Nat. Prod. 2024, 87, 554. DOI:10.1021/acs.jnatprod.3c00661