服部 倫弘 (Tomohiro Hattori) は、日本の有機化学者。中部大学先端研究センター 特任准教授。第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」講師。専門分野はペプチド合成化学、フロー有機合成化学。
経歴
2013 岐阜薬科大学薬学科 卒業
2017 岐阜薬科大学大学院薬学研究科 博士号取得(佐治木弘尚 教授)
2017 中部大学分子性触媒研究センター 特定助教(山本尚 教授)
2020 中部大学先端研究センター 特任講師
2023–現在 中部大学先端研究センター 特任准教授
受賞歴
2023 Thieme Chemistry Journals Award 2023
2023 有機合成化学協会奨励賞
研究業績
・無保護アミノ酸へのペプチド伸長技術の開発
1932 年に Bergmann と Zervas らがペプチド合成に保護基を適用して以降[1]、ペプチド合成において保護基の概念は定着しております[2]。ペプチド結合形成反応における保護基は自己縮合や反転縮合、過剰反応などの副反応を抑制し、目的とする反応を選択的に実行するためには不可欠とされています。一方で、伸長反応の度に繰り返される保護脱保護工程は総収率の低下を招き、保護基の残骸や処理溶媒など多くの副生物が産出されます。これらの背景から我々は保護基を一切使用しない位置選択的な交差縮合反応の確立を目指し、研究を展開しております。
無保護アミノ酸とビスイミダゾリルシラン[3]もしくはトリメチルアルミニウム[4]を攪拌すると比較的安定な五員環中間体が速やかに形成されることを見出しました。この中間体がアミノ酸アミノ基の系内保護と C 末端エステル活性化という二つの役割を果たし、アミノ酸エステルとの縮合反応が円滑に進行致します。この中間体を連続的に系内に添加することで直列型連続ペプチド伸長反応が可能となりました。
・直列型連続ペプチド伸長反応
特にビスイミダゾイルシランとの五員環中間体は密閉な反応場での安定性が高く、アミノ酸シリルエステルとの交差縮合が円滑に進行致します。この反応では反転縮合や自己縮合を抑制し、目的とする交差縮合体が選択的に得られるため、これまでに前例のない無保護アミノ酸同士による位置選択的交差縮合反応として確立することができました[5]。この基質適用範囲は極めて広く、天然アミノ酸および活性官能基を有する非天然アミノ酸に適用可能であることを確認し、80 種類を超える誘導体の単離に成功しております。
・無保護アミノ酸同士の交差縮合反応
シラサイクリック化合物はそのユニークな構造上の特徴から両末端での伸長が可能な原料であり、この環構造を保持したまま進行する C 末端伸長を確認致しました。ここで得られたシラサイクリックトリペプチド同士の縮合反応を検証することによりペプチドを単位とする収束型合成が実現致しました。これらの技術を使用して Thymopentin、Pentagastrin の配列形成や Semaglutide、Liraglutide、Exenatide などに共通して含まれるオリゴペプチド配列構築を短工程で達成致しました。
・収束型連続ペプチド伸長反応
・活性ペプチド配列合成例;
関連文献
- Bergmann, M.; Zervas, L., Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1932, 65B, 1192. DOI:10.1002/cber.19320650722
- Isidro-Llobet, A.; Álvarez, M.; Albericio, F., Chem. Rev. 2009, 109, 2455. DOI:10.1021/cr800323s
- Hattori, T.; Yamamoto, H., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 1758. DOI:10.1021/jacs.1c11260
- Hattori, T.; Yamamoto, H., Chem. Sci. 2023, 14, 5795. DOI:10.1039/d3sc00208j
- Hattori, T.; Yamamoto, H., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 25738. DOI:10.1021/jacs.4c08049
関連リンク
・https://www.chubu.ac.jp/research/institute/molecular-catalyst/member/hattori/